27 / 78
第三章~辻畑②
しおりを挟む
最初から殺して欲しい等とはせず、頭を悩まし苦しい状況を少しずつ語るよう努めた。それでも内容は現実に味わい、長い間思い続けてきた実話で嘘はない。だから説得力もあり真に迫っていた。
その為以前から使用していたサイトでは、これまでの利用者と同じく心配する人や共感してくれる方達のコメントがしばらく続いた。だが新サイトでは構って欲しい人達の似た書き込みがあるからか、疑いの目を向けられたり批難されたりした。
辻畑はそうしたコメントを、出来るだけスクリーンショットで残した。何故なら最初のアプローチから、履歴が残らないようにするのは不可能だからだ。よってその後闇サイトに誘導されたと気付いた時、そこへ導いたアカウントは必ず辿れる。そこから闇サイト運営者に近づく足取りが掴めるかもしれない。そう思ったのだ。
といってもどの書き込みからどう導かれるのか予測するのは不可能だ。それに一見して無関心、または真逆のコメントに反応する人が、また別アカウントで接触してくるかもしれない。そうした様々な可能性を考慮し、辻畑の記述に反応したものをほぼ全て記録するようにした。
しばらくは無駄な作業が続く覚悟をしつつ、勤務が終わり官舎に戻った際は必ず書き込みを行った。個人の携帯所持は他部署だと、勤務中の持ち込み禁止といった制限がされる。だが刑事は緊急の連絡で使用するケースがある為、許可されていたからだ。それでも誰が見ているか分からない。よって必ず勤務中は外で一人の時しか作業出来なかった。当初はそれがもどかしく思っていた。
しかし始めて二か月経過した頃には、当初の目的を忘れるほど没頭した。これまでの鬱憤だけでなく、実際日々起こる腹立たしさへのストレス発散に役立ったからだろう。
一つは捜査が全く進まなかった点だ。三月十五日を過ぎ、日暮航の高校受験が一段落ついた為に事情聴取は再開された。それまでは周囲の防犯カメラなどを徹底的に洗い、また目撃証言を探す範囲を広げ実行犯の足取りを追ったが、何も掴めていなかった。
そうした影響もあり、航から供述を引き出す重要性が増していた。しかし彼はこれまで以上に頑なな姿勢を示し、ほぼ口を開かなくなった。捜査員も焦っていたのだろう。つい口調が激しくなってしまう場面があり、その都度母親から抗議を受けた。結果弁護士が介入し警察の理不尽な態度を理由に、任意の事情聴取も応じなくなったのである。例の一千万円が手元に戻り、そうした余裕が出来たからと考えらえた。
やがて恐れていた事が現実になった。公立高校の合格発表で航はAB共に落ちた。結果、京都の私立高校で合格していた為、彼はそこへの進学が決まったのだ。よって当然二人で引っ越しを始め県外へ出てしまい、県警による事情聴取は実質できなくなったのである。その為京都府警に捜査依頼をし、引き継ぎを行わざるを得なくなった。
だが警察庁から通達を受けたとはいえ、日暮親子はあくまで犯罪被害者遺族だ。しかも殺人依頼の証拠もない。さらに被疑者が未成年だからか、彼らは完全に腰が引けていた。 京都府内で一連の事件の事案があったなら、もう少し状況は変わっていたかもしれない。しかし日暮親子が移り住んだ頃は、該当または疑われる事故や事件が一件も無かった。よって捜査はほぼ止まってしまったのだ。
予想してはいたが、現実にそうなれば動きは鈍くなる。警視庁から京都府警へ発破をかけて貰い、また愛知県警に対しても引き続き合同捜査体制を維持する旨は告げられた。しかし県警が抱えている事件はこれだけでない。他にも未解決案件があり、また有名人の覚せい剤所持といった世間から注目を浴びる新たな事件が発生していた。そうした理由から捜査本部の体制が徐々に縮小されたのである。
辻畑と尾梶は警視庁等と情報を共有する役目だった為、引き続き任務を担ったままその他の事件にも駆り出された。とはいえ他の捜査本部でも進捗が無かった為、実質は名ばかりの役目だった。時折思い出したように的場と互いの状況確認をしたが新情報はないとの話ばかり続いた。またそれは尾梶の仕事だった為、辻畑はほぼ手を引いた状態だったのだ。
その頃には介護サイトへの書き込みが、仕事より毎日愚痴を吐くルーティンになっていた。それが丁度いいストレス発散でもあったのだ。記述することはいくらでもある。性別を逆にして特定されないようにしようかとも考えたが、かつての質問で母親の世話をする息子とばれる個所があると気付き、小細工は止めた。
―何故母は介護されている立場なのに、こうも辛く当たるのか。父が生きていた頃は違ったのに。どうしてこうも人の悪口を言うのか―
介護される側も内心辛い思いをしているのではないかとか、夫を亡くした哀しみをぶつけているのでないかという慰めの言葉をかけられたが、辻畑の心には全く響かなかった。
―辛い思いをしているのは母だけじゃない。自分もそうだ。なのに感謝どころか、どうしてもっとできないのかと文句ばかりをぶつけて来る。だから妻に出て行かれたのだ―
するとある時から、イラっとさせるコメントが増えてきた。
―介護する側が感謝を求めるのは間違いですー
―奥さんが出て行った理由は介護だけでしょうか。あなたや別の所に問題があり、それを言い訳にしたのかもしれませんよー
―お母さんは夫に虐げられてはいませんでしたか。だから亡くなられてやっと解放されたのかもしれません。それまで我慢していた分、反動が出たのでしょう。しばらくは受け止めてあげるのが子としての務めでしょうー
辻畑は反論した。
その為以前から使用していたサイトでは、これまでの利用者と同じく心配する人や共感してくれる方達のコメントがしばらく続いた。だが新サイトでは構って欲しい人達の似た書き込みがあるからか、疑いの目を向けられたり批難されたりした。
辻畑はそうしたコメントを、出来るだけスクリーンショットで残した。何故なら最初のアプローチから、履歴が残らないようにするのは不可能だからだ。よってその後闇サイトに誘導されたと気付いた時、そこへ導いたアカウントは必ず辿れる。そこから闇サイト運営者に近づく足取りが掴めるかもしれない。そう思ったのだ。
といってもどの書き込みからどう導かれるのか予測するのは不可能だ。それに一見して無関心、または真逆のコメントに反応する人が、また別アカウントで接触してくるかもしれない。そうした様々な可能性を考慮し、辻畑の記述に反応したものをほぼ全て記録するようにした。
しばらくは無駄な作業が続く覚悟をしつつ、勤務が終わり官舎に戻った際は必ず書き込みを行った。個人の携帯所持は他部署だと、勤務中の持ち込み禁止といった制限がされる。だが刑事は緊急の連絡で使用するケースがある為、許可されていたからだ。それでも誰が見ているか分からない。よって必ず勤務中は外で一人の時しか作業出来なかった。当初はそれがもどかしく思っていた。
しかし始めて二か月経過した頃には、当初の目的を忘れるほど没頭した。これまでの鬱憤だけでなく、実際日々起こる腹立たしさへのストレス発散に役立ったからだろう。
一つは捜査が全く進まなかった点だ。三月十五日を過ぎ、日暮航の高校受験が一段落ついた為に事情聴取は再開された。それまでは周囲の防犯カメラなどを徹底的に洗い、また目撃証言を探す範囲を広げ実行犯の足取りを追ったが、何も掴めていなかった。
そうした影響もあり、航から供述を引き出す重要性が増していた。しかし彼はこれまで以上に頑なな姿勢を示し、ほぼ口を開かなくなった。捜査員も焦っていたのだろう。つい口調が激しくなってしまう場面があり、その都度母親から抗議を受けた。結果弁護士が介入し警察の理不尽な態度を理由に、任意の事情聴取も応じなくなったのである。例の一千万円が手元に戻り、そうした余裕が出来たからと考えらえた。
やがて恐れていた事が現実になった。公立高校の合格発表で航はAB共に落ちた。結果、京都の私立高校で合格していた為、彼はそこへの進学が決まったのだ。よって当然二人で引っ越しを始め県外へ出てしまい、県警による事情聴取は実質できなくなったのである。その為京都府警に捜査依頼をし、引き継ぎを行わざるを得なくなった。
だが警察庁から通達を受けたとはいえ、日暮親子はあくまで犯罪被害者遺族だ。しかも殺人依頼の証拠もない。さらに被疑者が未成年だからか、彼らは完全に腰が引けていた。 京都府内で一連の事件の事案があったなら、もう少し状況は変わっていたかもしれない。しかし日暮親子が移り住んだ頃は、該当または疑われる事故や事件が一件も無かった。よって捜査はほぼ止まってしまったのだ。
予想してはいたが、現実にそうなれば動きは鈍くなる。警視庁から京都府警へ発破をかけて貰い、また愛知県警に対しても引き続き合同捜査体制を維持する旨は告げられた。しかし県警が抱えている事件はこれだけでない。他にも未解決案件があり、また有名人の覚せい剤所持といった世間から注目を浴びる新たな事件が発生していた。そうした理由から捜査本部の体制が徐々に縮小されたのである。
辻畑と尾梶は警視庁等と情報を共有する役目だった為、引き続き任務を担ったままその他の事件にも駆り出された。とはいえ他の捜査本部でも進捗が無かった為、実質は名ばかりの役目だった。時折思い出したように的場と互いの状況確認をしたが新情報はないとの話ばかり続いた。またそれは尾梶の仕事だった為、辻畑はほぼ手を引いた状態だったのだ。
その頃には介護サイトへの書き込みが、仕事より毎日愚痴を吐くルーティンになっていた。それが丁度いいストレス発散でもあったのだ。記述することはいくらでもある。性別を逆にして特定されないようにしようかとも考えたが、かつての質問で母親の世話をする息子とばれる個所があると気付き、小細工は止めた。
―何故母は介護されている立場なのに、こうも辛く当たるのか。父が生きていた頃は違ったのに。どうしてこうも人の悪口を言うのか―
介護される側も内心辛い思いをしているのではないかとか、夫を亡くした哀しみをぶつけているのでないかという慰めの言葉をかけられたが、辻畑の心には全く響かなかった。
―辛い思いをしているのは母だけじゃない。自分もそうだ。なのに感謝どころか、どうしてもっとできないのかと文句ばかりをぶつけて来る。だから妻に出て行かれたのだ―
するとある時から、イラっとさせるコメントが増えてきた。
―介護する側が感謝を求めるのは間違いですー
―奥さんが出て行った理由は介護だけでしょうか。あなたや別の所に問題があり、それを言い訳にしたのかもしれませんよー
―お母さんは夫に虐げられてはいませんでしたか。だから亡くなられてやっと解放されたのかもしれません。それまで我慢していた分、反動が出たのでしょう。しばらくは受け止めてあげるのが子としての務めでしょうー
辻畑は反論した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
その人事には理由がある
凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。
そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。
社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。
そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。
その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!?
しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる