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第三章 瑞凪少女誘拐事件
46.サイカイ
しおりを挟む夜半――。
学園の裏門前で、訪れるはずのひとを待っていた。
それにしても、手持ち無沙汰だった。
スマホのバッテリーは残り三割をきっていて、ポケットに文庫本もない。防寒具として薄手の手袋をもってきたのに、どうにも手がかじかむ。コートは重いから置いてきた。が、失敗だったかもしれない。
幸いにして、待ちびとは集合時間よりはやくやってきた。
裏門へと近づいてくる、自転車の走行音。点滅していたライトが消えて。サドルからひょいと降りて、片手を挙げる動作。
柔和な彼にしてはめずらしく渋面を晒している。
「来てくれるとは思いませんでした。……乙戸辺先輩」
「あいかわらず、先輩づかいが荒いよな。……久しぶり」
電話で問い合わせたら、乙戸辺は瑞凪町にはいなかった。
祖父の家がある市街地にいたらしい。予備校に近いそちらに寄宿していたところ、無理をいって帰ってきてもらった。
「……助かります。それと……すみません」
「延ばせて十一時までだぞ。このあと家族と一ヶ月ぶりの緊急面談だからな」
「あの、受験勉強も、家族会議も……最重要だと、おもいます、がその……」
なにか、気の利いたことを言わなければ。
優先すべき都合を折り曲げて、頼みごとを聞いてもらっているのだ。
いくらまだ鯨坂高校に通う学生とはいえ、一分一秒が惜しいはずの受験生を巻き込んでいる。やむをえずこうなったとはいえ、あまりに申し訳ない。
「後輩の面倒みてる場合か、ってか? ……心配ありがとな。いい息抜きだよ」
家に門限がなく、夜の行動制限がない。
今日は父親が帰宅しないから、あきらは問題なく単独で行動できる。ただし保険として、もうひとり連れていくべき。そこで夏織が「乙戸辺先輩でいいでしょ」と提案して、こんな時間に、こんな場所で顔を合わせることになった。
案内は乙戸辺にまかせて、実習棟校舎の裏口に向かった。
ふだんは掃除用具入れに隠されている非常扉があるのだ。どうやら鍵が壊れているらしい。どうして知っているのかと、尋ねると、
「在校三年にもなると、ちっとは裏事情に詳しくなるんだよ」
とのこと。
校内に立ち入ると、廊下はしんと静まりかえっていた。懐中電灯のスイッチを入れて、あきらは二階へ続く階段を照らしながら確認する。
「実習棟への潜入口は、ここだけ」
「おそらく」
「見張っていてもらえませんか。だれかきた時のために」
「ここで別行動か? いくらなんでも危険だろ」
大丈夫だ。そう無言で訴える。先に折れたのは乙戸辺だった。
「……わかった、わかった。お互いやばそうだったらすぐ連絡な」
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