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クラスメイト
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「ねぇ」
机の角を叩かれて、初めてその声が僕に向けられていることに気がついた。頭上からの視線は、間違いなく僕を見ている。
「……何ですか?」
見上げた先には、女子生徒の姿があった。肩下まで伸びた茶色混じりの髪を揺らして、眉間にシワを寄せている。
「聞こえてた?」
「……えっと」
大きな瞳から逃げるように、机の上に視線を向ける。
考え事をしていたせいで、話しかけられていたことすら気付いていなかった。
「放課後、暇?」
横目で女子生徒の顔を確認する。教室の真ん中で、派手な友だちと騒いでいた女子生徒だ。スカート丈が短く、声も大きい。自分から関わりを持つことなどないタイプだった。
「この後ですか?」
「うん。来て欲しい場所があるの」
二つ返事で誘いに応じることはできなかった。何か特別な理由があるのでは、と勘繰ってしまう。そうでもない限り、昨日まで不登校だった僕に話しかける意味などないだろう。
「……それって僕じゃないとダメなんですか?」
「斎藤くんじゃないと意味がないって言う方が正しいかも」
「……そうなんですか」
目を閉じて、彼女の意図していることや行き先を考えるが、到底答えにはたどり着けそうもない。詐欺師と会話をしている気分だった。
「やっぱり嫌?」
「……そういうわけじゃないんですけど」
このまま曖昧に回答をして、どうにか諦めてくれないかと考えていた。
「ただ、今まで学校に来ていなかったことと関係あるのかなって思ったんです」
数いるクラスメイトと僕との違いは、それ以外になかった。
僕の言葉は、見事に図星を突いたようだった。彼女の視線がスッと窓側に逃げて行く。細い腕が、スカートの横で揺れていた。友だちと話している時には見せることのなかった、寂しげな顔をしている。
「……まあ、無理にとは言わないんだけど」
口籠る彼女の表情は、とても誰かを騙そうとしているものではなかった。本当に、僕に来てもらわなければならない理由があるようにも見える。
理由はわからなかったが、どうしても僕を連れていかなければいけないようだった。断られた彼女の心情を考えると、やるせない気持ちになる。
「……大丈夫ですよ」
言いながら、他人から言われ続けていた『優しさ』の存在に辟易した。相手の顔色を見て返事を選んでいる僕は、臆病者なだけで優しい人間ではない。
「本当に⁉️」
雲がかっていた表情が、一気に明るくなった。彼女の笑顔を見ると、僕の気持ちは安心と不安という正反対の感情に支配されていった。
どんなに先のことを考えて行動していても、結局相手に同情してしまう。彼女の気持ちを察してしまったからには、断ることなどできない。
「……はい」
「じゃあ、ホームルーム終わったらここに来るね」
女子生徒はそう言って小さく微笑むと、机から離れて教室の真ん中で笑い合う女子グループの中に消えてしまった。彼女の周りの人たちはみんな、制服を着崩して薄いメイクを施している。青春を謳歌している女子高生の手本のような容姿だ。
肘をついて、窓の外を眺める。グラウンドには、体育の授業の片付けをしている生徒たちの姿があった。
半開きになった窓から緩やかな風が吹き込んで、伸びた前髪を揺らす。疑心暗鬼になった僕の心と反対の、すべてを受け入れるような穏やかな風だった。
あの人が声を掛けてきた理由はわからない。
考えれば考えるほど、ネガティブな思考に寄っていっていく。
そのはずなのに、彼女が声を掛けてくれたおかげで孤独感がなくなったことも事実だった。
机の角を叩かれて、初めてその声が僕に向けられていることに気がついた。頭上からの視線は、間違いなく僕を見ている。
「……何ですか?」
見上げた先には、女子生徒の姿があった。肩下まで伸びた茶色混じりの髪を揺らして、眉間にシワを寄せている。
「聞こえてた?」
「……えっと」
大きな瞳から逃げるように、机の上に視線を向ける。
考え事をしていたせいで、話しかけられていたことすら気付いていなかった。
「放課後、暇?」
横目で女子生徒の顔を確認する。教室の真ん中で、派手な友だちと騒いでいた女子生徒だ。スカート丈が短く、声も大きい。自分から関わりを持つことなどないタイプだった。
「この後ですか?」
「うん。来て欲しい場所があるの」
二つ返事で誘いに応じることはできなかった。何か特別な理由があるのでは、と勘繰ってしまう。そうでもない限り、昨日まで不登校だった僕に話しかける意味などないだろう。
「……それって僕じゃないとダメなんですか?」
「斎藤くんじゃないと意味がないって言う方が正しいかも」
「……そうなんですか」
目を閉じて、彼女の意図していることや行き先を考えるが、到底答えにはたどり着けそうもない。詐欺師と会話をしている気分だった。
「やっぱり嫌?」
「……そういうわけじゃないんですけど」
このまま曖昧に回答をして、どうにか諦めてくれないかと考えていた。
「ただ、今まで学校に来ていなかったことと関係あるのかなって思ったんです」
数いるクラスメイトと僕との違いは、それ以外になかった。
僕の言葉は、見事に図星を突いたようだった。彼女の視線がスッと窓側に逃げて行く。細い腕が、スカートの横で揺れていた。友だちと話している時には見せることのなかった、寂しげな顔をしている。
「……まあ、無理にとは言わないんだけど」
口籠る彼女の表情は、とても誰かを騙そうとしているものではなかった。本当に、僕に来てもらわなければならない理由があるようにも見える。
理由はわからなかったが、どうしても僕を連れていかなければいけないようだった。断られた彼女の心情を考えると、やるせない気持ちになる。
「……大丈夫ですよ」
言いながら、他人から言われ続けていた『優しさ』の存在に辟易した。相手の顔色を見て返事を選んでいる僕は、臆病者なだけで優しい人間ではない。
「本当に⁉️」
雲がかっていた表情が、一気に明るくなった。彼女の笑顔を見ると、僕の気持ちは安心と不安という正反対の感情に支配されていった。
どんなに先のことを考えて行動していても、結局相手に同情してしまう。彼女の気持ちを察してしまったからには、断ることなどできない。
「……はい」
「じゃあ、ホームルーム終わったらここに来るね」
女子生徒はそう言って小さく微笑むと、机から離れて教室の真ん中で笑い合う女子グループの中に消えてしまった。彼女の周りの人たちはみんな、制服を着崩して薄いメイクを施している。青春を謳歌している女子高生の手本のような容姿だ。
肘をついて、窓の外を眺める。グラウンドには、体育の授業の片付けをしている生徒たちの姿があった。
半開きになった窓から緩やかな風が吹き込んで、伸びた前髪を揺らす。疑心暗鬼になった僕の心と反対の、すべてを受け入れるような穏やかな風だった。
あの人が声を掛けてきた理由はわからない。
考えれば考えるほど、ネガティブな思考に寄っていっていく。
そのはずなのに、彼女が声を掛けてくれたおかげで孤独感がなくなったことも事実だった。
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