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第三章 瑞凪少女誘拐事件
41.カセツ
しおりを挟む言葉をきって、ほうじ茶を一口だけ飲む。
ここからは一息で話す。
「真木が夏の部誌に載せた漫画を〈ストイック派〉の部員のひとりが、無断でネットにあげたらしい。……真木は抗議したし、当時の部長も味方についてくれた。ただ、対処が遅かった。削除するまえにもう、真木の描いた漫画……バズってた」
ツイッターで拡散されて、話題になって、たくさんの〈いいね〉がついていた。
不幸中の幸いか、真木がペンネーム――〈田中ユリエル〉としてイラストを投稿しているアカウントで偽者を糾弾したことで、事態は鎮火できたらしい。
「そのあと、しばらくしてから……真木のアカウントに、ある出版社の漫画編集を名乗るひとから、DM(メツセージ)が来たんだって。漫画をみてのスカウト。そんなことはじめてだったから〈エンジョイ派〉の友達にも、部長にも相談した。そのとき真木は、秋の文化祭の部誌に載せる原稿にもうとりかかってた。でも、漫研部長の判断は――真木の漫画はもう部誌には載せられない、って」
部長がそう判断した理由も推測はできる。
またネットに転載される危険もあった。真木の知らないところで、彼女の漫画を悪用させたくはなかったのだろう。
なによりも、漫研部内の対立を深める問題を、再発させるわけにはいかなかった。
「真木はDMに返信したんだ。そのせいで、二年の漫研部員たちは、真木のこと裏切り者だってなじったって。そんなにしてまで漫画描きたい? って。〈エンジョイ派〉なのに、自己顕示欲が強すぎって。そのまま……退部に追い込まれた。誰にも相談できない状況で、唯一すがった相手……。でも、それが――悪意あるひとだったとしたら」
孤立無援の状況で。だれかにいてほしいと願って、手を伸ばす。
それは、弱さなのだろうか。
「乙戸辺先輩は、このときに漫画編集者のふりをして接触してきた人が〈ジェスター様〉で、誘拐犯の正体だって。そいつの手を借りながら、真木は鯨坂で事件を起こしてた」
プリントをめくるついでに真正面を見やると、夏織が呆然と口を開けている。
「な、なんか、だいぶやばい話になってない……?」
きのう、対面したネモを思い出す。
〈テラリウム〉には、あきらの知らない抜け道がある。大人が入り込める余地が、どこかにはあるのだ。
「結論はこう。引用します。〈推察するに――。一連のジェスター様事件の目的は、漫画研究会への復讐である。鯨坂高校の文化系部活動において、絵を専攻しているのは、漫研および美術部にかぎられる。漫画研究会から美術部へと鞍替えをした真木百合枝は、事件を通して昨年度の漫研部員の残虐非道な行いを告発していたのだ。〉」
「でも、そんなのって…………」
光梨が小さく悲痛な声をあげている。
宥めたくなるのをぐっとこらえて、あきらは続きを読み上げる。
「それと、報告書の最後にはこう書いてある。〈なお考察に関しては、どれも机上の空論、あくまで推測の域に留まる。最終決の採択は、勇猛果敢で聡明な後輩部員たち、および特派員の働きに大いに期待する。(なぜならこっちは予備校にいるのだ。これが限界、すまん!)〉――つまり、あとはまかせたって言いたいようです」
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