秘密の花園でショタに飼われています

ゆん

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4.ショタがいいものをくれるそうです

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 ぐぎゅるるるぅぅ。


 獣の唸り声かと思うような腹の音に、ショタはきょとんと碧い瞳を瞬いた。
「いまの音は……?」
「えっ? 何? 何も聞こえませんでしたけど~?」
 シラを切るのも大人には必要なスキルだ。素知らぬ顔で知らぬ存ぜぬを押し通そうとしたが、そうは問屋がおろさなかった。

 ぐぎょるおおおぉぉぉ。

「…………」
「…………」

 ……あぁっ! もう! だから! 空気読めってば俺の腹の虫! ステイ!
 鎮まれ~鎮まれ~と念をこめて腹をさする。へらりと愛想笑いを浮かべたが、俺の必死な足掻きもむなしく、ショタは小さく噴き出した。

「あははっ! いまの、ヒナのおなかの音か? すごい音!」
 光が弾けるような笑顔だった。
 今にも儚く消えてしまいそうな憂い顔の美少年はもういない。無邪気にころころ笑う彼は本当にのびやかで良い意味で子どもらしかった。
 いいさいいさ、こんな可愛い笑顔の肥やしになれたなら腹の虫も本望さ……。
「うぅ……だって昨日? の給食以来食べてないんだよ……」
 そして職業柄、日々の食事に時間をかけられないので最低限のマナーは守りつつかっ食らうのが常だ。つまり食べた気がしない。


「おなかがすいてるのか?」
「ハイ……」
「あ! いいものもってるぞ!」
 閃き顔になったショタは、ズボンのポケットをごそごそ探り、紙包みを取り出した。
「きょうはとくべつなひだから、あまりものをもらったんだ」
「へぇ……」
 油染みのできた、飾り気のまるでない茶色い紙包みを、宝箱を開けるような慎重さと期待を滲ませた小さな指が開く。

 果たして、そこには“いいもの”があった。
 チョコチップの混ぜられたクッキーが一枚。

「ヒナギにあげる」
「……ありがとうございます」
 何だか胸が詰まった。
 たったクッキー一枚、だけど彼にとっては宝物だったのだろうと、会ったばかりの俺でさえわかった。王子様ならもっと高級なもの食べてそうだが、それでも。


 自分のクラスの子どもたちを思い出す。
 とびきり可愛く折れた(と本人が自負している)うさぎの折り紙、道端で拾ったという綺麗なピンクの花びら、とれたてほやほやのセミの脱け殻。思い返せばいろんな宝物をもらったものだ。あの子たちと、目の前の少年はそっくりおんなじ顔をしていた。
 ――あぁ、変わらないんだな。
 夢の世界なのに、薔薇まみれでショタで王子様なのに、こんな感慨を抱くあたりさすが俺の夢という気がした。職業病なだけかもしれないけど。


「これだけしかないのがすまないが……」
 しょんぼり項垂れるショタはまるで尻尾の垂れた子犬のようだ。こらこら、子どもがそんな顔するんじゃない。
 職業病上等。
 俺は紙包みごとクッキーを受けとると、にっこり笑った。


「今からこのクッキーに魔法をかけます」


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