7 / 15
第一章、三百年前
番外編 夢の中
しおりを挟む長い長い眠りの中、イヴは夢を見ていた。遠い昔の、それもこどもの頃の記憶。
それはイヴ自身も忘れかけているようなとても残酷な記録。
イヴが物心ついたとき、すでに実の両親は存在していなかった。育ての親はマヤという女性。マヤは魔女のレッテルを貼られ、街を追われた身だった。
薬学に精通しており、二人は自給自足をしながら黒苺の森で暮らしいていた。どういう経緯でイヴを育てることになったのか、詳しく話すことはなかったが捨て子の様なものだと説明されていた。
魔女の名を受けるだけあって、吸血鬼の生態にも精通していた彼女は知識をこれでもかとイヴに与えた。また、マヤは語学にも秀でていたためイヴはいつの間にか5ヶ国語が話せるまでになっていたのだ。
しかし、イヴに名前だけは与えず「お嬢様」と呼び続けた。二人の関係は母と子というより従者と主人のようなものに近かったのである。
そして、マヤには恋人がいた。その恋人は週末になると森にやって来きて、二人に会いにくる。
誰一人として血の繋がらない家族だったが、イヴにとって、とても幸せな日々だった。
イヴが十歳になったころのある週末の昼下がり。マヤに頼まれ黒苺を摘みにでた。
「お嬢様、黒苺を篭一杯摘んできてくださいな。私はスコーンを焼いておきますね」
「わかった。マヤ」
いつもと同じように送り出してくれたマヤ。
イヴは誉めてもらいたくて張り切って外に飛び出した。いつも摘みに行っている野生の苺畑が家の近くにあり、そこに摘みに行くのが仕事だった。
「そういえば今日はあの人が来る日だな」
父親同然のマヤの恋人のことだった。実の子どものようにイヴを可愛がってくれるその人に、とても懐いていた。
「マヤがスコーンを焼いているうちにいっぱいとってびっくりさせてやろう!!」
無邪気に苺摘みに夢中になるイヴ。時間を忘れて摘んでいた。苺の甘酸っぱい匂いに包まれながら篭山盛り一杯になるまで。
「そろそろいいかな。これなら二人ともきっと驚くぞっ!!」
意気揚々と家まで駆けていくイヴ。しかし、家に近づけば近づくほど変わった匂いがし始めた。スコーンの香ばしい香りとは違う、鉄臭い匂い。違和感を抱きながらも家に入る。
「マヤ!戻ったよ!みて、こんなに一杯になったんだ!!」
返事がない。スコーンの香りもしない。
「マヤ……??どうしたの??」
呼び掛けながらキッチンへ向かうイヴ。キッチンのドアを開けたとき、目に飛び込んできた光景は理解が追い付くものではなかった。
壁と床に飛び散る血痕。横たわる義母と義父。黒い服で十字架を首から下げた何人かの見知らぬ男たち。
「誰なの……??マヤ……なんで」
「お前が吸血鬼だな?おとなしく我々と一緒に来てもらおうか」
「いやだ!!起きてマヤ!!なんでこんな目に合わないといけないんだ!!」
「この女がお前の引き渡しを拒否したからだ」
男の一人がイヴの右手を引っ張った。
「そうか……そういうことなんだな。マヤたちを傷つけたのはお前たちなんだな?」
赤く鋭い目でその男を睨み付けた。イヴは自分の精神が段々崩れていくのがわかった。そして、男たちを許さないと心の底から強く強く念じた。
イヴの記憶は一旦ここで止まる。
次にイヴがイヴとして意識を戻した頃には男たちの姿は消えていた。
残ったのは冷たくなったマヤ一人の身体だけ。義父の身体は無くなっていた。
「マヤ……助けてあげられなくてごめん……ボクはこの森でずっとマヤと一緒にいるから」
三日かけてイヴは裏庭に穴を堀り、マヤを弔った。
それからアベルに会うまでの十五年、イヴは一切の吸血を絶ち森に籠っていた。あの日、アベルと契約していなかったら餓死寸前だったことを自覚していないのだ。
過去の記憶を遡り、イヴは目覚めの時を迎える。
0
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います
黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。
美人で聡明な長女。
利発で活発な次女。
病弱で温和な三女。
兄妹同然に育った第二王子。
時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。
誰もがそう思っていました。
サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。
客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
