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第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス

cys:47 約束の閃光剣

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「グガァァァァッ!!」 

 ドオンッ! ドオンッ! ドオンッ!

「くっ……!」

 ノーティスは、フェクターの猛攻をササッと素早くかわし間合いを図っていた。
 けれど、その度に街が破壊され轟音と共に砂塵が舞い上がり、激しい衝撃波が辺りに響き渡る。

───さてどうするか……早く決めないと被害が広がってしまうしな……

 正直、今のノーティスにとってフェクターを倒す事は難しい事ではないし、動きを一旦封じて魔力クリスタルを破壊する事も出来る。

───ただそれだと……

 一計いっけいを案じたノーティスは、フェクターの猛攻をかわしながらロバートの側にタンッと寄った。
 そして、フェクターを見据えたままロバートに告げる。

「すまないロバート。あのフェクターに、一斉射撃を頼む」
「一斉射撃ぃ?」

 一体何を言ってんだ? と、いう顔を向けてきたロバート。
 そんなのが効かない事ぐらい、ノーティスであれば分かってると思ったから。
 けれど、当のノーティスは表情を変えない。

「あぁ。その間に俺の力を全開にさせて、彼の魔力クリスタルを破壊する」
「イヤ、でもノーティス。分かってると思うけど、ヤツには剣も矢も通らねぇぞ!」

 いぶかしむ顔をしたロバートに、ノーティスはサッと振り向き澄んだ瞳を向けた。

「一瞬でいいんだ。頼む、ロバート」

 すると、ムダだとは思いつつも、ロバートはなぜかそうせざる負えない気になってしまった。
 ノーティスの先程の斬撃や今までの身のこなしもさることながら、その澄み切った力強い瞳になぜか不思議な確信を持ったから。

───この男なら、もしかしたら……!

「わかったよ……それでいいなら、やってやる」
「ありがとうロバート。恩に着るよ」

 ロバートに向かい軽く微笑んだノーティス。
 そして、礼を言われたロバートは部下達の方へ振り向き大声で号令をかける。

「お前ら構えろ! 今から一斉射撃だ!」
「はいっ!」

 ロバートの号令と共に衛生兵達から放たれた無数の矢が、フェクターにババッ! と降りかかってゆく。
 無論、ロバートの言った通りフェクターには全く通じなかったが、フェクターの動きが一瞬止まった。

 それを見たノーティスはロバート達に大きな声で、

「ありがとう!」

 と、礼を告げると鞘から剣をサッと抜き、その剣を両手で胸の前にスッと立てて構えた。
 そして、自らの額の魔力クリスタルに意識を集中させていく。

「光のクリスタルの名の下に、輝け! 俺のクリスタルよ!!」

 その詠唱により、魔力クリスタルから溢れ出ていく白輝びゃっきの煌めき。
 それをノーティスが全身に纏うと、ロバート達はその煌めく姿に目が釘付けになった。

「おおっ……! なんて鮮やかで強い光なんだ!」
「神々しい……!」
「俺らと同じ魔力クリスタルだとは思えないな……!」

 ノーティスは皆からそんな風に見つめられる中、一瞬で必殺剣の構えを取るとフェクターを凛とした瞳で見上げる。
 敵ではなく、あの時のようにまるで友を見つめるように。

「すまない。悪いけど、少しの間ジッとしててもらうよ。『ライトニング・コルビス』!!」

 ノーティスの構えた剣先からビカッ! と、輝く光の玉が放たれフェクターの頭上で大きく弾けると、そこから現れた光のおりがフェクターをガシャン!! と、閉じ込めた。

「グガァァァァッ!!」

 恐ろしい咆哮を上げ光の檻を壊そうとするフェクターを、ノーティスは澄んだ瞳でジッと見据えている。
 分かっているからだ。
 この獰猛なフェクターは破壊したくて暴れている訳ではなく、助けを求めているのだと。

「ごめんな。師匠ならこんな事しなくても、一発でキミのクリスタルを破壊できるんだけど……」

 ノーティスはそう呟くと剣を突きの形に構えてグッと腰を落とし、フェクターの魔力クリスタルに狙いを定めた。

 狙うはメイの父親をフェクターにさせてしまっている、あの暴走している魔力クリスタル一点のみ。
 僅かにでも狙いが逸れてしまえば命を絶ってしまう為、失敗は決して許されない。
 その為、どうしても緊張が走る。
 ノーティスは自分が負ける事よりも、メイとの約束を守れなくなる事の方が遥かに辛いから。

 なのでノーティスは剣を構えたまま一瞬スッと瞳を閉じた。

───師匠、俺はあの日のアナタのように出来るんでしょうか……!

 心でそう問いかけた時、ノーティスの脳裏に浮かんだアルカナートは不敵にニヤリと笑った。

『このバカ弟子が。お前は誰の弟子だと思っていやがる』

───フッ。そうでしたよね、師匠。あの時アナタが俺を救ってくれたように……俺も彼とあの子を救ってみせます!

 心でアルカナートに誓いを立てたノーティスはサッと瞳を開き、フェクターを精悍な顔で見上げた。
 アルカナートへの誓いとメイとの約束を胸に宿して。

「フェクター! キミがすべき事は破壊や殺戮じゃない。この子を……メイを抱きしめる事だ!」
「グゥゥゥゥ……グガァァァァッ!!」

 フェクターが大きな咆哮を上げた瞬間、ノーティスの瞳がキラリと光る。
 まるでクリスタルのように。

「悪夢から目覚めろ! 『エッジ・スラッシュ』!!」

 凄まじい速度でフェクターに突きを繰り出した姿は、まるで一筋の閃光のように煌めいた。
 あの日のアルカナートのように。

 そして、ノーティスがフェクターの魔力クリスタルに剣先をビシッ!! と突き立てると、フェクターの魔力クリスタルにピキピキピキッ……! と、いう乾いた音と共に亀裂が走っていき、次の瞬間、パリーン! と、粉々に砕け散った。

「グガァァァァッ!! ウガァァッァァ!!」

 フェクターから放たれた凄まじい断末魔が、辺り一帯に響き渡る。
 その凄まじい声に、耳を塞ぎ顔をしかめる街の人達。
 また、クリスタルが砕け散り暴走のエネルギーが消えてゆくと、フェクターと化していた男の体はみるみる内に小さくなっていき、元の姿に戻っていった。

「ううっ……」

 朦朧とした意識のままその場に倒れかけていくメイの父親。
 それを見たノーティスは剣を素早く鞘へ納めて駆け寄ると、メイの父親の身体をガシッと掴み抱きかかえ、そのままメイの所へ運んでいき目の前にそっと横たわらせた。

「メイ、もう大丈夫だ」

 ノーティスが優しく微笑む傍らで、メイは涙を零しながら父親の身体を激しく揺さぶる。

「お父さん、お父さんっ! 起きて! 目を開けて!」

 すると父親はゆっくり目を開き、まるで悪夢から覚めたように瞳から涙を溢れさせると、メイの頬へゆっくり片手を伸ばした。
 父親の手に、メイの可愛くて柔らかい頬の温かさが伝わっていく。

「あ……あぁっ……すまなかったな、メイ」
「お父さんっ! 私だよ! 分かる?!」
「分かるよ……メイが無事で、よかった」
「ううっ……! お父さーーん!!」

 メイは安堵の涙を流しながら、父親に覆い被さるようにギュッと抱きしめた。
 父親もそんなメイの事を涙を零しながら強く抱きしめている。 

 その姿を優しく見つめたノーティスは、ロバートにスッと振り向いた。
 その瞳に、静かだが強い怒りを宿して。

「ロバート、詳細を聞かせてほしい。なぜメイと彼が、ここまで涙を流さなければいけなかったのかを……!」
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