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第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス

cys:44 2人から想われる男

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「ノーティス!」

 セイラは嬉しそうに笑みを零し、ノーティスにタタッと駆け寄り飛びついた。
 ノーティスに、セイラの柔らかさと明るいエネルギーがダイレクトに伝わってくる。

「セ、セイラ……」
「もーー♪ どーしたのよノーティス。私に会いに来てくれたのー?」

 満面の笑みで抱きつかれ、ノーティスはちょっと顔を赤くしている。
 セイラの顔が本当に近くにあるし、このノリには昔からどうしても照れてしまうのだ。

「あ、あぁ。ギルド検定試験に合格したからその報告に……」

 ノーティスがそこまで言うとセイラはバッと体を離し、ノーティスの両肩に手を添えてキラキラと瞳を輝かせた。

「えっ、もう合格したの?! さっすが私のノーティス! デキが違うわーーーーー♪」

 そして、ノーティスをべた褒めしながら抱きついて綺麗な頬をスリスリしてくる。
 周りの通行人達もチラチラと見ているし、ノーティスも引き気味に照れてるが、セイラはそんなのお構いなしだ。
 まあ、セイラの天真爛漫さはそれでも憎めないのだが、やっぱりちょっと恥ずかしい。

「セイラ、みんな見てるって」
「いーーじゃない♪ 気にしない気にしない」

 その光景を見せつけられたルミは軽く拳を口の下に起き、目を軽く閉じてコホンと1つ咳払いをした。
 これが男女のそれではなく、親子や兄弟のそれに近い事を分かってはいるのだが気持ちはザワつくから。

「あの、ノーティス様が大変お世話になったようで」
「あら、アナタは?」

 キョトンとした顔を向けたセイラに、ルミはちょっとだけ挑戦的な顔を向けた。
 2人の間に感じた空気に、ちょっと、いや、かなり妬いてしまったから。

「私、ノーティス様のお世話をさせて頂いている、執事のアステリア・ルミと申します」
「あら、アナタがノーティスの執事さんね♪」

 明るく顔を振り向けたセイラに、ルミはちょっとツンとした顔を向けた。
 本当はそんな事したくないのだが、気持ちがどうしても顔に出てしまう。
 好きな人に対し沸いてしまう、本能のようなものだ。

「はい。ですのでご安心してください。今私がノーティス様と一緒に住んでるようなものですので」

 ルミの口調と雰囲気に、ちょっとカチンときたセイラは少し目を細め軽く嫌味な表情を浮べた。
 まるで、ノーティスの今の彼女は私だから、という雰囲気をルミから感じたからだ。

「あらそう。けどノーティスも年頃だし、アナタみたいな子が一緒じゃノーティスの気が休まらないんじゃない?」
「ご心配なく。ノーティス様には、いつでも心を落ち着けて頂けるように尽力じんりょくしてますから」

 ツンとしたした顔で答えたルミを、セイラは軽く小馬鹿にした笑みを零し見下ろした。

「アハッ♪ まあ、そうね。よく考えたら、アナタならね。ノーティスもアナタには変な気が起きなそうだし♪ よかったわ~~~アナタで」

 セイラがそう言ってルミをあざけるように見下ろすと、ルミも負けじと同じ様に見返す。
 ノーティスに自分の気持を全然気付いてもらえてないルミは、今のセイラの言葉が心にかなりグサっときたのだ。

「そーーーーですか。でもそれが何か? 私は執事ですし、誰かさんみたいに下品な事は想像すらしませんから!」

 セイラとルミはムッとした顔で睨み合うと、互いに身を乗り出した。

「なによ!」
「なんですか!」

 2人の視線がぶつかり、バチバチと火花が散る。
 その間に挟まれたノーティスは、冷や汗をかきながら互いの顔を交互にキョロキョロと見つめている状態だ。
 剣を交えた戦いは得意だが、こういうのはどうしていいのかさっぱり分からない。
 これに関してはFランク以下だろう。
 なので、気まずそうな顔を浮かべながら2人に向かい、そーーっと告げる。

「あ、あのさ、2人共ちょっと一旦落ち着いてみるのが……」

 ノーティスがなだめようとすると、セイラとルミは一緒にバッとノーティスへ振り向いた。

「ほっといて!」「ほっといて下さい!」
「……あっ! はい……」

───ったーーーーマジで、ホント勘弁してくれよ……

 心でそうボヤいたノーティスは、ハァッと溜息をついた。
 セイラもルミもいつもと全然違うし、このままでは全然収まりそうにないから。
 何よりどうしていいか皆目見当がつかない。

 そう思ったノーティスは、とりあえず2人の気を逸らす為にもセイラに軽く質問してみる事にした。

「セイラ、そういえば師匠は来てるのかな?」

 するとセイラはルミと睨み合うのをやめ、ノーティスの方へスッと振り向いた。
 今までのイラっとした険しい表情ではなく、急に少し寂しそうな顔に変わっている。

「それがさ、あの人最近来てないの……」
「あっ、そうなんだ。まぁ、師匠は忙しいからな」
「うん。でも最近ずっとよ。どーしたのかしら……」

 寂しそうな顔で軽くうつむくセイラ。
 すると、ルミもセイラを睨むのをやめた。

「あの……連絡はお取りになられていないんですか?」
「しても返って来ないの……あっ、でも!」

 セイラは急に声を上げ、ノーティスにハッとした顔を向ける。

「そうだ! ノーティスが来たら伝えてって言われてた!」
「えっ、何をだ?」

 ちょっと驚いたノーティスに、セイラは身を軽く乗り出した。

「アルカナートが言ってたの『古の祠にカギがある』って」
「古の祠?」
「うん。私もよく分からないんだけど、あの『ティコ・バローズ』の事だと思うわ。もしノーティスが来たら、それだけ伝えろって言われてたの」
「そうか……ありがとうセイラ。覚えておくよ」

 ノーティスはそう言って、軽く思い返す。

───古の祠か。確か昔ちょっと調べた事があったな。けど、確かアレは……

 そこまで思い返した時、セイラがノーティスの背をポンッと叩いて微笑む顔で軽く覗き込んできた。
 もう、いつもの優しいセイラの顔に戻っている。

「ノーティス。そんな難しい顔してないで、せっかく来たんだから久々に家でご飯食べよっ♪」

 セイラはそう言ってニコッと笑うと、ルミにちょっとすまなそうな顔を振り向けた。
 流石はセイラといった所だ。

「ルミちゃん、ごめんね……さっきはちょっとイラッとしちゃって、悪かったわ」
「セイラさん……! い、いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。ノーティス様を育てて下さった方に、とんだご無礼をしてしまいました!」
「気にしないで♪ 今ノーティスを支えてるのは、間違いなくアナタなんだから」
「そんな事……」

 ルミが申し訳なさそうに零すと、セイラはルミの耳元にそっと顔を近づけ囁く。
 ちょっと好奇心が勝ってる時の、セイラらしい小悪魔チックな笑みを浮かべて。

(ノーティスの事、大好きなのね♪)
(えっ、い、いえ、そ、そんな事……)

 ボッと顔を火照らせたルミを見て、優しく微笑むセイラ。

「アハッ♪ 素直ね。歓迎するわ、ルミちゃん」
「セ、セイラさん! ……よろしくお願いします」
「こちらこそ♪」

───ん? どうしたんだ2人とも?

 2人が突然仲直りした事に軽く驚きつつも取り敢えず安心したノーティスは、セイラとルミと一緒に寮へ向かった。

◆◆◆

 夕食もかなり進んだ頃、酔っ払っているセイラとルミ。

「ルミちゃん、アナタも苦労人ね~~~」
「そ~~なんですよ。ノーティス様は筆記試験満点でも、女心は、れ~点なんで~~」
「分かる~~この子頭いいくせに、ホンッッット、そういうとこ超鈍いからね~~」

 セイラはグタグタの口調でそう言うと、孤児達に囲まれてるノーティスにへべれけな眼差しを向けた。

「おいっ、聞いてのかノーティス! あ・な・た・の事言ってんのよーーーーー」
「そーだそーだ。ノーティス様のどんか~~ん」

 ルミはルミで、酒が元々得意ではないのに飲んだせいで酔いも進み、かなりやけっぱちな雰囲気でノーティスにブー垂れてくる。
 
 けれどノーティスはそれどころではなかった。
 孤児達からの質問攻めに会い、てんてこ舞いなのだ。

「ねーねーノーティス兄ちゃん、魔力クリスタルってどうやって光らせるの?」
「それは、まずは魔力を高めて意識を集中させて……」
「ねぇ、ロウ様ってどんな人なの?」
「ロウ? ロウはまず凄く頭が良くて、若くして王宮魔導士になった天才……」
「私、レイ様の事もっと聞きたーい♪」
「えっ? あー、レイは凄く綺麗な人で……」

 ノーティスは、孤児達からキラキラした瞳を向けられながらの質問攻めにタジタジだ。
 けれど、セイラもルミも許さない。

「あっ、ルミちゃん。ノーティスが浮気してるぞ~」
「ノーティス様、頬にキスされたからって、いい気にならないでくださいっ!」

───あーもう、マジで勘弁してくれ。でも……まっ、いいか。

 ノーティスはてんてこ舞いになりながらも、昔を思い出し静かに微笑んだ。

◆◆◆

 そんなこんなで夜がふけると、ノーティスは寝静まったみんなを残してそっと外に出た。
 そして、外で草むらに両足を伸ばして座ったまま、夜空にキラキラ光る星々を眺めている。

「変わらないな。あの頃と……」

 そう呟きアルカナートとの修行時代を思い出していると、後ろからセイラが声をかけてきた。

「ノーティスどーしたの、黄昏れちゃって」
「セイラ、起きたのか?」
「うん。あの子達いるし、いつまでも寝てらんないからね」

 セイラはそう言うと隣にスッと座り、微笑みながらノーティスの横顔を見つめた。

「ノーティス、今日は来てくれてありがと♪」
「いや、こっちこそ。久々にセイラに会えて嬉しかったよ」

 星空を見上げながら答えたノーティス。

「またいつでも来てね♪ 今度はルミちゃんの彼氏としてさ」

 ニヤッとした顔を向けてきたセイラに、ノーティスは火照らせた顔をバッと振り向かせた。

「なっ、違うよ。ルミは執事で、そういうのじゃない」

 焦ったノーティスに、セイラはちょっと意地悪な顔を浮かべた。
 セイラからすれば、ノーティスの顔に書いてあるからだ。
 ルミを好きな事が。

「ホントにそうかな~?」
「あ、当たり前だろ」
「ふーん、私にはそう見えないし、少なくともルミちゃんはノーティスの事大好きだね♪」

 ニヤッと笑みを浮かべたセイラの隣で、頬を赤くしたまま軽く口を尖らすノーティス。
 恋愛神経が極端に鈍いが、気持ちの部分は惹かれてるから。
 正確に言えば、自分の恋心をまだハッキリと認識出来てないのだ。

「なっ、そんな事あるわけ無いだろ」
「まっ、女心、れ~点のノーティスには分からないか♪」

 セイラはそう言って、ノーティスの頬にチュッ♪ と軽くキスをした。

「セ、セイラっ」
「ちゃんと気付いてあげなきゃダメだよっ♪ 今日色々話してみたけど、あんな子なかなかいないんだから」

 そう告げたセイラは、うーんと伸びをして立ち上がると、ノーティスに向かいニコッと笑う。

「ノーティス、これからが本番だよ」
「そう、だな……」

ノーティスはそう呟き再び星空を微笑みながら眺めていたが、この時はまだ本当の意味では分かっていなかった。
ここからが本番だという、その意味を……!
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