元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

日向 夜

文字の大きさ
48 / 53
結婚 中間期

決断を伝える

しおりを挟む
邸宅を出発して2日目、マリィアンナはアルベルトの言葉に動揺を隠せなかった。

「え…」
「すまない。私は馬で行く」

一緒に馬車に乗らないと告げられ、マリィアンナは目を丸くした。

護衛騎士に促され、馬車に乗せられたマリィアンナは放心状態だった。


なぜ?なぜなの?
わたくしと馬車に乗りたくないほど嫌なの?
わたくしが行くと言い張ったことがそんなに気に入らなかった…の?


茫然としたマリィアンナを乗せたまま、馬車はガタガタと道を進んでいった。


小さな湖で休憩することになっても、マリィアンナはぼんやりとしていた。


どうして?なんで?どうすれば?

そんな事ばかり考えながら、馬を撫でるアルベルトを眺め続けた。

そして、顔を背けてキラキラと輝く湖面を見つめながら思った。


わたくし、いつも間にかアルベルト様の事で頭がいっぱいになってるわ。


いつの間にこうなったんだろう。
アルベルトの一挙一動でこんなに心が乱れるなんてどうしてこうなったんだろうと、答えのない疑問をずっと自分の中で問い続けた。
そしてついにはそれが瞳から溢れそうになった。


嫌われるってこんなに怖いことなのね…


以前のメイドに嫌われた時は、ただ自尊心と矜持に傷がついて怒りを感じただけ。

自分はアルベルトに「嫌い」と言われたわけじゃない。
だけど好きな人に素っ気ない態度をされるだけでマリィアンナは言いようのない恐怖を感じた。




「マリィ、どうした?」

優しい声に、マリィアンナは思わずビクリと体を震わせた。
その衝撃に瞳がこらえきれず、涙がポトッと着ている簡素なドレスへ落ちた。

そんなマリィアンナを見てアルベルトは動揺を隠せなかった。
「ど…どうした?マリィ!だ…大丈夫か?」

「…え…いえ…大丈夫…です」
マリィアンナは目元を隠して必死に表情をつくろった。

「大丈夫か?やっぱり3日は強行すぎたか?馬車はキツイか?」
マリィアンナはキョトンとした顔でアルベルトを見つめた。


アルベルト様がやさしい…。
わたくし、嫌われてない?


アルベルトは、やさしくマリィアンナの背中をさすり続けた。
その温かい手にまた泣きそうになりながらもマリィアンナは安堵した。

「すまない。ゾンダルア村について夢中で考えていた。怒っていたわけではないんだ…」
マリィアンナをやさしく抱きしめ、アルベルトは呟いた。

その言葉にマリィアンナは安心した。

アルベルトは考えをまとめる為と言って、今日は馬に乗って移動することにしたのだと説明した。

マリィアンナは一人で馬車に乗ったが、悩みが失せて心が軽くなった気がした。


宿に着き、マリィアンナとアルベルトは仲良く食事をして、寝る時はマリィアンナを後から抱きしめるようにしてアルベルトは眠った。

昨日の背中合わせの就寝を経験したマリィアンナはホッとした。
明日に備えて、2人はお互いのぬくもりを感じながら早めに就寝した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日は雲一つない快晴だった。

アルベルトは馬ではなく、馬車にマリィアンナと一緒に乗り込んだ。
固い表情をしているマリィアンナを落ち着かせるように、アルベルトはマリィアンナの横に座り、手をやさしく握った。


これから一緒に共にある為に、自分達は『決断』をしてそれを『実行』することになる。
その責務を2人で背負う覚悟を持って、村へと向かった。


しかし、ゾンダルア村の様子をみてマリィアンナとアルベルトは表情を固くした。

村に建っている住居はボロボロ。
人々も粗末な服を着ている。
子供はみなやせ細っていた。

アルベルトの顔は一層険しくなった。

広い領地ではこういう貧困に喘いでいる村もある。
全ての領民が豊かに暮らせるなど、夢物語なのだ。

現実をまざまざと見せつけられたマリィアンナは顔を青くした。
アルベルトはマリィアンナにかける言葉が見つからず、自身のひじに置かれたマリィアンナの手にそっと手を重ね、不安をやわらげてやることしかできなかった。




「ようこそ。次期領主様…。私が村長の…ベンドでございます」
村の門…といっても簡易的な柵があるだけで、そこに立っている門番の1人に「次期領主が来た。村長を呼ぶように」と先ぶれを出したら、しばらくしてきたのはやせ細った老人だった。



「次期領主のアルベルト・コディルだ。話がある」
アルベルトは、重い口を開いて凛とした声で告げた。

村長はアルベルト達を自宅へと招いた。

村民は、ザワザワと騒ぎ不安そうな顔でアルベルトとマリィアンナを見つめた。
そんな様子にアルベルトと護衛騎士は、警戒を怠らなかった。

マリィアンナは村民達の視線に不安を感じたが、淑女らしく動揺を悟られないようにつくろった。




村長宅で出されたお茶に手をつけずにアルベルトは村長へ話を切り出した。

「ベンド、この村は住民は136人、主な職は農業と林業とのことだな」
「は…はい。そうです」
「しかし、税収が芳しくない」

アルベルトの言葉に、ベンドは顔色が悪くなった。
「そ…そのこれ以上はもう無理でして…」
しどろもどろに言うベンドにアルベルトは険しい顔付きで続けた。
「今年の冬を越えるのでもう限界だろう」

ベンドもそれがわかっているのだろう。下を向いて拳を膝上で握りしめた。


アルベルトは静かに深呼吸をしてから口を開いた。




「この『ゾンダルア村』は本格的に冬が来る前に『廃村』とすることにした」





ベンドはアルベルトの言葉を聞き、顔をパッとあげて『信じられない』とでもいうような顔で見つめた。



「ゾンダルア村の住民に拒否権はない。廃村は決定事項だ」



アルベルトは、ベンドの目をまっすぐ見つめながら告げた。
その目は、いつもマリィアンナをやさしく見つめる眼差しでなく、権力者としての目だった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い

雲乃琳雨
恋愛
 バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。  ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?  元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...