元伯爵令嬢の結婚生活～幸せな繋がり～

婚約期

元恋人

　マリィアンナは貴族らしい服装をした淡い青色の髪・緑の瞳の見知らぬ女性をちらっと見てから、声をかけられたアルベルトの様子を伺った。
アルベルトは眉をひそめていた。スッと顔だけ振り返り、口を開いた。

「何の用だ」
「アルベルト様！わたくしお会いしたかったのですわ。何度も出向いたのですがー」
「君とはもう何の関係もない。」
「そんな！でもわたくしはアルベルト様をー」
「私は婚約したのだから君と関係は続けられない。もう会いに来ないでくれ」

アルベルトは女性をはっきりと拒絶した。
女性は瞳から涙をこぼれんばかりに溢れさせ震えていた。
女性は震える声でなおもアルベルトへ話しかける。

「そのお方が婚約者ですの？新しい恋人ですの？わたくしではなくその方とー」
「君にはー」
アルベルトの返事を遮るように女性は話し続けた。
「その方にも宝石をプレゼントいたしましたの？カフェにいきましたの？楽しいひと時を過ごしますの？わたくしよりアルベルト様を癒してさしあげられますの？」
「いい加減にー」
「わたくしよりその方を愛していますの？」

女性は淑女にあるまじき大きな声でアルベルトに涙を流しながら訴えた。

「わたくしは！わたくしはアルベルト様を愛してるのに！アルベルト様だけなのに！」

この女性はアルベルト様が婚約前に付き合っていた恋人かしら…
私はこの場合、どうすればいいのかしら…困るわ…


マリィアンナはアルベルトは恋人とは清算済みと思っていたが、まだ女性の方は未練があることに困惑して事態を見守るしかなかった。

アルベルトはため息をつき、冷たい声で言い放った。
「婚約者を愛していようと愛してなかろうが君に関係ない。私が彼女に求めるものは癒しではなく我が伯爵位を共に支える事なのだから」

女性は唇を噛んでうつむいた。
プルプル震えてブツブツと呟いていた。
「そんな女よりわたくしの方が！わたくしの方がアルベルト様を…支えてあげられる！わたくしの方が…」

アルベルトは目を細めて女性を一瞥した後、マリィアンナの腕を軽く引っ張り
「さぁ、行こう」
と、その場を早く離れようとした。
マリィアンナは促されたまま馬車へ乗り込もうとしたが背後が気になりチラリと女性を見た。
女性はマリィアンナへ敵意をむき出しにして忌々しげに睨みつけていた。


これ、大丈夫なのかしら。結婚できても問題は起こりそうね…。
まいってしまうわ…


馬車がガタガタと音を出しながら走りだした後、女性はふるえながら怒りを爆発させた。
「あの女が…あの女が！あぁあああ」
その声は馬車の車輪の音に紛れて誰にも届かなかった。


この時、すでにマリィアンナとアルベルトの結婚式があと１か月後にせまっていた。