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第2章 波乱のギルド検定試験
cys:37 レイの願いとエレナの涙
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「そういう事か……」
ノーティスは、軽く視線を伏せて唸っていた。
レイから実技試験免除の件と、それを良しとしないジークという戦士が、自分と戦いたがっているという事を告げられたから。
「レイ、事情は分かったし、そこまで俺を買ってくれてるのも光栄だよ。ただ、そのジークってヤツは本当に納得するのか?」
ノーティスからそう尋かれたレイは、少しダルそうな顔で、やれやれのポーズを取った。
ジークとは付き合いが長く、どうなるかは目に見えているから。
「ハアッ……しないでしょうね。彼の性格上」
「じゃあ、無理じゃないかな」
そう零したノーティスを、レイは再び凛とした瞳で見つめる。
「でも、今話した様にもうあまり時間がないの。彼の気持ちも分かるけど……私はこの国を守る事を優先するわ!」
「レイ、それがキミの選んだ美しさか」
「ええ、そうよ」
レイがそう答えると、2人は互いにジッと見つめ合った。
そしてノーティスは、意を決してレイに言う。
「レイ。だったら今からでも、そのジークってヤツに会わせてくれ」
「ノーティス!」
「キミの判断は間違ってないよ。けど同じ男として、俺はジークの気持ちにも応えてあげたいんだ」
ノーティスがそう告げると、レイはノーティスの両腕をガシッと掴んで訴えるような眼差しを向けた。
「ダメよノーティス! 私が言うのは違うかもしれないけど……私はアナタに、無駄な傷を負って欲しくないの……!」
「レイ……」
「お願い……彼と戦ったら、アナタも無事じゃすまないわ」
プライドの高いレイが、半ば懇願するような瞳をノーティスに向けている。
もちろん、レイはノーティスの強さは知っているが、傷付いてほしくないのだ。
国の為でもあるが、それよりもノーティスの事を想っているから。
───レイ、キミがこんな風に言ってくれるなんて……
ノーティスは、胸がキュッと締め付けられるような感覚に陥った。
女心は相変わらずれ~点だが、気持ちはヒシヒシ伝わってきている。
そんなノーティスの事をレイはより強く見つめ、瞳に強い光を宿したまま、顔を少し火照らせた。
「ノーティス。もちろんこの国の為でもあるけど、私はアナタの事を……」
レイがそこまで言った時、ノーティスの腕に付けている『マジックポータル』がブーブー……っと、振動した。
魔力を使って動く通信機器が、青い光を放っている。
そして、表示画面にはエレナの名前が。
「レイ、ちょっとゴメン。エレナからだ」
ノーティスは、エレナが軽く怒ってるのかと思った。
───ハァッ。いつまでレイ様と一緒にいるのとか言ってくんのかな。タイミングがいいの悪いのか……
けれど着信に出た時、その予想とは全く違う事に気付く。
そこからエレナの涙声が聞こえてきたからだ。
「うっ……うぅっ……ノーティスごめん。お姉ちゃんが……」
「エレナ、大丈夫か? 何があった?!」
エレナの声に只ならぬ事を感じたノーティス。
一瞬背中にゾクッとした物が走った。
───まさか……!
すると、エレナはその予感通りの事をノーティスに告げてくる。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが連れて行かれちゃったの!」
「ルミが? なんでだ?! 誰に!!」
思わず矢継ぎ早に大きな声を出してしまったノーティスに、エレナは涙声のまま話を続ける。
「急におっきな男が2人来て、ジーク様が呼んでるから来いって……お姉ちゃんは抵抗したんだけど、そのまま連れて行かれちゃって……うぅっ、ごめんなさいノーティス」
いつもあんなに明るいエレナが、今は涙を流し謝っている。
しかも、全く悪くないのに。
「くっ……」
ノーティスは、そんなエレナに大声を出してしまった事を反省し、不安な気持ちを押さえながら、落ち着いた声で包み込むように告げていく。
恐い思いをしたのはエレナだからだ。
「エレナ、キミは何も悪くない。だから、そこで待っててくれ。今はまだ、さっきの店だよな?」
「うん……」
「すぐに行くよ。大丈夫だから」
ノーティスはマジックポータルを閉じると、レイにサッと顔を向けた。
「レイ、ルミが攫われた! 恐らくそのジークって男の部下達に!」
「なんですって?」
ギョッとした顔をしたレイにノーティスは背を向け、顔を振り向かせた。
「だからレイ、すまない。俺はルミを助ける為にそいつと戦う!」
「分かったわ……でも、私もアナタと一緒に行くから」
ノーティスはレイにコクンと頷くと、2人で全速力でお店に駆け戻った。
そして、すっかりしょげ返ってしまっているエレナの側に行くと、ノーティスは少し息を切らしながらも、エレナに優しく微笑む。
「エレナ、恐かったよな。大丈夫か?」
すると、エレナは涙で濡れた瞳をノーティスに向け、見つめたままコクンと頷いた。
いつもと違い、ノーティスに飛びついてきたりはしない。
それがエレナの辛さを物語っている。
大切な姉が目の前で拐われたのだから、無理もない。
そんなエレナは涙を零したままノーティスを見上げ、1枚の紙きれを片手でスッと渡してきた。
「ノーティス、これ……」
「ん……これは!」
そのメモを読んだノーティスは、怒りと驚きに目を大きく見開いた。
そこにはルミが拐われた事。
そして、返してほしければ指定の場所まで来るようにと書かれていたからだ。
もちろん、時間も記されていた。
なので、ノーティスはサッと時間を確認するとレイの方へ振り向き、エレナから渡されたメモを見せ尋ねる。
「レイ、この場所分かるか?」
「ええ、分かるわ。このすぐ近くよ」
「ありがとうレイ。じゃあ急ごう!」
ノーティスが声を上げ、レイと一緒にその場所に向かおうとした時だった。
「私も行く!」
エレナが大きな声を上げ、2人をジッと見つめた。
ノーティスはエレナの瞳に決意が宿っているのを感じたが、エレナまで危険な目には合わせたくないのが本音。
「エレナ、無理するな。ここで休んでた方がいい」
「イヤだよ! だって、お姉ちゃんが拐われたのに……私だけここでジッとなんてしてられないもん!」
「エレナ……」
そんなエレナを静かに見つめるノーティスに、レイはそっと声をかける。
「いいじゃない、ノーティス」
「でもレイ。エレナを危険な場所に連れて行くのは……」
不安そうな顔を向けてきたノーティスに、レイはニッと軽く笑みを浮べた。
「だからよ。女は泣いてるだけじゃ、磨かれないの♪」
レイがそう言い切ると、ノーティスは一瞬考え再びエレナをスッと見つめた。
「分かったエレナ。着いてきてもいい。その代わり、俺とレイの傍から離れるなよ」
「うんっ!」
エレナが涙を拭きながらそう答え席から立ち上がると、ノーティスはレイとエレナを連れて店から出て、ルミが運転してきてくれた車の場所まで一気に走った。
まだ免許の無いノーティスは、レイに車の運転を頼もうと思ったから。けれど、
───あっ………
と、思うと立ち止まり、エレナに背中を向けたまま顔を振り向けた。
「エレナ、おんぶするから俺に掴まって」
「えっ?」
「早く」
「う、うん……♪」
エレナは自分から抱きつくのはよくても、いざ逆に言われると何か照れてしまい、顔を軽く火照らせたままノーティスの背中にしがみついた。
───何か照れちゃうな……
そう感じてるエレナをノーティスは背中におぶったまま、レイに告げる。
「レイ、あの闘技場まで走るぞ。行けるか?」
「フフッ♪ 当たり前でしょ。体術はアナタ程じゃなくても、私は王宮魔導士よ」
「フッ、さすがレイだな」
ノーティスはそう言って微笑むと、闘技場まで全速力で駆け出した。
敢えて車を使わなかったのは、ルミがいつも運転してくれてる姿が脳裏に蘇ったからだ。
───うん、よく分からないけど、ルミ、これでよかったんだよな……
ノーティスが自分ではよく分からない、けれど大切な気持を抱える中、ジークとの戦いが迫っていた。
ノーティスは、軽く視線を伏せて唸っていた。
レイから実技試験免除の件と、それを良しとしないジークという戦士が、自分と戦いたがっているという事を告げられたから。
「レイ、事情は分かったし、そこまで俺を買ってくれてるのも光栄だよ。ただ、そのジークってヤツは本当に納得するのか?」
ノーティスからそう尋かれたレイは、少しダルそうな顔で、やれやれのポーズを取った。
ジークとは付き合いが長く、どうなるかは目に見えているから。
「ハアッ……しないでしょうね。彼の性格上」
「じゃあ、無理じゃないかな」
そう零したノーティスを、レイは再び凛とした瞳で見つめる。
「でも、今話した様にもうあまり時間がないの。彼の気持ちも分かるけど……私はこの国を守る事を優先するわ!」
「レイ、それがキミの選んだ美しさか」
「ええ、そうよ」
レイがそう答えると、2人は互いにジッと見つめ合った。
そしてノーティスは、意を決してレイに言う。
「レイ。だったら今からでも、そのジークってヤツに会わせてくれ」
「ノーティス!」
「キミの判断は間違ってないよ。けど同じ男として、俺はジークの気持ちにも応えてあげたいんだ」
ノーティスがそう告げると、レイはノーティスの両腕をガシッと掴んで訴えるような眼差しを向けた。
「ダメよノーティス! 私が言うのは違うかもしれないけど……私はアナタに、無駄な傷を負って欲しくないの……!」
「レイ……」
「お願い……彼と戦ったら、アナタも無事じゃすまないわ」
プライドの高いレイが、半ば懇願するような瞳をノーティスに向けている。
もちろん、レイはノーティスの強さは知っているが、傷付いてほしくないのだ。
国の為でもあるが、それよりもノーティスの事を想っているから。
───レイ、キミがこんな風に言ってくれるなんて……
ノーティスは、胸がキュッと締め付けられるような感覚に陥った。
女心は相変わらずれ~点だが、気持ちはヒシヒシ伝わってきている。
そんなノーティスの事をレイはより強く見つめ、瞳に強い光を宿したまま、顔を少し火照らせた。
「ノーティス。もちろんこの国の為でもあるけど、私はアナタの事を……」
レイがそこまで言った時、ノーティスの腕に付けている『マジックポータル』がブーブー……っと、振動した。
魔力を使って動く通信機器が、青い光を放っている。
そして、表示画面にはエレナの名前が。
「レイ、ちょっとゴメン。エレナからだ」
ノーティスは、エレナが軽く怒ってるのかと思った。
───ハァッ。いつまでレイ様と一緒にいるのとか言ってくんのかな。タイミングがいいの悪いのか……
けれど着信に出た時、その予想とは全く違う事に気付く。
そこからエレナの涙声が聞こえてきたからだ。
「うっ……うぅっ……ノーティスごめん。お姉ちゃんが……」
「エレナ、大丈夫か? 何があった?!」
エレナの声に只ならぬ事を感じたノーティス。
一瞬背中にゾクッとした物が走った。
───まさか……!
すると、エレナはその予感通りの事をノーティスに告げてくる。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが連れて行かれちゃったの!」
「ルミが? なんでだ?! 誰に!!」
思わず矢継ぎ早に大きな声を出してしまったノーティスに、エレナは涙声のまま話を続ける。
「急におっきな男が2人来て、ジーク様が呼んでるから来いって……お姉ちゃんは抵抗したんだけど、そのまま連れて行かれちゃって……うぅっ、ごめんなさいノーティス」
いつもあんなに明るいエレナが、今は涙を流し謝っている。
しかも、全く悪くないのに。
「くっ……」
ノーティスは、そんなエレナに大声を出してしまった事を反省し、不安な気持ちを押さえながら、落ち着いた声で包み込むように告げていく。
恐い思いをしたのはエレナだからだ。
「エレナ、キミは何も悪くない。だから、そこで待っててくれ。今はまだ、さっきの店だよな?」
「うん……」
「すぐに行くよ。大丈夫だから」
ノーティスはマジックポータルを閉じると、レイにサッと顔を向けた。
「レイ、ルミが攫われた! 恐らくそのジークって男の部下達に!」
「なんですって?」
ギョッとした顔をしたレイにノーティスは背を向け、顔を振り向かせた。
「だからレイ、すまない。俺はルミを助ける為にそいつと戦う!」
「分かったわ……でも、私もアナタと一緒に行くから」
ノーティスはレイにコクンと頷くと、2人で全速力でお店に駆け戻った。
そして、すっかりしょげ返ってしまっているエレナの側に行くと、ノーティスは少し息を切らしながらも、エレナに優しく微笑む。
「エレナ、恐かったよな。大丈夫か?」
すると、エレナは涙で濡れた瞳をノーティスに向け、見つめたままコクンと頷いた。
いつもと違い、ノーティスに飛びついてきたりはしない。
それがエレナの辛さを物語っている。
大切な姉が目の前で拐われたのだから、無理もない。
そんなエレナは涙を零したままノーティスを見上げ、1枚の紙きれを片手でスッと渡してきた。
「ノーティス、これ……」
「ん……これは!」
そのメモを読んだノーティスは、怒りと驚きに目を大きく見開いた。
そこにはルミが拐われた事。
そして、返してほしければ指定の場所まで来るようにと書かれていたからだ。
もちろん、時間も記されていた。
なので、ノーティスはサッと時間を確認するとレイの方へ振り向き、エレナから渡されたメモを見せ尋ねる。
「レイ、この場所分かるか?」
「ええ、分かるわ。このすぐ近くよ」
「ありがとうレイ。じゃあ急ごう!」
ノーティスが声を上げ、レイと一緒にその場所に向かおうとした時だった。
「私も行く!」
エレナが大きな声を上げ、2人をジッと見つめた。
ノーティスはエレナの瞳に決意が宿っているのを感じたが、エレナまで危険な目には合わせたくないのが本音。
「エレナ、無理するな。ここで休んでた方がいい」
「イヤだよ! だって、お姉ちゃんが拐われたのに……私だけここでジッとなんてしてられないもん!」
「エレナ……」
そんなエレナを静かに見つめるノーティスに、レイはそっと声をかける。
「いいじゃない、ノーティス」
「でもレイ。エレナを危険な場所に連れて行くのは……」
不安そうな顔を向けてきたノーティスに、レイはニッと軽く笑みを浮べた。
「だからよ。女は泣いてるだけじゃ、磨かれないの♪」
レイがそう言い切ると、ノーティスは一瞬考え再びエレナをスッと見つめた。
「分かったエレナ。着いてきてもいい。その代わり、俺とレイの傍から離れるなよ」
「うんっ!」
エレナが涙を拭きながらそう答え席から立ち上がると、ノーティスはレイとエレナを連れて店から出て、ルミが運転してきてくれた車の場所まで一気に走った。
まだ免許の無いノーティスは、レイに車の運転を頼もうと思ったから。けれど、
───あっ………
と、思うと立ち止まり、エレナに背中を向けたまま顔を振り向けた。
「エレナ、おんぶするから俺に掴まって」
「えっ?」
「早く」
「う、うん……♪」
エレナは自分から抱きつくのはよくても、いざ逆に言われると何か照れてしまい、顔を軽く火照らせたままノーティスの背中にしがみついた。
───何か照れちゃうな……
そう感じてるエレナをノーティスは背中におぶったまま、レイに告げる。
「レイ、あの闘技場まで走るぞ。行けるか?」
「フフッ♪ 当たり前でしょ。体術はアナタ程じゃなくても、私は王宮魔導士よ」
「フッ、さすがレイだな」
ノーティスはそう言って微笑むと、闘技場まで全速力で駆け出した。
敢えて車を使わなかったのは、ルミがいつも運転してくれてる姿が脳裏に蘇ったからだ。
───うん、よく分からないけど、ルミ、これでよかったんだよな……
ノーティスが自分ではよく分からない、けれど大切な気持を抱える中、ジークとの戦いが迫っていた。
応援ありがとうございます!
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