音が光に変わるとき

しまおか

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再会(正男の視点)~⑦

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 千夏がブラサカを通じて多くの人と知り合うことができ、交流の幅が巧以外にもますます広がっていくことを、正男はとても有難いことだと感謝した。
 それだけではない。九月にIOCが発表した二〇二〇年のオリンピック・パラリンピックの開催都市が東京に決まった影響からか、この年の十二月二十四日、日本ブラサカ協会主催による女子ブラサカ練習会なるものが初めて開催されたのだ。
 全国からブラサカをやる女子選手達を集め、将来的に女子だけのチームを作り、日本代表チームを形成したいという動きの一つだという。さらにその女子練習会は翌年一月の開催も決まっていた。
 当然のことながら、千夏は関東で開催されるその練習会へ参加することを決めていた。その頃から彼女の心の中では、ブラサカに対する目標がどんどんと高まっていたようだ。
 正男はブラサカが、パラリンピックの競技種目であることは調べて知っていた。しかしオリンピックでも男子サッカーや女子サッカーがあるように、またパラリンピックでもそれぞれの種目には男女別に行われているのが普通だと思っていた。
 だがパラリンピックの中には競技人口の少なさからか、男子しか正式種目になっていないものが多数あることを後になって知った。その中の一つがブラサカだった。
 しかもBー1と呼ばれる全盲クラスしか参加できず、その下のBー2、Bー3という弱視クラスが行うロービジョンフットサルは、まだパラリンピック種目に選ばれていない。
 ちなみに千夏は障害の度合いから言えば、Bー1の全盲クラスに入る。けれどもまだ女子の種目が無いのだ。
 しかし日本のブラサカ界では、女子だけのチームを作ろうと動きだしていた。女子選手が徐々に増えていけば、いずれは女子だけの国内リーグ戦が開催できるまで選手の底上げを図りたいと画策しており、今はまだその道半ばだという。
 そこで今ある日本国内のチームは、競技人口が多くないため男女混合で試合をすることを可能としており、女子はそこでしか活躍の場が無いのが現状だった。さらにブラサカの男子日本代表ですら世界から見ればレベルは高くなく、今までパラリンピックに出場したことさえ無いという。
 日本のブラサカ界がそんな状況にもかかわらず、千夏がパラリンピックの日本代表になることを目指していると正男が初めて聞いた時には、余りにも遠い夢を見ていると思ったし、とても信じられなかった。
 それでも彼女は逆転の発想で、女子リーグ、または代表ができる前に国内リーグでより質が高い男子に交じってプレーし、自らの実力を高めようと考えていた。既存にある国内リーグは女性も参加できるという点に目をつけたのが千夏らしい。
    いずれ女子の日本代表チームができる時に備え、発足すれば第一号の代表選手になりたい。決して遠くない未来にやがて行われるだろう女子ブラサカがパラリンピック種目となれば、そこで日本初の出場切符を手に入れたい、というとんでもない高い目標を彼女は掲げたのだ。
 やはり視力に障害があっても、自分は日本代表にまで選ばれたという自負があったのだろう。障害者になってからは家に引きこもり塞ぎがちであった千夏が、積極的に外へ出られるようになり、周りの人達と積極的にコミュニケーションを取ることができるようになったきっかけがブラインドサッカーである。そこで彼女は多くを学んだようだ。
 障害者となった千夏は、健常者だった頃と違って自分一人ではできないことが多い。自分が何かしようとするならば、何かしら他の人の力を借りなければならなかった。
 そのことで周りに迷惑をかけてしまっている、という気持ちと母の真希子への遠慮も手伝ってか、視力を失った当初は全ての行動を委縮させてしまっていた。
 だが真希子が入院し、正男と朝子の手を借りて生活するようになってからの千夏は、周りの手を借りないとやっていけないのだという現実を、真正面から受け入れはじめた。
 だからといって甘えることなく、自分自身で出来ることは自分でやる。その分できないことはできません、とはっきりと周りに意思表示をして助けて貰う。その方が生活する上には自分にとっても、補助する人にとっても必要なことだと彼女は少しずつ思い直したという。
 障害者としての心得を習得して行く中で千夏はブラサカに出会い、そこでさらに声を出して周りとコミュニケーションを取っていった。しかも健常者の声に助けられながらボールの音を聞き分け、周りの選手の動きを察知しながら障害者である自分が健常者の守るゴールを破る、というスポーツに快感を覚えたようだ。
 幸い視力を失っても千夏は元々ボール捌きには定評があった。ブラサカという独特なスポーツに慣れてしまえば、あとは彼女の負けん気を持って努力し、相手が男であろうが突っ込んでいくだけだった。
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