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第七章~並木⑧
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この人はどこまで知っているのか。驚愕して彼から目が離せず何も反応できずにいると、更なる追い打ちをかけて来た。
「お前がここに来たのはそうした情報を誰よりも早く手にし、証拠隠滅を図る予定だったんだろう。何故なら俺の母を殺した実行犯はお前だからな。しかも並木家の祖母を殺すよう依頼したのはお前の妻だ。それを知られる訳にはいかないと考えたんじゃないのか」
彼は全てお見通しだったようだ。尾梶家から資産家の並木家の養子に入ったのはいいが、祖母の介護に疲れた砂羽が闇サイトに書き込み、事故と見せかけ殺して貰ったと一千万円を見せられ説明された時は驚いた。
彼女は罪の意識に苛み精神を病み寝込んだ。それから闇サイト運営者を名乗る者から罪を暴かれたくなければ指示に従えと連絡が入った。それから闇サイトの運営は複数の人間から情報を集めていると分かった。そこから彼女には実行能力がなくとも、夫で刑事の並木なら利用できると判断されたのだろう。
ちなみに養子に入り姓は並木に変わったけれど、辻畑達から尾梶と呼ばれていたのは支障をきたさないよう仕事場では旧姓を使った為だ。その後警部補に昇進し県警の刑事課へ配属されたのを機に、本名の並木を名乗るようになった。
並木は指示を受け、警察でしか得られない依頼主等の個人情報を横流しした。そうせざるを得なかった。恐らく似た動かされていた人物は全国にいたはずだ。しかしそれだけで済まなかった。とうとう実行犯になるよう指示されたのだ。その相手が辻畑の母親だった。
もちろん白木場は囮捜査だと知っていた。それでも殺害を指示したのは、同じような仲間を増やしたかったからだろう。当時まだ所轄刑事に過ぎない並木より、県警刑事課で切れ物の辻畑を取り込んだ方が、利用価値は高いと思ったのかもしれない。
けれどそれが過ちだった。彼は利用されることを嫌ったどころか表向きは自己都合で辞めながら当時組んでいた並木を欺き、裏では警視庁と連携を取り闇サイトの全貌を暴く動きをしていたのだ。
しかも再び自らを囮に使い、犯罪者になって白木場の隙を突き逮捕にまで追い込んだ。それ程の熱い思いを持っていたとは白木場も想定外だったに違いない。
それは並木だって同じだ。辻畑は警察を去るより前から母親を殺した実行犯が並木だと知っていたか、あるいは疑っていたのだろう。だから五年もの間、警視庁との繋がりを隠していたと思われる。
これ程長く泳がされたのは、恐らく実行犯として確実な証拠が得られなかったからかもしれない。また事件の被害者における個人情報を、どうやって盗み主犯格に伝えているかを掴もうとした可能性もあった。
けれど辻畑の母親を殺害した以降、闇サイト運営者からの接触はしばらく途絶えていた。久しぶりに連絡が来たのは、猪川理恵の近辺調査についてである。
しかしそれは警察の内部情報を不正に得る真似をせずとも、手に入る程度の内容で済んだ。もちろん闇サイト側とのやり取りは残らない。その為引き続き様子を見るしかなかったのだろう。
けれど吾妻瞳の件で核心に迫れると睨んだ辻畑は、白木場が闇サイト運営者の可能性が高いと告げ、アリバイなどを調べさせたに違いない。彼はそうして並木を利用し巻き込もうと考えたようだ。
何故なら運営者が逮捕されればかつて事件に関わった人物の情報が警察の手に渡る。そうなれば並木が辻畑の母親を殺した件や、妻が祖母の殺害を依頼した件が明らかになってしまう。
とはいえいつまでも運営者に弱みを握られているのは本意でないはずだ。よって逮捕には協力するが、家宅捜索等が入るより先に情報の入手、又は破棄を目論むに違いないと予想していたのだろう。
そこで囮となった辻畑と共に白木場を逮捕、または家宅捜索令状が取れた段階で、並木の身柄も確保しようと彼らは計画を立てたに違いない。
このままでは砂羽まで逮捕される。それは絶対に避けたい。その為には部屋にあるだろう白木場のパソコン等を破壊する必要があった。咄嗟に間取りを頭に思い浮かべた。
先程彼が座布団を取りに移動した際、ちらりと見えたリビングの隣の部屋は彼の寝室と思われた。発信源を辿らせないよう複数の海外サーバを経由し闇サイトを運営し、特殊なアプリまで使用していたなら、複数のパソコンを駆使しているに違いない。
ならばもう一つの部屋がパソコン等を置いた書斎だろう。そこに全ての情報が蓄積されているはずだ。
当初は家宅捜索の場に立ち会い、証拠となるものを発見してこっそり盗み出すか、出来なければ事前にコンピューターウイルスを忍ばせたUSBを差し込み、中から破壊してしまおうと思っていた。
しかしこの状況だとその手は使えない。早いのは物理的に消滅させる方法だ。しかしパソコン等を叩き壊そうとすれば、的場達に取り押さえられてしまう。
そこでゆっくりと立ち上がった並木は書斎に向かおうとした。
「おい。今更逃げるつもりか」
辻畑の厳しい言葉をかわす。
「いえ、急に喉が渇いたので」
そう言いながら上着の内ポケットに手を伸ばそうとした時、ドヤドヤと複数の足音が聞こえたと思った瞬間、並木は部屋に飛び込んできた複数の男達に取り押さえられた。
「これで何をするつもりだ」
握っていたライター用オイルを奪い取られ、さらに体を持ち上げられ胸ポケットに入っていたライターを抜き取られた。
「火を点けるつもりだったのか」
やはり捜査員を待たせていたらしい。これだけの仕掛けをしたなら身柄の拘束に応援要員を呼ぶと思った。だから駆け付けるより先に火を点け、部屋全体を燃やして証拠隠滅を図ろうとしたが遅かったようだ。
「何だ、お前ら。勝手に人の家に入って来るんじゃない」
白木場は怒鳴ったが、捜査員の一人が前に出て書類を見せ、彼の口を塞いだ。
「白木場義信だな。吾妻瞳殺害の容疑で家宅捜索令状が出ている。ここにいる辻畑明の証言と彼のスマホの解析で、お前が被害者の遺体を山に埋めるよう指示したことは明らかだ。お前は他にも猪川理恵の殺害及び闇サイトを運営し、これまで十数人の殺害依頼を受け実行に移すよう指示した容疑もかかっている。署まで同行して貰おうか」
「お前がここに来たのはそうした情報を誰よりも早く手にし、証拠隠滅を図る予定だったんだろう。何故なら俺の母を殺した実行犯はお前だからな。しかも並木家の祖母を殺すよう依頼したのはお前の妻だ。それを知られる訳にはいかないと考えたんじゃないのか」
彼は全てお見通しだったようだ。尾梶家から資産家の並木家の養子に入ったのはいいが、祖母の介護に疲れた砂羽が闇サイトに書き込み、事故と見せかけ殺して貰ったと一千万円を見せられ説明された時は驚いた。
彼女は罪の意識に苛み精神を病み寝込んだ。それから闇サイト運営者を名乗る者から罪を暴かれたくなければ指示に従えと連絡が入った。それから闇サイトの運営は複数の人間から情報を集めていると分かった。そこから彼女には実行能力がなくとも、夫で刑事の並木なら利用できると判断されたのだろう。
ちなみに養子に入り姓は並木に変わったけれど、辻畑達から尾梶と呼ばれていたのは支障をきたさないよう仕事場では旧姓を使った為だ。その後警部補に昇進し県警の刑事課へ配属されたのを機に、本名の並木を名乗るようになった。
並木は指示を受け、警察でしか得られない依頼主等の個人情報を横流しした。そうせざるを得なかった。恐らく似た動かされていた人物は全国にいたはずだ。しかしそれだけで済まなかった。とうとう実行犯になるよう指示されたのだ。その相手が辻畑の母親だった。
もちろん白木場は囮捜査だと知っていた。それでも殺害を指示したのは、同じような仲間を増やしたかったからだろう。当時まだ所轄刑事に過ぎない並木より、県警刑事課で切れ物の辻畑を取り込んだ方が、利用価値は高いと思ったのかもしれない。
けれどそれが過ちだった。彼は利用されることを嫌ったどころか表向きは自己都合で辞めながら当時組んでいた並木を欺き、裏では警視庁と連携を取り闇サイトの全貌を暴く動きをしていたのだ。
しかも再び自らを囮に使い、犯罪者になって白木場の隙を突き逮捕にまで追い込んだ。それ程の熱い思いを持っていたとは白木場も想定外だったに違いない。
それは並木だって同じだ。辻畑は警察を去るより前から母親を殺した実行犯が並木だと知っていたか、あるいは疑っていたのだろう。だから五年もの間、警視庁との繋がりを隠していたと思われる。
これ程長く泳がされたのは、恐らく実行犯として確実な証拠が得られなかったからかもしれない。また事件の被害者における個人情報を、どうやって盗み主犯格に伝えているかを掴もうとした可能性もあった。
けれど辻畑の母親を殺害した以降、闇サイト運営者からの接触はしばらく途絶えていた。久しぶりに連絡が来たのは、猪川理恵の近辺調査についてである。
しかしそれは警察の内部情報を不正に得る真似をせずとも、手に入る程度の内容で済んだ。もちろん闇サイト側とのやり取りは残らない。その為引き続き様子を見るしかなかったのだろう。
けれど吾妻瞳の件で核心に迫れると睨んだ辻畑は、白木場が闇サイト運営者の可能性が高いと告げ、アリバイなどを調べさせたに違いない。彼はそうして並木を利用し巻き込もうと考えたようだ。
何故なら運営者が逮捕されればかつて事件に関わった人物の情報が警察の手に渡る。そうなれば並木が辻畑の母親を殺した件や、妻が祖母の殺害を依頼した件が明らかになってしまう。
とはいえいつまでも運営者に弱みを握られているのは本意でないはずだ。よって逮捕には協力するが、家宅捜索等が入るより先に情報の入手、又は破棄を目論むに違いないと予想していたのだろう。
そこで囮となった辻畑と共に白木場を逮捕、または家宅捜索令状が取れた段階で、並木の身柄も確保しようと彼らは計画を立てたに違いない。
このままでは砂羽まで逮捕される。それは絶対に避けたい。その為には部屋にあるだろう白木場のパソコン等を破壊する必要があった。咄嗟に間取りを頭に思い浮かべた。
先程彼が座布団を取りに移動した際、ちらりと見えたリビングの隣の部屋は彼の寝室と思われた。発信源を辿らせないよう複数の海外サーバを経由し闇サイトを運営し、特殊なアプリまで使用していたなら、複数のパソコンを駆使しているに違いない。
ならばもう一つの部屋がパソコン等を置いた書斎だろう。そこに全ての情報が蓄積されているはずだ。
当初は家宅捜索の場に立ち会い、証拠となるものを発見してこっそり盗み出すか、出来なければ事前にコンピューターウイルスを忍ばせたUSBを差し込み、中から破壊してしまおうと思っていた。
しかしこの状況だとその手は使えない。早いのは物理的に消滅させる方法だ。しかしパソコン等を叩き壊そうとすれば、的場達に取り押さえられてしまう。
そこでゆっくりと立ち上がった並木は書斎に向かおうとした。
「おい。今更逃げるつもりか」
辻畑の厳しい言葉をかわす。
「いえ、急に喉が渇いたので」
そう言いながら上着の内ポケットに手を伸ばそうとした時、ドヤドヤと複数の足音が聞こえたと思った瞬間、並木は部屋に飛び込んできた複数の男達に取り押さえられた。
「これで何をするつもりだ」
握っていたライター用オイルを奪い取られ、さらに体を持ち上げられ胸ポケットに入っていたライターを抜き取られた。
「火を点けるつもりだったのか」
やはり捜査員を待たせていたらしい。これだけの仕掛けをしたなら身柄の拘束に応援要員を呼ぶと思った。だから駆け付けるより先に火を点け、部屋全体を燃やして証拠隠滅を図ろうとしたが遅かったようだ。
「何だ、お前ら。勝手に人の家に入って来るんじゃない」
白木場は怒鳴ったが、捜査員の一人が前に出て書類を見せ、彼の口を塞いだ。
「白木場義信だな。吾妻瞳殺害の容疑で家宅捜索令状が出ている。ここにいる辻畑明の証言と彼のスマホの解析で、お前が被害者の遺体を山に埋めるよう指示したことは明らかだ。お前は他にも猪川理恵の殺害及び闇サイトを運営し、これまで十数人の殺害依頼を受け実行に移すよう指示した容疑もかかっている。署まで同行して貰おうか」
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