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第二章 吸血鬼と少年
1、目覚めのとき
しおりを挟むイヴが目を覚ました。
それは眠ってから三百年も経過した後だった。この間、イヴの身体は黒い鉄製の柩に入れられ鍵が掛かれていた。
まるでその蓋を開く時を静かに待つように。時は流れ、その柩はスペインから日本に運ばれ、小さな教会にて保管されていたのだった。
「お腹が空いた……」
目覚めたイヴの第一声。三百年の断食は吸血本能を刺激したのだった。偶然居合わせた、教会に住む少年を襲ったがしかし、血の契約の発動によって無理やり理性を取り戻す羽目になった。
「で、君は自分が三百年以上生きている吸血鬼だと」
「……そうだ」
林檎をまるごとムシャムシャ噛りながら返事をするイヴ。空腹を察して雪斗が与えた赤い林檎だ。
「ボクはイヴ。三百年前に胡散臭い牧師に名前をつけられてな。そいつに無理やり服従させられてたという訳だ」
「俺が親から聞いていたのは、その柩の中身は聖骸と呼ばれていたってことくらいなんだけど、君は死体ではないよな?」
「聖骸?笑わせる。ボクはそんな神聖なものになった記憶はないし生きている。この林檎うまいな」
ペロリと一つ食べきり、ちゃっかりもう一つに手を伸ばすイヴ。
「あと俺の血液が人と違うとか言ってたよな?」
「アダムズコード」
「僕を服従させた牧師は三百年前にとうに死んでるはず。その呪術の契約は本人の血液に紐付けしてるから術者にしか契約効力がないはずなんだが。先程の状況から推測するに、お前もその牧師と同じアダムズコードだからではないかと思ったんだが」
「そのアダムズコードが何かよく分からないけど、そうだったとしたら他の人間と何が違うんだよ」
「アダムズコードは原始の人間とほぼ同じ構造の血液。人間と吸血鬼が進化の過程で枝分かれした時に残ったものと言われてるな。吸血鬼のご馳走なんだ。今まで命の危機に会ったことはないか?」
「そんなの茶飯事だ。歩いていれば物は落ちてくるし、車も突っ込んできたり。不幸体質といって片付けてきたんだが……」
二つ目の林檎を頬張りながらイヴが雪斗へ近寄よった。
「ちょっと指をかして」
「ああ…」
そのまま雪斗の人差し指を口に咥えた。
「悪い。一瞬だけ痛いが我慢してくれ」
指先に牙を押し当て、一滴だけ血を舐めとった。ふわっと甘い懐かしい匂いがただよった。そして舐めとった。
「この味は間違いない、アダムズコードだ」
「じゃあこれからも??」
「ずっと命を狙われるんだろうな。他の吸血鬼達は虎視眈々とお前の血を狙っている筈だ」
「勘弁してくれよ」
いきなり空想の産物のような話を突きつけられ、雪斗は頭の整理が追い付いていなかった。だが、同時に日常茶飯事の危険現象に身の危うさも感じていた。
「そうだ、取引しないか?」
「取引?」
「ボクは現状色々な力が制限されているし、三百年もタイムスリップしてるような状態だ。外に出たところで野垂れ死に。主食である血液はどうやらお前のものなら飲めるようだし。ボクをボディーガードとして雇わないか?」
「対価に血を寄越せと?」
「ああ、といっても二週間に一回数滴でいい。吸い殺したりはしないから。期限はボクの制限が解けるまでか、君が死ぬまで」
「……わかった。」
「君の名前は何て言うんだ?」
「雪斗。神代雪斗だ」
「じゃあ雪斗、一つ教えてほしいんだが。この教会はガト・グリスという教団とは繋がりがあるか?えと日本語だと黒猫か」
「ガト・グリス教団?いやそんな話は聞いたこと無いけど。あ、ガト・グリス社は大手製薬会社だ」
「製薬会社?そんな筈は。ガト・グリスは宗教団体のはずだ」
イヴの記憶にあるものは黒猫とクロスのモチーフに、研究所、そして呪術的に関与であるという情報のみだった。三百年の間に消滅したのであれば安心だが、同じ名前の製薬会社となれば流石に身構える。
「んー……イヴの言うガト・グリスがどんなものかはわからないけど、ネットで調べてみるか」
スマートフォンを取り出し、さっそく製薬会社のホームページを開く雪斗。イヴは初めて見たスマートフォンをただ凝視していた。
「凄いな。なんだこれは」
「スマートフォンって言ってネット……いやなんというか離れた人と会話できたり調べものができる道具かな」
雪斗はネットでは意味が通じないと察したが、説明の言葉に困った。
「こんな小さい箱が?」
「三百年もすると生活技術も変わるから」
ガト・グリス社の企業情報ページを開いた。
企業情報
ガト・グリス社は一七二三年、スペインM市に研究者ノエ・オリバによって設立されました。
日本では一九四二年より販売を開始いたしております。
ガト・グリス社は、創業当時よりスペインの基礎研究所を中心にして現在は世界35カ国に大規模な研究開発設備を持ち、約12000人の研究開発スタッフを雇用しております。
世界規模にみても製薬会社の中でトップクラスの新薬開発重視の企業であります。
「ノエ……やはりあいつか。宗教団体の次に製薬会社とは」
「知り合いなのか?」
「昔ちょっとあってな。この会社は間違いなく僕が言ってる教団と関わりがある」
「現在の社長は誰になっている?」
「この人だけど」
そこには爽やかに笑う銀髪の青年の写真が載っていた。少したれ目で童顔。透き通るような紫の瞳。名前は、リノ・オリバ・クルス。
「ノエ……こいつがノエだ!!」
イヴが血相を変えて叫んだ。
「なんで創業者が現社長なんだよ」
「わからない、でも子孫では無いと思う。これは間違いなく本人だ」
「三百年も姿変わらず生きているなんて……ちょっと信じられないけど……」
画面を睨み付けるイヴ。暫く無言でなにかを考えていたが口を開く。
「ひとまずこいつの監視に見つからないように行動しつつ、ボディーガードをするしかなさそうだな。雪斗、これから頼む」
こうして吸血鬼イヴと神代雪斗の「取引」が交わされたのだった。
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