SNSで知り合った相手とリアルで出会ったら、真っ暗だった青春が色付き始めた。

minori0310

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同じ感情

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店を出た僕たちは、先週と同じメイドカフェに訪れた。来店すると、気品のあるメイドさんたちが僕たちを出迎えた。メイドさんたちの中には初めて見る人もいる。先週良くしてくれたメイドさんは出勤していないみたいだ。

「ご注文がお決まりになりましたら、メイドをお呼びください」
 
メガネをかけたメイドさんに案内されて、席に着いた。メイドさんは行儀よく膝を曲げて首を傾げると、指先でスカートを摘んでキッチンの中に入っていった。

「ハルカさんでも緊張するんですね」
 
注文も決めずにハルカさんに言った。ハルカさんがメニューから視線を外して、気恥ずかしそうに僕を見る。

「そりゃそうだよ。ずっと好きな作品の先生なんだから」

「そうなんですけど、ハルカさんが緊張しているのってなんか斬新だったんです」

「何それ。俺だって緊張くらいするよ」

「なんでも卒なくこなすから、緊張とか見せない人なのかと思ってました」

「ナノくんは俺をなんだと思ってるの?」

「カッコよくて優しくて––––」
 
挙げだしたらキリがないくらい、ハルカさんのことを尊敬している。
 
僕は、僕の持っていないものをすべて持っているハルカさんが好きだ。凛とした姿や相手を気遣った行動はもちろん、高い身長や話を聞く相槌すらも憧れている。

「とにかく、本当にすごい人だと思ってます」

「……もしかしてナノくん、俺のことバカにしてる?」

「そんなことないですっ!」
 
僕にしては珍しく、反射的に言葉を返していた。テーブルに手をつき立ち上がって、大きく首を振った。通りかかったメイドさんがこちらを見て、「どうされましたか?」と聞く。

「いえ……大丈夫です」
 
僕が椅子に座りながら言うと、メイドさんは呆然とした表情でその場を去っていった。

「でも、なんかちょっと嬉しくて」
 
ハルカさんの瞳を見て、声を抑えて口にする。

「俺が緊張して?」

「そうじゃなくて」

「じゃあ何?」
 
ハルカさんが頬杖をついて、悪戯っぽい笑みを見せた。

「嬉しかったんです……こんなカッコよくて大人びた人でも上手く言葉にできないことがあるんだなって思って」
 
意識せずとも、気の利いた言葉をかけたりやその場を盛り上げる行動をする。美しく生きている人たちにとっては、それが普通だと思っていた。

「会話中に言葉を詰まらせちゃうのがずっとずっと嫌で。沈黙もたしかに怖かったんですけど、それよりも口を閉じた相手が何を考えているのか気になっちゃうんです。つまらない話だな、とか、早く終わらないかな、とか思っているって予測するとその場から逃げ出したくなるんです。そうすると、言葉を発することが怖くなって」
 
リズムよく会話を交わすことができない自分は、コミュニティに溶け込むことが人一倍苦手だった。自分だけ社会から外れてしまっているようで、蚊帳の外に追いやられた気分で話の合間に薄い反応を示してしまう。上っ面でコミュニケーションを楽しんでいる自分に嫌気が差した。

「ずっとずっと、言葉を選んで発言している自分が嫌いだったんです。もう少し場の空気に任せて発言できたらって思うと、他愛のないことで楽しく笑う人たちが羨ましく見えて。会話の中での僕の笑顔は取り繕ったもので、心から出たものじゃないんだなってわかったら、すごく寂しくなるんです」

「なんか……すごく難しくて複雑なことを気にしているんだね」

「変なこと言ってごめんなさい。意味わからないですよね」
 
小声で言った後、逃げるように目を伏せて口を閉じた。自分から何かを話してしまった後、醜くて面白みのない姿を晒してしまったと必ず後悔をする。それを繰り返していくうちに、僕と相手の距離が離れていってしまう。そのせいで知り合いが自分から離れていくのが、煩わしくて仕方がなかった。

「……なんですか?」
 
突然頭に手を乗せられて、ゆっくりと視線を上げてハルカさんを見た。

「難しい悩みだけど、でもすごくわかる」
 
僕の頭を撫でて、ハルカさんが微笑む。

「俺だって同じような経験を何度もしてるから気持ちはわかる。無頓着に発したセリフは、意図せずに誰かを傷つけてしまうことがあるもんね」

「そう……なんですよ」
 
言葉の捉え方は、はるかに自分の予測を飛び越えてしまうことがある。各々の感情や価値観の影響を受けて、良い方にも悪い方にも転がる。
 
わずかなすれ違いから生じてしまうズレに、いつだって怯えていた。

「言葉を選んでしまうのは、ナノくんが人一倍優しいからだと思うよ。言葉は刃物と同じだから、良くも悪くもすっぱり切れる。そのくせ、何も考えずに振り回しても誰を傷つけたのかわからない」
 
ハルカさんの大きな手のひらが、固まって黒くなった負の感情を吸い上げていく。開いた小さな心の隙間に、少しの余裕とほのかな温もりが芽生えたような気がした。

「優しい君はずっと変わらなくていいし、それを苦だと感じる必要なんてないんじゃないかな。きっとその優しさは、心無い誰かに付けられた傷を癒してるよ」
 
ハルカさんが僕の頭の上から手を退けて、メニューを開く。

「そんなに思い詰めない方がいいよ。世の中には、君の優しさに助けられた人だって必ずいるからね」
 
そう言ったきり、ハルカさんは視線をメニューに移してしまった。話したことすべて忘れてしまったみたいに、カレーライスの写真を見て「美味しそうだな」と独り言を呟いている。

「注文決めよ。いつまでも話してると、メイドさんも困っちゃうだろうしね」

「……そうですね」
 
少しだけ熱くなった目頭を擦って、料理を選ぶ。僕たちは互いに、先週頼まなかったスパゲティとカレーライスを注文した。

メイドさんの姿が見えなくなった後、ハルカさんは手を合わせて言った。

「俺もナノくんに相談があるんだ」
 
ハルカさんの表情が豹変した。優しさが消えて、代わりに恐怖にも似た何かが顔を出したような気がした。

「え……僕にですか……?」
 
僕なんかに何ができるのかと思ったが、それ以上に、憧れのハルカさんに頼られることが嬉しかった。
 
ハルカさんがテーブルに乗り出して、噂話をするように頬に左手を当てる。何かを気にしたように目を動かして、周囲の様子を伺っていた。

「実はさ」
 
ハルカさんはテーブルの上にスマートフォンを置くと、連絡アプリを開いてトーク画面を見せた。そして真剣な表情で未読メッセージの一つを指差した。

「今、先週いたメイドさんと連絡取ってるんだよね」
 
ハルカさんが発した一言で、僕の頭の中は真っ白になった。
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