海底の放課後 -ネットの向こうの名探偵と、カリスマ・アカウントの謎を解く -

穂波晴野

文字の大きさ
50 / 67
第三章 瑞凪少女誘拐事件

46.サイカイ

しおりを挟む

 夜半――。
 学園の裏門前で、訪れるはずのひとを待っていた。

 それにしても、手持ち無沙汰だった。
 スマホのバッテリーは残り三割をきっていて、ポケットに文庫本もない。防寒具として薄手の手袋をもってきたのに、どうにも手がかじかむ。コートは重いから置いてきた。が、失敗だったかもしれない。

 幸いにして、待ちびとは集合時間よりはやくやってきた。

 裏門へと近づいてくる、自転車の走行音。点滅していたライトが消えて。サドルからひょいと降りて、片手を挙げる動作。

 柔和な彼にしてはめずらしく渋面を晒している。

「来てくれるとは思いませんでした。……乙戸辺先輩」
「あいかわらず、先輩づかいが荒いよな。……久しぶり」

 電話で問い合わせたら、乙戸辺は瑞凪町にはいなかった。
 祖父の家がある市街地にいたらしい。予備校に近いそちらに寄宿していたところ、無理をいって帰ってきてもらった。

「……助かります。それと……すみません」
「延ばせて十一時までだぞ。このあと家族と一ヶ月ぶりの緊急面談だからな」
「あの、受験勉強も、家族会議も……最重要だと、おもいます、がその……」

 なにか、気の利いたことを言わなければ。

 優先すべき都合を折り曲げて、頼みごとを聞いてもらっているのだ。
 いくらまだ鯨坂高校に通う学生とはいえ、一分一秒が惜しいはずの受験生を巻き込んでいる。やむをえずこうなったとはいえ、あまりに申し訳ない。

「後輩の面倒みてる場合か、ってか? ……心配ありがとな。いい息抜きだよ」

 家に門限がなく、夜の行動制限がない。
 今日は父親が帰宅しないから、あきらは問題なく単独で行動できる。ただし保険として、もうひとり連れていくべき。そこで夏織が「乙戸辺先輩でいいでしょ」と提案して、こんな時間に、こんな場所で顔を合わせることになった。

 案内は乙戸辺にまかせて、実習棟校舎の裏口に向かった。
 ふだんは掃除用具入れに隠されている非常扉があるのだ。どうやら鍵が壊れているらしい。どうして知っているのかと、尋ねると、

「在校三年にもなると、ちっとは裏事情に詳しくなるんだよ」

 とのこと。
 校内に立ち入ると、廊下はしんと静まりかえっていた。懐中電灯のスイッチを入れて、あきらは二階へ続く階段を照らしながら確認する。

「実習棟への潜入口は、ここだけ」
「おそらく」
「見張っていてもらえませんか。だれかきた時のために」
「ここで別行動か? いくらなんでも危険だろ」

 大丈夫だ。そう無言で訴える。先に折れたのは乙戸辺だった。

「……わかった、わかった。お互いやばそうだったらすぐ連絡な」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...