いわくつきの骨董売ります。※あやかし憑きのため、取り扱いご注意!

穂波晴野

文字の大きさ
24 / 45
第二章「契約更新は慎重に」

24.どうも。バレー部の練習試合を見学しにきました。

しおりを挟む
 ほどなくして、翌日の放課後。
 練習試合の観戦に出かけるのは、高校へきてはじめてのことだった。

 体育館に足を運ぶと、アリーナの半面が競技用のコートとして整えられていた。
 コートの中ではバレーボール部から六人の部員たちが整列しており、ユニフォームを着用した見慣れない選手たちを出迎えている。

 他校のバレー部員だろう。
 選手たちはネットをはさんで互いに一礼する。これから試合がはじまるらしい。

 部員に誘われたとはいえ、部外者がいきなり顔を出してもいいものだろうか、と心配したのは杞憂だった。

 体育館の隅には制服を着た女子生徒や一部の男子生徒がまばらに散っており、皆が観戦目的で集まっているようだ。これなら悪目立ちすることもなく紛れ込める。

 体育倉庫の扉の前に、四ノ宮くんを見つけた。

 コートの反対側で固まっている部員たちとは距離をおいて、一般生徒に混じって観戦するつもりらしい。
 声をかけよう、としたところ。

「四ノ宮! 来てたなら挨拶くらいしに来いよ」

 先を越された。
 名前を呼んだのは、体操着姿の男子生徒だった。

 ユニフォームは着用していないようだが、バレー部の部員でまちがいないだろう。
 気安く応じる四ノ宮くんの様子からするに、同学年の友人かもしれない。

「ごめんごめん。ついさっき来たばかりだしおおめに見てよ」

 軽い調子でほほえみかける四ノ宮くんに対して、やってきたバレー部員は渋い顔だ。

「みんな心配してたぞ。その腕、マジで折れてんだな。急に部活に顔出さなくなってビビったわ」
「顧問から説明あったでしょ。大会前の大事な時期だし、部内もピリピリしてるかと思って、なかなか言い出しにくくてさ」
「ならいいけどよ。……にしても、テンション下がるわ。四ノ宮が抜けて、代わりが鞘崎か」
「順当じゃない? 他にもリベロ候補はいるとはいえ、俺が選抜入りする前はあの人がレギュラーだったし」

「おいおい。仲良いからって贔屓目じゃねえの?」
「先輩に誘われて、休日よく一緒に遊ぶ程度だよ」

「まさにそれが贔屓目だっての。はっきり言って実力じゃおまえのほうが上なのは自覚あるだろ。鞘崎先輩はまあ、堅実なレシーバーで、上手いとは思うぜ。でも、あれで通用するのはせいぜい県大会レベルまでだな。全国は厳しいだろ」

「言い切ってくれるね」

「万鐘の武器は守備だ。レベルの高いレシーブとブロックで、相手に気持ちよく点をとらせないのがここ近年のうちの戦略。今年全国行けたのは、四ノ宮、おまえがリベロとして強豪のアタッカーたちと張り合ってくれたのがでかい。といっても、万年ベンチアウトの俺の見解じゃ説得力ないだろうけど」

「……いや、監督も似たようなこと言ってたよ」

 四ノ宮くんは神妙につぶやく。
 ふたりのバレー部員の間に重い空気が流れた。「ま、こうなっちまった以上はしかたないけどな」と切り上げて、男子生徒は頭を掻いた。

 コートの反対側で試合の応援に徹している部員集団のうちひとりが、こちらへ向けて手招きしているのが見えた。下級生を中心とした補欠メンバーは一カ所にかたまって観戦しているようだ。

「あっち戻るわ。とっとと怪我治せよ!」

 男子生徒が立ち去るのを見送って、今度こそ声をかける。
 四ノ宮くんはすぐに気がついてくれた。

「さすがバレー部の期待の星だね、四ノ宮くん」
「もしかして、さっきの聞いてた? たいしたことじゃないよ。俺なんてほんとまだまだ」

 ……ご謙遜を。
 コートでは中央にひかえた審判が手を上げる。主審は万鐘バレー部の顧問が担当するようだ。
 ホイッスルがけたたましく鳴り、試合がはじまる。

 相手校の先行だ。後方に控えた選手から鋭いサーブが撃ち込まれた。
 白球がネットを飛び越えていく。
 的確なレシーブで打ち上げたのは鞘崎先輩だ。

 二人目の選手にボールが繋がれる。
 ふわり、と宙に浮かぶような余裕をもったトスをへて、前衛の攻撃手がボールをとらえる。

 強打。
 対するブロックは二枚。

 ネットと接するか接しないか瀬戸際の近距離で、相手校の選手が高く飛ぶ。

「対戦相手って、強いのかな?」
「相手にとって不足はないよ。仙筒学院高校、県大会の敗戦校だよ。今年はうちとは当たらなかったけど、ここ数年で急成長してる注目株。部員は少ないながらあっちは一年が育ってるし、来年はうかうかできないだろうな」

 四ノ宮くんの解説を拝聴しながら、ボールを目で追う。

 仙筒のブロックは不発だった。
 ブロッカーの指先がボールにワンタッチしたようで、攻撃の勢いを削ぐことは成功したものの、防ぎきれてはいない。セッターがトスを繋げ、相手校からスパイクが放たれる。

 ブロックが果敢に飛んだ。――成功。
 万鐘バレー部、一点先取。

「いまのはよかったね。見てのとおり、万鐘はいまの三年が支えてる。ほら、背が高い選手が多いだろ?」

 言われてみれば、筋骨隆々とした男子が多い。
 小柄な四ノ宮くんがコート上のチームメンバーと並ぶと、一寸法師もかくやとばかりに頼りなく見えるかもしれない。

「伏見はバレー興味あるほう?」
「いや、あまり詳しくなくて。サーブ、トス、アタック、あとレシーブか。授業で習った基本のルールと技能はわかるんだけど、逆にいえばその程度」

「なるほど。バレーって動きが派手で試合展開が早いから、詳しくなくても観戦で楽しめるけどね。いちおう、軽く解説しておこうかな。いいよね?」

 ぜひともお願いしたい。

「代表的なポジションからおさらいしてみようか。攻撃のウィングスパイカー、守備のミドルブロッカー、司令塔のセッター。俺と、鞘崎先輩が担当してるリベロはレシーブのスペシャリスト。サーブやスパイクは撃てなかったり、ネットより高いところにあるボールには触れなかったり、独特のルールが課せられる特殊なポジションなんだ」

 鞘崎先輩は体操着の上に「L」のアルファベットが記されたゼッケンを重ねて着ている。

 他の選手との識別のために、着用しているのだろう。公式試合でも、リベロをになう選手だけは色の異なるユニフォームを身につける義務があるそうだ。

「リベロの語源はイタリア語で、自由の意味を持つ言葉。公式ルールにのっとると、バレーの選手交代は通常は六回までにかぎられるけど、リベロだけはその制約に縛られない」

「それが、リベロだけの特別ルールなんだね?」
「うん、後衛の選手といつでも何度でも自由に入れ替わることができるんだ。コートの内外を出入りするときには、監督の指示をチームに伝えることもあるよ。だから、誰にトスをまわすかの決定権を握るセッターとともに、バレーボールの戦術を支える重要な役ではあるかな」

 四ノ宮くんはなおも饒舌に語る。

「リベロは身長が低くても活躍できるポジションだって言われてる。レセプション――サーブレシーブを着実に決めてセッターに繫ぐことで、攻撃が安定するんだけど……よくないね」

 視線はコート上にそそがれていた。四ノ宮くんが見つめるのは、鞘崎先輩だ。

 ちょうど相手コートから返ってきたボールのもとへ、ジャガーのように並行に背を伸ばして、瞬時に飛び込んでいく。

 しなやかな跳躍。
 守備の甘いコートの右側に狙いすましたように撃ち込まれたスパイクを、地面に落ちるすれすれで彼の右腕がかすめとった。

「先輩、ボールは拾えてるように見えるけど」
「さっきからレシーブが乱れてる。あの人、セッターからの転向で、ずっとリベロ一筋でやってきたわけじゃない。そこまで低身長でもないはずなんだけどね」
「鞘崎先輩のこと詳しいんだね」

 ポジションが同じだから、なのだろうか。

「俺、鞘崎先輩とは出身中学が同じなんだ。どうしても身内意識がでてくるのかもな」

 先週までは選手として参加していた彼が、コートの外でひたすらに先輩たちのプレーを見守りつづけるのは、どんな心地がするのだろう。

 四ノ宮くんは真剣なまなざしで試合展開を追っていた。

 その後も相手校の選手はつぎつぎと強烈なサーブをくりだし、バレー部の面々は勇猛果敢に抵抗したが、徐々に勢いを削がれていった。鉄壁のブロックは崩れ、かけ声の精気は衰え、流れる汗が選手たちの疲労を物語る。

 四ノ宮くんの指摘どおり、鞘崎先輩のレシーブミスは時間経過とともに増えていった。

一セット目を三点差で落としたあとも苦戦を強いられ、同点にもちこんだ二セット目は二十七対二十五で辛くも勝利。
 三セット目は選手のスタミナ切れが著しく、最後には仙筒学院高校がねばり勝った。


 万鐘高校は負けた。

 全国大会直前の練習試合で、格下の相手に。試合を終えて満身創痍のからだを抱えた選手たちは、誰もが苦しい表情をしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...