時司るリトルメイジ

温水康弘

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閑話休題002 そうだ!パソコンを作ろう

その一

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「う~ん、これも違うわね。どうも思うようなのがないわね」

 私は三条司。
 三条スイーパーカンパニーという会社を経営している小学生だ。
 実は先日ある仕事を終えた際に依頼者から、ある物を頂いた。
 それはSP5というゲームハードのゲームソフトをパソコン上で動かせるエミュレーターソフト。
 これさえあればSP5を無理して店で並んだりして購入する必要がない。
 ただ……このエミュレーターにはある問題があった。
 実はこのエミュレーターは開発途中のもので依頼者曰くゲームの動作は保証できるぐらいに完成しているのだが面倒な事がひとつ。
 まともに動作させるには高性能なゲーミングパソコンが必要なのだ。
 しかし我が家のパソコンは残念ながらその動作スペックに達していない。
 依頼者の話ではエミュレーターの完成版ではそれなりのゲーミングパソコンでも動かせるようにするとか。
 だけど私としても折角貰ったエミュレーターがあるから試したくなるのが人情だ。
 故に私はパソコンメーカーのサイトでゲーミングパソコンの検索に勤めていた。

「これはCPUのスペックが足りない……このモデルだとグラボとメモリの性能が厳しい」

 色々なメーカーサイトを検索しているが正直私が納得のいくパソコンが見つからない。
 BTOならスペックのカスタムができるが正直私としては外見にも拘りたい。
 何しろゲーミングパソコンはどうしても高性能になると大型になる。
 だから同じ大型なものを設置するなら部屋のインテリアとしてもマッチするものにしたい。
 ダサい外見など女の子の部屋に似合わない。

「さて、とりあえず今日は寝るか」

 気が付けばもう午前零時。
 仮にも小学生が起きていい時間ではない。
 会社の仕事中はともかく平時に夜更かしは子供らいくない。

 それから次の日。
 学校で私は親友にして戦友でもあるさもなに相談する。

「えっ?ゲーミングパソコン」
「そうなの。この前貰った例のエミュレーターを動かしたくて」
「あぁ……あのエミュレーターね。司ちゃんなら金を積んで一番高いの変えばいいじゃないの」
「スペックだけならね。けど同じ買うなら部屋のインテリアとしても通用するのが欲しいのよ」

 それから、さもなは暫く沈黙。
 そして……さもなが私に出した答えは?

「なら今度家電店でSP5を買いに行ったら?近頃は転売騒ぎも糸段落してるから朝一番から並んだら買える筈だよ」
「さもな」
「その点、私はこの前貰った試作の新型SP5で毎日楽しくゲームしてるよ。だから今度司ちゃんもSP5買った方が手っ取り早いよ」
「…………」
「SP5ってデザインもいいから部屋のインテリアにも最適だよ。今度の土曜日に入荷情報あったから並んでみたら?」

 しまった、この親友に聞いた私がバカだった。
 私は仮にも三条財閥の令嬢よ。
 何が悲しくて庶民と一緒に朝早くから辛い思いをして行列に並ばないといけないのかしら。
 それに私はエミュレーター入手がきっかけとはいえゲーミングパソコンが欲しいの!
 全く、この前の仕事で大暴走して窃盗未遂までしようとしたさもなに言われたくないわよ。

「司ちゃん」
「何よ」
「そんなにゲーミングパソコンが欲しいなら詳しい人が最近入社したじゃないの」
「あっ……」

 そういえば、先日の事件で入社した人がいました。
 中書島都ちゃんという十五歳の高校生。
 しかも彼女はさもなに負けないぐらいの筋金入りゲーマー。
 そういえば都ちゃんSP5のエミュレーターを自分のゲーミングパソコンで快適に楽しんでいるとか言ってた。
 となると……これは話を聞く価値があるわね。



 という訳で学校が終わり私とさもなは三条スイーパーカンパニー本社へ。




「あっ、司ちゃんにさもなちゃん。こんにちは!」
「こんにちは都ちゃん」
「こ~んにちは!都ちゃん」

 本社には最近入社した私の秘書兼ボディーガードである中書島都ちゃん高校一年生。
 正直さもな以外の会社関係者は私の事を社長と呼んでいたが……どうも都ちゃんも私の事は司ちゃんと名前呼び。
 公式の場ではやめて欲しいが普段は名前呼びでも悪い気はしない。
 だから、さもな同様都ちゃんも私の事は名前呼びでいいと通達してある。

「では司ちゃん、今夜の予定ですが……今夜は三条鉄工の役員さんとお食事会があります」
「はぁ……宗吾が出張してる時に限って接待だなんて。しかもあそこの重役って私を子ども扱いするから頭にくるのよね」

 ちなみに私の片右手といえる光善寺宗吾は現在お爺様のお供でドイツに出張中。
 なんでもドイツにある三条財閥傘下の会社でトラブルがあったらしくお爺様が直々に対処しに行っている。
 まいったな。
 あの手の重役との食事会では宗吾が一緒だと何かと頼りになるのに。

「どうかしましたか司ちゃん?」
「はぁ……今日は頭が痛いわ」

 仕方がない。
 今日はこの都ちゃんを同行させよう。
 宗吾と比べると不安だけど……やむを寝ないわ。



 だけど……いざ食事会が始まると、その心配は杞憂に終わった。
 都ちゃんの周囲への気配りは高校生とは思えない程完璧に近く、その気配りに周囲が驚くほどであった。
 それから都ちゃんと一緒に本社へ戻る途中で色々と話を聞く事に。

「貴方……何処かで執事とかメイドとかの教育受けていたの?あまりにも完璧な対応だったわよ」
「実は亡くなった実の父はその筋では有名な執事だったんです。小さい頃にその父から色々と執事としての心構えを教えてもらってましたから」

 これは驚いた。
 まさか都ちゃんって小さい頃に実の父から執事としての英才教育を受けていたとは。

「基本的な礼儀作法は父が生きている時に教えてもらいましたが……父が亡くなった後でお茶の入れ方や清掃は父が残したノートで独学だったかな」
「それにしては凄すぎるわよ」

 はは……これは思わぬ掘り出し物を雇えたものね。
 これは接待とかに関しては宗吾よりも有能だわ。
 もう今後は秘書ではなくて正式に執事として雇おうかしら。
 そうこうしている内に私達は本社へ到着。
 留守番していたさもなに迎えられて一息だ。

「処で都ちゃん」
「はい司ちゃん?」

 今日の仕事がひと段落したので私は都ちゃんに是非聞いてみたい事があるので聞いてみる事にする。

「都ちゃんはどんなゲーミングパソコンを使ってるの」
「はい!それは最新鋭のインテルCPUにメモリーは六十四ギガバイト!グラボは当然最上級のGeForce RTXですからね」
「最上級のグラボって私でも考えるぐらい高いじゃないの。 よくそんな高いブラボ買えたわね」
「そりゃゲーマーとしては金に糸目はつけません!だから色々とバイト番場ってきたのです」

 これは完全に趣味に生きる人って奴ね。
 うちは給料いいけど無駄遣いはしないで欲しいわね。

「それで……そのゲーミングパソコンをどうやって手に入れたの?やはりBTO?」
「司ちゃん!そんなの手緩いわ。やっぱり自分の相棒といえるパソコンは……自作よ自作!!」

 えっ、自作?
 パソコンって一から作れるものなの?

「そうですよ!自分の予算から自分に見合ったパーツを選別して自分で組み立てる。正に愛着が沸く自分だけの愛機が手に入るのです」
「自分でパーツを選ぶって……どうゆう事?」
「直接性能に関係するCPUやグラボは勿論、ストレージ容量とかも予算許す限り自由自在!更に規格さえ合えばケースも好きに選べます」

 えっ?
 ケースって……外見も好きに選べるの?
 となると、これは面白い事になってきたわ。

「都ちゃん、ケースってどんあのがあるの?」
「はいはい!司ちゃん、例えばこんなのはどうです?」

 都ちゃんはスマートフォン型魔具で検索して私に見せてきた。
 すると……これは派手なものからシックなものまで様々なケースがあるものね。

「そうね……できれば小さくて部屋のインテリアとしても会うケースがいいわね」
「ならマイクロATX規格のケースはどうでしょう。本当はもっと小さな規格があるけど高性能パーツは発熱が凄いからお勧めしませんから」
「成程、ならそれで行きましょうかしら。だけど可能ならケースの現物を見て判断したいわね」
「ならいっそ秋葉原に行きましょう!そこなら司ちゃん好みのケースが見つかるかも」

 秋葉原か。
 確かにあのディープな場所なら自分好みのケースが手に入るかも。
 もっとも今はそんなにディープじゃないそうだけど。

「そうだ、さもなちゃん」
「なに?」
「今度、司ちゃんがパソコンパーツ買いに行くんだけど……一緒に行かない?」
「やだ」
「どうして?」
「あ~んな気持ち悪いトコなんか行きたくないよ。それにゲームだったらSP5とポチットで間に合ってるしネットもノートパソコンで十分だよ」
「あらら」
「それにゲーミングパソコンなんて電気代バカ食いだから私はいらない!」

 あらら、確かにこれは正論。
 さもなって結構貧乏性だから電気代とかには敏感なのよね。

「じゃあ……今回は司ちゃんと二人で秋葉原に行きますか!」
「そうね、細かいパーツ選びは頼むわよ。私は自作パソコンについては素人だからね」
「わかりました!ここは私にお任せください」

 こうして、私と都ちゃんは今度の休日に秋葉原へ行く事に。
 果たして、今度の道中はどうなるのやら?



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