元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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結婚 中間期

素っ気ない夫

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「コンコン…コンコン…」

遠くでノックの音がした。

寝ぼけ眼を一生懸命開けると、目の前に整った男性の顔が見えた。
男性はにっこり微笑むと
「おはよう。マリィ。昨日は無理させたな」
と、言いながら頬を撫でてきた。

マリィアンナはぼんやりしながら
「ン…アル…ベルト様…おは…よう…ございます…ね」
と呟いた。

アルベルトは破顏しながら
「昨日はとても綺麗だったよ。でも寝起きのマリィは可愛いな」
と、頬にチュチュっとキスをした。

「んー…」
と、マリィアンナはうなると、アルベルトはさらに額や口へとキスをした。

マリィアンナは
「ン…アゥ…ンーファッ…」
と、声にならない声をだしてアルベルトのされるがままになっていた。


その間、メイドはノックをし続けた。

アルベルトはノックの音を無視してマリィアンナの顔だけでなく、胸元までキスを繰り返した。

結局、マリィアンナが覚醒してメイドの「あの~若旦那様、若奥様…朝のお目覚めのお時間です~」という懇願の声がかかるまでアルベルトはマリィアンナを愛でたのだった。



朝食中も、マリィアンナはどこかフワフワした様子だった。
それもそのはず、昨日たっぷりアルベルトに翻弄されたので落ち着けなかったのだ。


こんなにも自分が翻弄されているのに、当のアルベルトはにっこりとご機嫌な様子だった。
マリィアンナは終始、羞恥心と愛情深いアルベルトへの思いでいっぱいだった。

愛情深い夫がいて、少し恥ずかしいけど閨も共にして…
邸宅も暮らしも周りも問題なくて、優しい義父もいて…
わたくし、幸せだわ。


マリィアンナは頬を緩ませながら温かい焼きたてのパンを口へと運んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
執務も問題なくこなせた数日後、斡旋所のデリルから使いの者2人が邸宅へやってきた。

「調べが両方終わりましたので…書類をお持ちしました」
そう1人が言うと、もう一人がうやうやしく書類を差し出した。

マリィアンナは2人を見つめて
「もしかして、調査は貴方達がしたのかしら?」
と、言った。
2人は
「はい。わたし達がしました」
と、答えた。


マリィアンナは書類を見ながらもチラリと2人の姿を見た。


わざわざ街へ行く手間が省けたわ。
やはりデリルは気が利くわね。


マリィアンナは微笑んで
「じゃあ、座って頂戴」
と促した。
2人は動揺を隠せなかった。
「…え?」「…」

微動だにしない2人にマリィアンナは
「話が長くなるかもしれなから座って」
と、促してからメイドへお茶を出すよう指示を出した。
2人はようやくおずおずとソファーへ腰を下ろした。

「さ、じゃあ貴方から報告を聞こうかしら」

2人は目を丸くした。
次期伯爵夫人という高貴な人が、自分たちの口から報告を聞きたいと言い出したのだ。
動揺しながらも2人はたどたどしく話し出した。
そんな2人をマリィアンナは真剣に見つめて話を聞いた。
2人は緊張しながらも話し続けた。
次期伯爵夫人は自分達のような平民の話を聞いてくれる素晴らしい方だと認識するまで時間はそうかからなかった。



マリィアンナは一言一句逃さず聞いた。時には鋭い指摘もした。
この2人がもたらす情報によって、マリィアンナは何人もの人々に人生の決断を迫るのだから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、ドランジェ伯爵・アルベルト・マリィアンナ・家令のクーディとグラウは執務室で領地の地図を広げていた。


マリィアンナは重い口を開いた。
「調べによると、このゾンダルア村が適任かと」




マリィアンナの言葉を聞き、ドランジェ伯爵は眉を下げて地図上のゾンダルア村を人差し指で指さした。
そして資料に目を落とした。

「地形としては…崖近くで農作物の税収も芳しくない。確かにギリギリのようだ…」
ドランジェ伯爵はポツリと呟いた。


「私が向かいます」


アルベルトが凛とした声で言った。
マリィアンナは俯いていた顔をパッと上げた。


「私が話をつけてきます。父上は邸宅の執務をお願いします」

マリィアンナは凛々しいアルベルトを見つめた。

「…わかった。頼んだぞ」
ドランジェ伯爵は、アルベルトを真っ直ぐ見据えて頷いた。

そんな2人のやり取りを見ながらマリィアンナは思った。


わたくしはここでアルベルト様の帰りを待っているだけでいいの…?
のはわたくしなのに…?


「マリィは父上を支えー」
アルベルトの声にマリィアンナはかぶせるように
「わたくしも向かいます」
と、言った。

マリィアンナの声にドランジェ伯爵もアルベルトも家令の2人も驚き動揺を隠せなかった。


「わたくしもアルベルト様とご一緒に向かいますわ」
再度、マリィアンナは告げた。

「マリィ、君はここにいろ」
険しい顔をしたアルベルトはマリィアンナに厳しい口調で言った。
マリィアンナはそんなアルベルトへ向き合い
「いえ、わたくしの発案ですので…わたくしも責任の一端を背負いとうございます」
と、答えた。
アルベルトはなおも説き伏せようとした。
「君は…!ここにいるんだ。無理をする必要なんてない!」

マリィアンナの肩をガシリとつかみながら言うアルベルトを、マリィアンナは
「いえ、無理などとは。わたくしもアルベルト様と一緒に行きたいのです」
懇願するマリィアンナを、アルベルトは無碍にできなかった。

結局、マリィアンナは最後まで折れずアルベルトと共に向かうことになった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、マリィアンナとアルベルトはドランジェ伯爵に見送られながら村へと向かうため邸宅を出発した。

「こちらは後は仕上げの準備だけだから任せなさい。執務も余裕があるから心配しなくていい」
そういって、ドランジェ伯爵はにっこり笑って見送ってくれた。

ゾンダルア村へは邸宅から3日ほどかかるところにあった。
アルベルトだけの移動だったら馬で駆けるが、マリィアンナを連れていく為、移動手段に馬車を選ばざるを得なかった。


馬車に揺られること数時間、マリィアンナは気まずく感じていた。


ムリを言ってわたくしも行くとと言いだしたせいで馬車になってしまったわ…。
馬だったらもっと早く着けるのに…。時間の猶予があまりないのに…
でも…行かないという選択肢も最初からわたくしの中にはなかったわ…。
それよりも…問題はアルベルト様…ね。ずっと不機嫌の様子…
やはり夫の意見に妻が従わなかったから…かしら…

前回、街へ出掛ける時に乗った馬車では、横に座ってくれていたアルベルトは今日は向かいに座っている。
窓際に座り、外を眺めている。

マリィアンナは斜め前に座っているアルベルトに視線を寄こして縮こまっていた。

終始、二人は無言で馬車内はガタガタゴトゴトと車輪が回る音が響くのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宿に着くと、アルベルトはマリィアンナをエスコートして部屋へと向かった。
貴族用の宿らしく、綺麗に飾られておりマリィアンナは「こんな状態じゃなかったらもっと心穏やかになれたのに…」と少しがっかりした。
そして、口数も少ないアルベルトは食事もとらず、すぐに就寝した。

マリィアンナは、そんな素っ気ない態度をしたアルベルトに密かに傷ついた。


わたくし、間違っていたのかしら?
でも…これからアルベルト様の隣に立ち続けるのに知らん顔なんてできないわ…
これから…どうすればいいのかしら…


マリィアンナは同じベッドにいるのに、急に心の距離が開いたように思えて寂しくつらく感じた。
そして、宿の枕をぬらさないように涙をこらえながら眠りについたのだった。

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