225日のコウフク論

青山惟月

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4、お姉さまと呼ばれたくて (後編)

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 和葉の実家は世界的に有名な老舗和菓子店だった。両親は十二代目として、経営に尽力していた為プライベートな時間がなかなか取れない。幼い頃の和葉は一人自宅でテレビをみているか、ネット漬けになっているだけの日々だった。
 ある日、火星の皇子の特集をした番組を観た。
 緑と赤のツートンカラーの髪、長いまつ毛、女の子と見間違うような可愛らしい顔立ち。自分と年齢もほとんど変わらないのに、漂う気品。一目見ただけで虜になった。
「こんなに美しい人がいるの?──」
 それからというもの、ニコラ陛下の特集が組まれた雑誌、テレビだけに留まらずファンサイトに目を通すぞっこんぶりだった。火星には行けないが、地球で出来る限りのファン活動をしていた。

 そして、ファンを続けて十年が経ったこの春、自分の通う学園で陛下そっくりの女子生徒を偶然見かけたのだ。
 気になった和葉は持ち前のハッキング技術を駆使して、学園内の監視カメラの映像をいくつも集めた。そこに映っていたのは、紛れもなくニコラ陛下その人そっくりだった。
 そして今日、チャンスが訪れた。部屋の前には憧れの人。
「こんな機会……逃せないわ」
 
 そして状況は前述したものに繋がっていく。


「ん……一体なにが……」
 急な眠気に襲われたニコが目を覚ますと、先程の部屋にいた。起き上がろうとするが、手足が紐で縛られていてまともに動けない。そして向き合いに置いてあった鏡で見た、自分が着ている服に驚愕した。
 レース、リボン、フリル。いわゆる黒ロリというやつだろうか。
「これお姫様というより、どこぞのオタサーの姫だよ……」
 さすがに王族でも着たことがない装飾過多の乙女チックな服にニコも言葉が濁った。

「あ、お目覚めですか?」
「いや、お目覚めもなにもこれ何?」
「私、初めてニコラ陛下を拝見したときに決めたのです」
 目を瞑って、和葉が一呼吸置いた。

「絶対に女装が似合うって!」

「……はい?女装?」
「そうです、こんなに綺麗で可愛い陛下なら絶対女装が似合うと私は確信していました」
 状況が読めないニコ。
「最初見たとき瓜二つで驚きました。でも先程着替えの時にやはり先輩は陛下ではないと現実を突きつけられたのも事実です。先輩は女性……さすがに女装までして王族が転校してくることは現実ありえないですよね」
「……まあ……そうだね」
 ほとんどそのまさかなんだよなぁと思いつつ、ニコは口を閉じる。和葉はニコの手足を縛っていた紐をほどいた。

「……ですが、先輩!先輩が女性ということはこれから色んな可愛い洋服を着ていただければ、私の夢はほぼ叶うわけです!」
「えと、着せ替え人形になれと?」
「いえ、ただでとはいいません。交換条件で何か私が出来ることがあればなんでも協力します。勿論先輩の嫌がるような服は着せませんし」
 それは交換条件なのか?と思いながらニコは悩んだ。ただ、和葉が簡単に引き下がるとも思えない。それなら要望を言ったが勝ちなのではないか。
「じゃあ、登校して?」
「わかりました。先輩の為になら明日からは登校します」
 あっさり脱引きこもりを宣言する和葉。
「あと……」
「なんですか?他にもあればお聞きしますよ?」
「たまにでいいから、お姉さまって呼んでほしい……」
「勿論です、お姉さま!!」
 こうしてニコの憧れていた状況があれよあれよと成立してしまった。

 という1日の流れをニコが夕食後真都に話した。

「え、あの筋金入りの寮引きこもりを説得できたの!?」
 真都は、驚きで持っていたコーラを落としかける。それくらい和葉の引きこもりは頑なだと学内で有名な話だった。
「うん!学長先生がからも誉められたよ!」
「あのバアサン、もしかしてわざとニコを……」
「??」
 きょとんとするニコをよそに、真都は心配で仕方ながない様子だった。

 翌日朝──

 朝から小降りの雨が降っていた。傘をさすかささないか悩む強さの雨だった。
 傘をさすニコと真都の後ろから徐に声がした。
「おはようございます、お姉さま!」
 そこには和葉が立っていた。
「お姉さまって。ちょっとニコってばどういうこと!?」
「え…えと」
「私はお姉さまの妹分ということですよ、逢瀬先輩」
「ニコ……」
 じっとニコを見つめる真都。すこし気まずそうにするニコ。
「あ、お姉さま私傘忘れてしまったんです…」
「ん?入るかい?」
「 ちょっとあなたわざとでしょ!!ニコも何言ってるの」
「逢瀬先輩は傘あるじゃないですか」
「まあまあ、真都、困ってるなら親切にしないと」
「そういうことですよ先輩。そしてさすがお姉さまです」
「あなたねぇ……」
「さ、行きましょうお姉さま。和葉は、ちゃんと今日から登校の約束守りますから」

 嬉しそうにニコの手を引く和葉と、後ろで拗ねる真都が対照的だった。
 そして、和葉はおもむろに真都の方を振り替えって近寄り、耳元で囁く。
「お姉さまの秘密は私だけのものです」

「!?」
 にやっと笑うと、そのまますっと何事もなかった様にニコの傘の中へ戻っていった。雨はもうすぐ止みそうだった。
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