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一年前の記憶
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記憶に残っている一年生の教室の景色に星見さんの姿はない。派手な女子こそいたが、その顔は似ても似つかなかった。
「あの時は地味だったし、ろくに人と話さなかったから覚えてないと思う」
言葉を聞き、星見さんの生徒手帳に貼り付けられたプリクラを思い出す。不器用に笑顔を作る、お世辞にも派手とは言えない星見さんの姿が写っていた。
「じゃ、じゃあ。あの生徒手帳のプリクラって……」
「去年撮ったやつ。文化祭で仲良くなったクラスメイトと取りに行ったんだ」
星見さんはそう言うと、足元に置いた通学カバンから改造された生徒手帳を取り出した。シールやプリクラが貼られた紫色の生徒手帳は、相変わらず派手だった。
「ほら見て」
生徒手帳をテーブルの上に置き、プリクラの右下に並ぶ数字を指差した。『2019』から始まる8桁の数字は、撮影した日付を表しているみたいだ。
「……本当はさ。斎藤くんが学校に来てなかった理由も、何をされてたのかも知ってたんだ」
顔を見て相槌を打つ。返す言葉が浮かばなかった。
「部活動に誘った理由は趣味を知ってたのもあったけど、見て見ぬ振りをしたことに後ろめたさを感じてたから。失った青春を取り戻す力になれたら、少しは私の気持ちも楽になるかなって思った」
感情に引っ張られた言葉が、口から引っ張られてそこら中に散らばった。制服の袖をギュッと握って、手を震わせている。
「無駄なことを言ってるのはわかってる。でも卑怯な私が許せなくて我慢できなかった」
身体中に感情が溢れ出した さんは、少しだけ赤くなった手で顔を覆い隠した。
「あの時、助けてあげられなくてごめんね。早く声をかけてあげられなくて、ごめんね」
「……」
今更、イジメの主犯でもないクラスメイトに頭を下げられて、何を言えばいいのだろう。
星見さんにとって、傍観していることは容認していることと同じだった。直接的な関わりはなくても、その場にいて行動しなかったことに罪の意識を感じている。
でも、そう考えていたとしても、苦しい思いをして星見さんが頭を下げる理由がわからない。貰った思い出はたくさんあったが、傷つけられたことなど一度もなかった。
顔色を伺った気休めの言葉を飲み込んで、言うべきセリフを必死に探す。
偽りの優しさに頼って、差し出された言葉を受け取ってはいけないと思った。それをすることは逃げであり、星見さんを傷つけてしまうことにもなる。
「……一年前のことを謝られても嬉しくないですよ」
今まで口にしたことのない、相手を拒むような言葉を吐いた。発した自分ですら、自らが選んだとは思えない。誰かが耳打ちしたものを、そのまま繰り返したと考えた方がよっぽど現実的だ。
それでも、偽りの優しさを失った言葉は止まることがない。
予想もしなかった返答を聞いて驚いているのか、星見さんは口を小さく開いて僕をじっと見ていた。
「別に星見さんに傷つつけられたわけじゃないです」
「でも––––」
「過去に声をかけなかったから、僕はアニメーション部に入れたんです。感謝するのは僕の方ですよ」
言葉を遮って、もう一度ハルカさんを真似て笑みを見せる。二度目だからか、少しは上手くやれているような気がした。
「僕のこと、何度も助けてくれてありがとうございます」
星見さんが笑ってくれることを願いながら、ゆっくりと頭を下げた。
「あの時は地味だったし、ろくに人と話さなかったから覚えてないと思う」
言葉を聞き、星見さんの生徒手帳に貼り付けられたプリクラを思い出す。不器用に笑顔を作る、お世辞にも派手とは言えない星見さんの姿が写っていた。
「じゃ、じゃあ。あの生徒手帳のプリクラって……」
「去年撮ったやつ。文化祭で仲良くなったクラスメイトと取りに行ったんだ」
星見さんはそう言うと、足元に置いた通学カバンから改造された生徒手帳を取り出した。シールやプリクラが貼られた紫色の生徒手帳は、相変わらず派手だった。
「ほら見て」
生徒手帳をテーブルの上に置き、プリクラの右下に並ぶ数字を指差した。『2019』から始まる8桁の数字は、撮影した日付を表しているみたいだ。
「……本当はさ。斎藤くんが学校に来てなかった理由も、何をされてたのかも知ってたんだ」
顔を見て相槌を打つ。返す言葉が浮かばなかった。
「部活動に誘った理由は趣味を知ってたのもあったけど、見て見ぬ振りをしたことに後ろめたさを感じてたから。失った青春を取り戻す力になれたら、少しは私の気持ちも楽になるかなって思った」
感情に引っ張られた言葉が、口から引っ張られてそこら中に散らばった。制服の袖をギュッと握って、手を震わせている。
「無駄なことを言ってるのはわかってる。でも卑怯な私が許せなくて我慢できなかった」
身体中に感情が溢れ出した さんは、少しだけ赤くなった手で顔を覆い隠した。
「あの時、助けてあげられなくてごめんね。早く声をかけてあげられなくて、ごめんね」
「……」
今更、イジメの主犯でもないクラスメイトに頭を下げられて、何を言えばいいのだろう。
星見さんにとって、傍観していることは容認していることと同じだった。直接的な関わりはなくても、その場にいて行動しなかったことに罪の意識を感じている。
でも、そう考えていたとしても、苦しい思いをして星見さんが頭を下げる理由がわからない。貰った思い出はたくさんあったが、傷つけられたことなど一度もなかった。
顔色を伺った気休めの言葉を飲み込んで、言うべきセリフを必死に探す。
偽りの優しさに頼って、差し出された言葉を受け取ってはいけないと思った。それをすることは逃げであり、星見さんを傷つけてしまうことにもなる。
「……一年前のことを謝られても嬉しくないですよ」
今まで口にしたことのない、相手を拒むような言葉を吐いた。発した自分ですら、自らが選んだとは思えない。誰かが耳打ちしたものを、そのまま繰り返したと考えた方がよっぽど現実的だ。
それでも、偽りの優しさを失った言葉は止まることがない。
予想もしなかった返答を聞いて驚いているのか、星見さんは口を小さく開いて僕をじっと見ていた。
「別に星見さんに傷つつけられたわけじゃないです」
「でも––––」
「過去に声をかけなかったから、僕はアニメーション部に入れたんです。感謝するのは僕の方ですよ」
言葉を遮って、もう一度ハルカさんを真似て笑みを見せる。二度目だからか、少しは上手くやれているような気がした。
「僕のこと、何度も助けてくれてありがとうございます」
星見さんが笑ってくれることを願いながら、ゆっくりと頭を下げた。
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