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四
四①
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職探しが振りだしに戻ってしまった里帆は、とりあえず目の前の業務に集中することにした。十二月は年末と言うこともあり神社は七五三に続き、再び繁忙期を迎えるのだ。加えて今年は十二月中旬に挙式をするカップルが一組いる。
神前式では、巫女は神楽奉納と言って新郎新婦の門出を見守ってくれた神への感謝と、今後も見守って戴けるように舞を奉納するのだ。
その神楽奉納の舞を舞う巫女に、里帆は選ばれた。パートナーとなるもう一人の巫女は、初めて舞を奉納する者だった。里帆はこの後輩の巫女と共に舞の練習を行うことを中心に、年末年始にかけて雇われたアルバイトの巫女への教育も行うこととなり、忙しい日々を送ることとなった。
あまりにも忙しく、手が回らないと感じた里帆は今まで教育してきた後輩たちに、アルバイトの巫女の教育を任せることにした。人に教えることで自身も成長できることを、里帆は知っていたのだ。もちろん何かあれば自分の責任になることも里帆は承知の上で、アルバイトの教育を後輩たちに任せたのだった。
そして自身は自分の舞と、一緒に舞う後輩の巫女の指導に専念するのだった。
「最近、里帆は仕事が大変なの?」
ある日の夕飯の時間、ラファエルは里帆の部屋でテレビを眺めながら訊いてきた。以前姿を消して以来、ラファエルは里帆の食事の時間はテレビを見て過ごすことにしたのだ。この時間はどのチャンネルもバラエティ番組がやっており、そのうちの一つをラファエルは眺めている。
そう、ラファエルは視線を里帆へは投げかけていなかった。里帆はそのことをあまり気にせず、食事の手を止めることなく口を開いた。
「そうね。一応責任者だから、この時期は特に、ね」
それに、と里帆は続ける。
今年は巫女としての最後の年末になるのだと。
「だから、中途半端に終わらせたくはないの」
「ふーん?」
話を聞いているのかいないのか、ラファエルはテレビから視線を外すことなく声を発した。さすがにその態度に違和感を覚えた里帆は、
「ラファエル、何か怒ってる?」
そう言って食事の手をとめた。ラファエルは相変わらずテレビから視線を外すことなく、
「僕は怒っていません」
その口調が綺麗な棒読みで、里帆の違和感はますます強くなる一方だ。ラファエルは明らかに何かに不満を持っている。そのはずなのだが、里帆はラファエルに話す気がないと感じ、それ以上を追及することをやめて、夕食の続きを摂るのだった。
里帆が夕飯の片付けをしている間も、シャワーを浴びる準備をしている時も、ラファエルは何が面白いのかテレビに釘付けで里帆の方をチラリとも見ることはなかった。いつもなら、うるさいくらい話しかけてくるラファエルが今日に限ってやけにおとなしい。さすがの里帆も普段とは違うラファエルの様子に疑問を抱く。
(私、何か怒らせるようなこと、したかな……?)
シャワーを浴びながら里帆は夕飯前までの出来事を思い返す。今朝はいつも通り一緒に神社へと出勤した。
(その時は別に、いつも通りだった、はず……)
出勤する里帆を、ラファエルはいつもの笑顔で見送ってくれたのだ。それから退勤するまで、里帆は舞の練習をしていたのでラファエルがどこで何をしていたのかは分からない。
(もしかして、この寒い中ずっと境内のベンチで待っていた……、なんてことは……)
シャワーを浴びながら辿り着いた一つの答えに、里帆はまさかな、と首を横に振ろうとしたのだが、
(ラファエルなら、外にずっといるかも……! ありえない話じゃない!)
人間とは少しずれた感性の持ち主であるラファエルなら、あの寒空の下、ずっと境内のベンチに座って待っていてもおかしくはないと思い直す。
(一度、ちゃんと話さないと!)
里帆はそう思うと、シャワーを終えて風呂場を出る。長い髪をタオルで巻いて部屋に入ると、ラファエルはまだテレビを眺めていた。
「ねぇ、ラファエル」
「んー?」
里帆が声をかけてもラファエルはこちらを振り返ることなく曖昧な返事をする。その態度にカチンときた里帆が足音も荒くラファエルに近付くと、その肩を後ろからぐいっと自分の方に引き寄せた。ラファエルはその反動で思わずテレビから視線を外し、里帆の顔を見ることになる。
「何するの? 里帆」
険を含んだラファエルの言葉に里帆は一瞬たじろいだが、それよりもそんな態度のラファエルに対する苛立ちの方が勝った。
「それはこっちの台詞よ。さっきから一体何を怒っているの?」
「怒ってないってば!」
「ほら、また! 怒っているじゃない!」
「怒ってないっ!」
二人の間に無言の時間が落ちる。しばらくにらみ合っていたが、
「はぁ……」
里帆が短く嘆息する。このままでは全く埒があかない。里帆はしゃがんで座っているラファエルに視線を合わせる。
「毎日毎日、寒い中で待ちぼうけさせていてごめんね。でも、これが最後の巫女としての仕事なの。だから、ラファエルには応援して欲しい」
真っ直ぐにラファエルの目を見つめて言う里帆に、ラファエルが一つの疑問を口にする。
神前式では、巫女は神楽奉納と言って新郎新婦の門出を見守ってくれた神への感謝と、今後も見守って戴けるように舞を奉納するのだ。
その神楽奉納の舞を舞う巫女に、里帆は選ばれた。パートナーとなるもう一人の巫女は、初めて舞を奉納する者だった。里帆はこの後輩の巫女と共に舞の練習を行うことを中心に、年末年始にかけて雇われたアルバイトの巫女への教育も行うこととなり、忙しい日々を送ることとなった。
あまりにも忙しく、手が回らないと感じた里帆は今まで教育してきた後輩たちに、アルバイトの巫女の教育を任せることにした。人に教えることで自身も成長できることを、里帆は知っていたのだ。もちろん何かあれば自分の責任になることも里帆は承知の上で、アルバイトの教育を後輩たちに任せたのだった。
そして自身は自分の舞と、一緒に舞う後輩の巫女の指導に専念するのだった。
「最近、里帆は仕事が大変なの?」
ある日の夕飯の時間、ラファエルは里帆の部屋でテレビを眺めながら訊いてきた。以前姿を消して以来、ラファエルは里帆の食事の時間はテレビを見て過ごすことにしたのだ。この時間はどのチャンネルもバラエティ番組がやっており、そのうちの一つをラファエルは眺めている。
そう、ラファエルは視線を里帆へは投げかけていなかった。里帆はそのことをあまり気にせず、食事の手を止めることなく口を開いた。
「そうね。一応責任者だから、この時期は特に、ね」
それに、と里帆は続ける。
今年は巫女としての最後の年末になるのだと。
「だから、中途半端に終わらせたくはないの」
「ふーん?」
話を聞いているのかいないのか、ラファエルはテレビから視線を外すことなく声を発した。さすがにその態度に違和感を覚えた里帆は、
「ラファエル、何か怒ってる?」
そう言って食事の手をとめた。ラファエルは相変わらずテレビから視線を外すことなく、
「僕は怒っていません」
その口調が綺麗な棒読みで、里帆の違和感はますます強くなる一方だ。ラファエルは明らかに何かに不満を持っている。そのはずなのだが、里帆はラファエルに話す気がないと感じ、それ以上を追及することをやめて、夕食の続きを摂るのだった。
里帆が夕飯の片付けをしている間も、シャワーを浴びる準備をしている時も、ラファエルは何が面白いのかテレビに釘付けで里帆の方をチラリとも見ることはなかった。いつもなら、うるさいくらい話しかけてくるラファエルが今日に限ってやけにおとなしい。さすがの里帆も普段とは違うラファエルの様子に疑問を抱く。
(私、何か怒らせるようなこと、したかな……?)
シャワーを浴びながら里帆は夕飯前までの出来事を思い返す。今朝はいつも通り一緒に神社へと出勤した。
(その時は別に、いつも通りだった、はず……)
出勤する里帆を、ラファエルはいつもの笑顔で見送ってくれたのだ。それから退勤するまで、里帆は舞の練習をしていたのでラファエルがどこで何をしていたのかは分からない。
(もしかして、この寒い中ずっと境内のベンチで待っていた……、なんてことは……)
シャワーを浴びながら辿り着いた一つの答えに、里帆はまさかな、と首を横に振ろうとしたのだが、
(ラファエルなら、外にずっといるかも……! ありえない話じゃない!)
人間とは少しずれた感性の持ち主であるラファエルなら、あの寒空の下、ずっと境内のベンチに座って待っていてもおかしくはないと思い直す。
(一度、ちゃんと話さないと!)
里帆はそう思うと、シャワーを終えて風呂場を出る。長い髪をタオルで巻いて部屋に入ると、ラファエルはまだテレビを眺めていた。
「ねぇ、ラファエル」
「んー?」
里帆が声をかけてもラファエルはこちらを振り返ることなく曖昧な返事をする。その態度にカチンときた里帆が足音も荒くラファエルに近付くと、その肩を後ろからぐいっと自分の方に引き寄せた。ラファエルはその反動で思わずテレビから視線を外し、里帆の顔を見ることになる。
「何するの? 里帆」
険を含んだラファエルの言葉に里帆は一瞬たじろいだが、それよりもそんな態度のラファエルに対する苛立ちの方が勝った。
「それはこっちの台詞よ。さっきから一体何を怒っているの?」
「怒ってないってば!」
「ほら、また! 怒っているじゃない!」
「怒ってないっ!」
二人の間に無言の時間が落ちる。しばらくにらみ合っていたが、
「はぁ……」
里帆が短く嘆息する。このままでは全く埒があかない。里帆はしゃがんで座っているラファエルに視線を合わせる。
「毎日毎日、寒い中で待ちぼうけさせていてごめんね。でも、これが最後の巫女としての仕事なの。だから、ラファエルには応援して欲しい」
真っ直ぐにラファエルの目を見つめて言う里帆に、ラファエルが一つの疑問を口にする。
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