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婚約期
家族との時間
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外が徐々に暗くなる様を自室の窓からぼんやり眺めていたマリィアンナの耳に、控えめなノックの音が聞こえた。
「お入りなさい」
マリィアンナが声をかけると年若いメイドが入ってきて
「お嬢様、夜のお食事のお時間でございます」
「いつもより随分早いのね」
「旦那様がお食事をお早めにと…」
マリィアンナはドランジェ伯爵領の教会で結婚式をあげる。
領地までは馬車で休憩なしで4日はかかる。
旅の前に睡眠を十分にとらないと体調を崩してしまうから父は食事の時間を早めたのだろう。
「今、いくわ」
ホールに入ると、すでに父と義母が席についていた。
「遅くなりました」
マリィアンナの声に父も義母も軽く頷いた。
すぐにメイドがカートを引いて、食器に料理をよそい、テーブルにコトリコトリと並べていく。
父が食べ始め、次いで義母が食べ始める。
マリィアンナは料理を見つめた。
今日のメニューはチキンソテー、クリームチーズがのったサラダ、コンソメスープ
どれもわたくしが好んで食べたものばかりだわ!
噛むたびジュワッとチキンから旨味があふれ、ハーブがフワリと香って鼻を楽しませる。
このクリームチーズ、何度食べても美味しいわ…さすがうちの名産ね。
料理長のマッシュ特製コンソメスープ、深い味わいがやっぱり美味しいわ!大好きだわ!
ひと口ごとに料理をゆっくりとかみしめながら、マリィアンナは食事を進めていく。
とってもおいしいわ!
…でも…もう食べれなく…なるのね…
明日にはマリィアンナはこの家を出ていく。
嫁いだら、この家へは帰って来れない。
生家に帰って来れる可能性があるとしたら父の葬儀の時ぐらいなのだから。
小食なマリィアンナだったが、この日ばかりは完食してメイドに少しだけ料理の追加を指示した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕食後、マリィアンナは、父の主寝室の隣部屋をノックした。
「マリィアンナです。入ってもよいですか、お義母様」
「えぇ、どうぞ」
部屋に入ると、義母のダリアはナイトドレスを身に着けソファーに座っていた。
「マグリア、ハーブティを入れて頂戴」
メイドに指示すると、メイドは素早く2人分ハーブティを用意をした。
「さぁ、飲みなさい」
「はい。お隣座っても?」
「えぇ」
2人でソファーに並び、ハーブティを飲む。
マリィアンナはホッと息を吐き、話し出した。
「お義母様、今日のお食事ありがとうございました」
「気にしないで。わたくしがあなたにできる数少ないことだもの。あなたの好きなものを食べさせて送り出したかったの。急なメニューの変更も料理人達も快く承諾してくれましたわ」
「…お義母様…申し訳ありませんでした…っ」
「え?マリィどうしましたの?」
「…なかなか『お義母様』と呼ばずに…わたくしは…反抗して…」
「気にすることはないわ!わたくしとあなたは歳も7つしか離れてないのだから…呼びづらいのもわかっていましたよ。でもわたくしは…あなたを大事な娘と思っていますわ」
ダリアは優しく微笑み、マリィアンナは瞳を潤ませた。
「お義母様…夜会のドレス、一緒に選んでくださり…ありがとうございました。夜会でご令嬢の陰口に悲しんだ時、お義母様に慰めていただき心強かったですわ…。お義母様とお茶を飲む時間、わたくしにとって幸せな時間でしたわ」
「わたくしもマリィと共に過ごした時間、楽しかったわ!」
「お義母様…わたくし…わたくしまだこの家でお義母様と一緒の時間を…過ごしたかったですわ…っ」
マリィアンナの頬に涙が一筋流れた。
ダリアも微笑みながら涙を流した。
「えぇ!えぇ!わたくしも…可愛い娘と…まだ…同じ時を過ごしたかったわ…マリィ、婚家に行ってもあなたらしさを忘れないで、幸せになるのよ…遠くから祈ってるわ…っ」
互いに目を閉じ、手を取りギュウッと握り合った。
「ふぇああ」
「ふぁああ」
小さな赤ん坊の声が聞こえた。
ダリアとマリィアンナはお互いの顔を見合わせ、声のする方へ顔を向けて「ふふっ」と、笑った。
「僕たちも忘れないでと言ってるのかしら?」
ダリアがそう言うと、小さなベッドのもとへ歩いて行った。
その後をマリィアンナが付いていく。
ベッドには赤ん坊が2人、横並びに寝かされている。
「マリィがあいさつに来てくれましたわよ」
ダリアが赤ん坊達の頭を撫でてからお腹をトントンと優しくたたくと、トロンとした目をしてうとうとし出した。
マリィアンナは2人の赤ん坊を撫でてから声をかけた。
「かわいいベルント、ジュール…あなた達の幸せを遠くで祈るわ。2人とも元気でね…伯爵家をしっかり守るのよ。強く…育つのよ…」
赤ん坊の手をつついたらキュッとマリィアンナの手を握った。
マリィアンナの声かけにまるで『わかった』と手を握って答えたように感じ、マリィアンナはこらえきれずに瞳から大粒の涙をポタリと落した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
義母と異母弟へ挨拶を済ませたあとマリィアンナは自室へ戻り、引き出しから包装紙に包まれたものを手に使用人の住居である、別邸へ急いだ。
マリィアンナは別邸へ来たことがなかったのでメイドに場所を聞き、なんとか目当ての部屋へとたどり着いた。
コンコンとノックをするとすぐにドアが開いた。
「まぁまぁまぁ!お嬢様、いかがしましたか?」
「メル!」
マリィアンナは優しく微笑んだ。メルはそっとマリィアンナの体をそっと支えながら
「さぁさぁ、どうぞ中へ」
と、部屋へと促した。
部屋はベッドと机と洋服や小物を収納する棚などしかなく質素な印象だった。
マリィアンナは周りを見まわしながらベッドへ腰を下ろした。
「お嬢様どうかされましたか?こんなところまでー」
「メル、これ…」
マリィアンナは手に持ってたものを両手でメルに手渡した。
「これは?」
「開けてみて…」
ガサガサと包装紙を開けると綺麗なバラが彫り込まれた赤い髪飾りが出てきた。
「まぁ!まぁ!まぁ!」
メルは目を丸くして両手で髪飾りを大事そうに持った。
「明後日はメルの誕生日でしょう?この家に来て20年、特別だと思うの。だから、アルベルト様と街へ出た時にメルにピッタリなプレゼントを買ったの。メルは赤いバラ好きでしょう?」
「えぇ!えぇ!お嬢様!…なんて素敵な…プレゼントでしょう!!」
マリィアンナは微笑みをこぼし、メルは目に涙を浮かべながら笑った。
「本当は誕生日にプレゼントしたかったのだけど…結婚式にはメルがいないから…それに今日が最後かもしれないから…」
使用人は貴族の結婚式には出れない。
メルは馬車が苦手で長い馬車旅にも耐えられないので、結婚式の準備の為に連れていく使用人の人選に入れられず、アルベルトの領地まで連れてはいけない。
メルは引き続きこの伯爵邸で雇われ続けるのでマリィアンナと顔を合わせるのは最後になる可能性が高かった。
「お嬢様!お嬢様~っ!!」
メルは涙をボロボロと流しだした。
マリィアンナは涙をこらえながら微笑んだ。
「メル!メルっ!ありがとう!熱を出した時そばにいてくれてありがとう!お勉強がつらい時、慰めてくれてありがとう!お母様が亡くなったときに…わたくしが気が済むまで抱きしめてくれてありがとうっ!!今までわたくしを支えてくれてありがとうっ!!!メルのおかげで…わたくしは…わたくしは!」
マリィアンナの瞳からこらえきれずポロポロと涙が次々と零れ落ちる。
「お嬢様!ふふっ、立派な淑女になられましたのにそんなに泣かれて…目が腫れてしまいますわ…でもうれしいですよ!お嬢様!お嬢様をお支えできて…メルは幸せでしたよ!」
「メル!メル!メル…」
2人は泣きながら抱き合い別れを惜しんだ。
メルは赤いバラの髪飾りを髪にそっとつけ「大事に…大事にしますねお嬢様!」と泣きすぎて目の周りを赤くしながらにっこり笑った。
マリィアンナは「似合ってる…メルにぴったりで…ふふふっ」と涙を強引にぬぐって優しく微笑んだ。
「お入りなさい」
マリィアンナが声をかけると年若いメイドが入ってきて
「お嬢様、夜のお食事のお時間でございます」
「いつもより随分早いのね」
「旦那様がお食事をお早めにと…」
マリィアンナはドランジェ伯爵領の教会で結婚式をあげる。
領地までは馬車で休憩なしで4日はかかる。
旅の前に睡眠を十分にとらないと体調を崩してしまうから父は食事の時間を早めたのだろう。
「今、いくわ」
ホールに入ると、すでに父と義母が席についていた。
「遅くなりました」
マリィアンナの声に父も義母も軽く頷いた。
すぐにメイドがカートを引いて、食器に料理をよそい、テーブルにコトリコトリと並べていく。
父が食べ始め、次いで義母が食べ始める。
マリィアンナは料理を見つめた。
今日のメニューはチキンソテー、クリームチーズがのったサラダ、コンソメスープ
どれもわたくしが好んで食べたものばかりだわ!
噛むたびジュワッとチキンから旨味があふれ、ハーブがフワリと香って鼻を楽しませる。
このクリームチーズ、何度食べても美味しいわ…さすがうちの名産ね。
料理長のマッシュ特製コンソメスープ、深い味わいがやっぱり美味しいわ!大好きだわ!
ひと口ごとに料理をゆっくりとかみしめながら、マリィアンナは食事を進めていく。
とってもおいしいわ!
…でも…もう食べれなく…なるのね…
明日にはマリィアンナはこの家を出ていく。
嫁いだら、この家へは帰って来れない。
生家に帰って来れる可能性があるとしたら父の葬儀の時ぐらいなのだから。
小食なマリィアンナだったが、この日ばかりは完食してメイドに少しだけ料理の追加を指示した。
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夕食後、マリィアンナは、父の主寝室の隣部屋をノックした。
「マリィアンナです。入ってもよいですか、お義母様」
「えぇ、どうぞ」
部屋に入ると、義母のダリアはナイトドレスを身に着けソファーに座っていた。
「マグリア、ハーブティを入れて頂戴」
メイドに指示すると、メイドは素早く2人分ハーブティを用意をした。
「さぁ、飲みなさい」
「はい。お隣座っても?」
「えぇ」
2人でソファーに並び、ハーブティを飲む。
マリィアンナはホッと息を吐き、話し出した。
「お義母様、今日のお食事ありがとうございました」
「気にしないで。わたくしがあなたにできる数少ないことだもの。あなたの好きなものを食べさせて送り出したかったの。急なメニューの変更も料理人達も快く承諾してくれましたわ」
「…お義母様…申し訳ありませんでした…っ」
「え?マリィどうしましたの?」
「…なかなか『お義母様』と呼ばずに…わたくしは…反抗して…」
「気にすることはないわ!わたくしとあなたは歳も7つしか離れてないのだから…呼びづらいのもわかっていましたよ。でもわたくしは…あなたを大事な娘と思っていますわ」
ダリアは優しく微笑み、マリィアンナは瞳を潤ませた。
「お義母様…夜会のドレス、一緒に選んでくださり…ありがとうございました。夜会でご令嬢の陰口に悲しんだ時、お義母様に慰めていただき心強かったですわ…。お義母様とお茶を飲む時間、わたくしにとって幸せな時間でしたわ」
「わたくしもマリィと共に過ごした時間、楽しかったわ!」
「お義母様…わたくし…わたくしまだこの家でお義母様と一緒の時間を…過ごしたかったですわ…っ」
マリィアンナの頬に涙が一筋流れた。
ダリアも微笑みながら涙を流した。
「えぇ!えぇ!わたくしも…可愛い娘と…まだ…同じ時を過ごしたかったわ…マリィ、婚家に行ってもあなたらしさを忘れないで、幸せになるのよ…遠くから祈ってるわ…っ」
互いに目を閉じ、手を取りギュウッと握り合った。
「ふぇああ」
「ふぁああ」
小さな赤ん坊の声が聞こえた。
ダリアとマリィアンナはお互いの顔を見合わせ、声のする方へ顔を向けて「ふふっ」と、笑った。
「僕たちも忘れないでと言ってるのかしら?」
ダリアがそう言うと、小さなベッドのもとへ歩いて行った。
その後をマリィアンナが付いていく。
ベッドには赤ん坊が2人、横並びに寝かされている。
「マリィがあいさつに来てくれましたわよ」
ダリアが赤ん坊達の頭を撫でてからお腹をトントンと優しくたたくと、トロンとした目をしてうとうとし出した。
マリィアンナは2人の赤ん坊を撫でてから声をかけた。
「かわいいベルント、ジュール…あなた達の幸せを遠くで祈るわ。2人とも元気でね…伯爵家をしっかり守るのよ。強く…育つのよ…」
赤ん坊の手をつついたらキュッとマリィアンナの手を握った。
マリィアンナの声かけにまるで『わかった』と手を握って答えたように感じ、マリィアンナはこらえきれずに瞳から大粒の涙をポタリと落した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
義母と異母弟へ挨拶を済ませたあとマリィアンナは自室へ戻り、引き出しから包装紙に包まれたものを手に使用人の住居である、別邸へ急いだ。
マリィアンナは別邸へ来たことがなかったのでメイドに場所を聞き、なんとか目当ての部屋へとたどり着いた。
コンコンとノックをするとすぐにドアが開いた。
「まぁまぁまぁ!お嬢様、いかがしましたか?」
「メル!」
マリィアンナは優しく微笑んだ。メルはそっとマリィアンナの体をそっと支えながら
「さぁさぁ、どうぞ中へ」
と、部屋へと促した。
部屋はベッドと机と洋服や小物を収納する棚などしかなく質素な印象だった。
マリィアンナは周りを見まわしながらベッドへ腰を下ろした。
「お嬢様どうかされましたか?こんなところまでー」
「メル、これ…」
マリィアンナは手に持ってたものを両手でメルに手渡した。
「これは?」
「開けてみて…」
ガサガサと包装紙を開けると綺麗なバラが彫り込まれた赤い髪飾りが出てきた。
「まぁ!まぁ!まぁ!」
メルは目を丸くして両手で髪飾りを大事そうに持った。
「明後日はメルの誕生日でしょう?この家に来て20年、特別だと思うの。だから、アルベルト様と街へ出た時にメルにピッタリなプレゼントを買ったの。メルは赤いバラ好きでしょう?」
「えぇ!えぇ!お嬢様!…なんて素敵な…プレゼントでしょう!!」
マリィアンナは微笑みをこぼし、メルは目に涙を浮かべながら笑った。
「本当は誕生日にプレゼントしたかったのだけど…結婚式にはメルがいないから…それに今日が最後かもしれないから…」
使用人は貴族の結婚式には出れない。
メルは馬車が苦手で長い馬車旅にも耐えられないので、結婚式の準備の為に連れていく使用人の人選に入れられず、アルベルトの領地まで連れてはいけない。
メルは引き続きこの伯爵邸で雇われ続けるのでマリィアンナと顔を合わせるのは最後になる可能性が高かった。
「お嬢様!お嬢様~っ!!」
メルは涙をボロボロと流しだした。
マリィアンナは涙をこらえながら微笑んだ。
「メル!メルっ!ありがとう!熱を出した時そばにいてくれてありがとう!お勉強がつらい時、慰めてくれてありがとう!お母様が亡くなったときに…わたくしが気が済むまで抱きしめてくれてありがとうっ!!今までわたくしを支えてくれてありがとうっ!!!メルのおかげで…わたくしは…わたくしは!」
マリィアンナの瞳からこらえきれずポロポロと涙が次々と零れ落ちる。
「お嬢様!ふふっ、立派な淑女になられましたのにそんなに泣かれて…目が腫れてしまいますわ…でもうれしいですよ!お嬢様!お嬢様をお支えできて…メルは幸せでしたよ!」
「メル!メル!メル…」
2人は泣きながら抱き合い別れを惜しんだ。
メルは赤いバラの髪飾りを髪にそっとつけ「大事に…大事にしますねお嬢様!」と泣きすぎて目の周りを赤くしながらにっこり笑った。
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