SNSで知り合った相手とリアルで出会ったら、真っ暗だった青春が色付き始めた。

minori0310

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一人きりの空間。

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「……その後、どうしよう」
 
階段を登り終えた所で、ふと疑問が浮かんだ。
 
学校に来ることを目的としていたせいか、孤独になった後のことを一切考えていなかった。煙たがられて孤立したとして、どんな顔で授業を受ければいいのだろうか。視線や雰囲気から生まれる圧力を、どういった振る舞いで躱せばいいのか見当もつかなかった。
 
奇異な目を向けられる自分を想像すると、スーッと血の気が引いていくのを感じた。どうして学校に来てしまったのかと後悔しても、後戻りはできない。ホームルームの時間も、すぐそこまで迫ってきている。
 
長く続く廊下は、無数の生徒で賑わっていた。会話を繰り広げる男女のグループや、教科書を持って教師に質問している女子生徒などがいる。
 
H組の教室は、階段から一番離れた場所にあった。一番手前の教室がD組で、そこからアルファベット順に並んでいる。
 
ポケットに手を入れて、音楽のボリュームをさらに上げる。頭が痛くなるくらい響く歌声は、僕と他の生徒を切り離すように聴覚を遮断する。今の僕には、耳に栓をして偽りの世界に浸ることしかできない。
 
会話を繰り広げる生徒たちが、通りかかった僕に奇異の目を向ける。言葉は聞こえなかったが、僕の話をしていることだけはわかった。
 
突き刺さるような視線を背中に受けて、教室の前にたどり着いた。ドアの奥から生徒たちの叫び声が聞こえてくる。
 
手を伸ばして、立て付けの悪い扉に触れる。震える腕に力を込めて開いた。クラスメイトの喧騒が、廊下に溢れ出す。
 
教室には、三十を超えるクラスメイトたちがいた。
 
頬杖をついて読書をする女子生徒が、掃除用具入れのそばで騒ぐ四人グループの会話を煩わしそうに睨んでいる。教卓に寄りかかって会話を交わす男子生徒は、時計に目をやりながらスマートフォンを弄っていた。
 
クラスメイト全員が、教室での立ち位置を見つけて青春を送っている。これは、数ヶ月前からずっと存在しているありふれた光景なのだろう。
 
そんな日常的な景色を、僕はただ呆然と見ていた。
 
教室の入り口で佇む僕の姿を見て指を差す人はいない。それどころか、不登校のクラスメイトの姿を見ても、特別な反応をすることすらなかった。
 
チャイムがなり、ホームルームの開始を合図する。先生の姿こそ見えていなかったが、生徒たちは自分の机に戻っていった。
 
窓際の一番後ろの席が空いている。通学カバンがないことや机の中が教科書でいっぱいなことから、半年間使われることのなかった僕の席だということがわかった。
 
クラスメイトに混ざって、自分の席に向かった。窓から差し込んだ光が、机の上に一本の線を引いている。夏ということも相まって、席の近くはとても暖かかった。
 
椅子を引いた瞬間、右隣の席の女子生徒がこちらを見たが、何も言わずに顔を背けて机に突っ伏した。生徒たちは空席が埋まったことに気付いても、それ以上興味を示すことはない。一時間目の授業の準備をして、ホームルームが始まるのを待っている。
 
想像していたよりもずっと、現実は冷め切っていた。
 
興味を示されないことが、これほど辛いものだとは思わなかった。あなたがいなくても変わらないと言われているのと大差ない。
 
僕という存在は、ここにいるクラスメイトから求められていない。イジメを受けることすらない、仲間内から完全に外れた所にいる。時間をかけて形成されたクラスでの僕の立ち位置は不登校というものではなく、輪から外れた背景に近い何かだった。
 
チャイムがなってから二分。前のドアが開いて担任の先生が駆け込んできた。出席簿やプリントを乱雑に教卓に置き、肩で呼吸しながら「ごめん」と言って頭を下げる。
 
黒縁メガネが特徴の背が高い先生を見て驚いた。去年、僕のクラスの担任を務めた先生だったからだ。新任から一年が経って余裕ができたのか、顔つきが少しだけ変わったような気がする。
 
先生が黒板の端に目を向けて、週番二人の名前を呼ぶ。呼ばれた二人が立ち上がると、続くように他の生徒も腰を上げた。
 
朝のホームルームが始まった。
 
声を合わせて挨拶をし、椅子の足を引きずりながら席に着く。教卓の近くの席に座っている女子生徒が「先生、遅刻ですかー?」と茶化すように言うと、ドッと笑いが起こった。

「会議が長引いてな。ごめん」
 
クシャッと笑って先生は言った。
 
先生の反応を見て、大きな違和感を覚えた。
 
去年の先生は、こんな性格じゃなかったはずだ。騒めく生徒たちを一括するような人で、冗談など通じない人だった。揶揄されて怒鳴り散らしている一年前の姿が思い出された。
「出席取るぞ」
 
出席簿を開いて教卓の上に出すと、番号順に名前を読み上げていった。生徒が返事をするたびに紙に何かを書き込んでいる。出席をチェックしているのだろう。
 
出席確認はテンポよく進んでいく。一人返事をするごとに、僕の中にある不安は大きくなっていった。

「斎藤和之(さいとうかずゆき)」

僕の姿を見るよりも先に、呼び慣れた口調で名前を呼んだ。

「……はい」
 
手も上げずに小声で返事をすると、教室内がざわついた。クラスメイトの視線が、一気にこちらに惹きつけられる。彼らは嘲笑うわけでもなければ好奇な目で見るわけでもなく、日常から外れた光景を観察するように僕を見ていた。
 
いたいのならば、勝手にそこにいればいい。
 
そう、言われているような気がした。
 
次の名前が呼ばれると、薄っすらと漂っていた不穏な空気は消えて、賑やかな雰囲気に戻った。頭を刈り上げた陽気な男子生徒が、手を上げて元気に返事をする。
 
最後の女子生徒が手を上げると、先生は「みんないるな」と言って出席簿を閉じた。
 
僕の存在など気にもせずに、ホームルームは進んでいく。出席を取り終えた後、各委員会の連絡事項を確認して時間割の確認を行った。
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