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第3章 白輝の勇者エデン・ノーティス
cys:46 少女の叫びとノーティスの約束
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「どけっ、貴様ら! 邪魔だ!!」
フェクターから逃げ惑う人々の悲鳴がこだまする中、大きな怒声が響き渡った。
その声を上げたのは邪悪な騎士のバラガス。
ロバートら衛生兵が命をかけて戦う中、逃げ惑う人々を掻き分け一目散に避難したのだ。
そして今、他の騎士達に守られている。
そんなバルガスを、恨めしそうにギリッと睨むロバート。
───くそっ! フェクターに変えた張本人のクセに、何なんだよ、あの野郎は!
ロバートが憤る中、バラガスは周りの騎士達に向かい尚も喚き立てている。
自分がメイの父親をフェクターにした事など、微塵も悪いと思っていない。
バラガスの心にあるのは、己の保身だけだ。
「お前ら俺を必ず守れよ! 俺様は貴族なんだ! お前ら庶民共とは命の重さが違うんだからな!!」
お飾りで騎士をしているバルガスにとって、これは紛れもない本心。
貴族の息子として生まれたバルガスは普段戦いとは無縁の場所で優雅に暮らしているが、社会勉強の一環という名目で騎士の格好をしてるだけだから。
簡単に言えば、ただの箔付けでありカッコつけ。
なので、鎧をちょっと汚されただけでメイにあれだけ激昂したのだ。
もちろん皆それを分かっているし、他の騎士達だって本当はバルガスの事なんて守りたくない。
むしろ、こんな奴ブン殴りたいと思っている。
───なんでこんなヤツが俺等の上なんだ! 実力も無いのに、貴族ってだけで威張りくさってるヤツが……!
その場の全ての人間達がそう思い憤っていると、メイが涙を流しながらロバートに訴えるような瞳を向けてきた。
綺麗な瞳から大粒の涙が溢れ出て止まらない。
「ねぇ、おじちゃん! お父さん、なんであんな風になっちゃったの?!」
「メイ、それは……」
「お父さんを返して! 返してよ! うっ……うぅっ……わーん!」
泣きじゃくるメイを前に、ロバートは悔しさで目をギュッと閉じた。
「俺だって、キミのお父さんを返してやりてぇ。けど……」
ロバートはその後の言葉をグッと飲み込んだ。
メイに言いたくなかったから。
父親の事は、もう助けられないという事を……!
なぜなら、目の前のフェクターは剣も弓も通さない最強レベル。
魔法だって、自分達のじゃ効きやしない。
だから魔力クリスタルを破壊して救うどころか、討伐出来るかすら分からないのだ。
───メイ、すまねぇ……!
それを直感的に悟ったメイは、ロバートに涙を溢しながら訴える。
自分の大好きな父親がモンスターになってしまったのが、悲しくてしかたないのだ。
「お父さんが……お父さんが何をしたの?! お父さんは、私を庇って守ろうとしただけだよ! なのになんで?!」
その涙の訴えに感極まったロバートはザッとしゃがみ込み、メイの小さな体をギュッと抱きしめた。
「メイ……キミのお父さんは何も悪くねぇ! 悪くねぇんだ……!」
「じゃあ、どうして! うぅっ……やだよぅ……」
メイの涙で胸を濡らすロバートは、心の中で毒づく。
このどうしようもない理不尽さを呪いながら。
───ちくしょう……! なんで世の中はこんなにクソなんだ。なんであの優しい父親がフェクターになって、あのクソヤローが貴族ってだけで守られてんだよ! けど、一番許せねぇのは……
ロバートはそこまで毒づくと、今度は自らを呪う。
───そう……この俺の弱さだ。俺はなんでこんな無力なんだ。泣いてるメイを抱きしめる事しか出来ねぇなんて……! 俺がメイにしてあげられるのは、せめて……
己の力の無さをを呪ったロバートは、メイを抱きしめていた手をスッと離した。
そして、数瞬顔をうつむけてから意を決して立ち上がるとバッと顔を上げ、衛生兵の隊長として皆に大きな声で号令をかける。
「お前ら! 全力でいくぞ!!」
「隊長?!」
顔をハッと振り向けてきた部下達に、ロバートは全てを負う覚悟を持って告げる。
「……分かってる。お前らもきっと同じ気持ちだろう。けどな、俺達はこの街を守らなきゃいけない」
ロバートは皆にそこまで告げると、手から血が滲み出るほどグググッと拳を握った。
無論、心はすでに血の涙を流している。
「だから……せめて、せめてメイの父親が苦しまないように、全力で一秒でも早く倒すんだ!」
「隊長……」
「いくぞ!!」
「オォォォォッ!!」
ロバートが部下達とフェクターに向かい突撃していった時、メイはロバート達の背中にに向かって泣き叫んだ。
「やめてー!お父さんを殺さないでーー!!」
その叫びがロバート達の心をグサっと貫き、皆、胸が張り裂けそうな思いに駆られながら思う。
この子の苦しみに比べたら、今から自分がフェクターにどんな攻撃を喰らおうとその比ではないと。
───メイ、ごめん、本当にごめんな……俺の事を恨んでくれて構わねぇから……!
ロバートも部下達も、己の非力さからくる怒りと悔しさを噛み締めながら、咆哮を上げてフェクターに突撃していく。
「ウオォォォォッ!!」
が、その時ロバート達とフェクターとの間に上空から、ズドンッ!! と、いう轟音と共に男が斬撃を放ちながら舞い降り、その衝撃で辺りに砂塵が吹き上がった!
「な、なんだ一体?!」
ロバートが驚きに目を大きく開きながら砂塵の向こうに目を凝らしていると、晴れていく砂塵の中から見えてきた。
金色の刺繍を施された白のロングジャケットを身に纏った、精悍な美青年の姿が。
「ア、アンタは一体……?」
「砂埃を立ててしまってすまない。俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミは?」
「け、剣士見習ぃ?!」
ロバートは思わず声を上げた。
ノーティスが叩き斬り、大きく裂けた大地を見ながら。
「俺はここの衛生兵の隊長ロバートってもんだけど、お前さんが見習いなんて嘘だろ?! こんな斬撃、冒険者だって出来やしねぇ」
「う~ん、けどまだ一応見習いなんだ。けどロバート、それよりもこの状況は……」
ノーティスは辺りをチラッと見渡した。
すると、その瞳に映った。
倒れてる衛生兵達や傷付いた人々と、破壊された建物の間でグルルルルッ! と、湿った吐息を吐きながら真紅の瞳で自分を見下ろす巨大なフェクターの姿が。
それを見てノーティスは哀しく顔をしかめ、ロバートの方を向いた。
「ロバート、なぜフェクターが発生した?」
「それはあのヤローが……」
ロバートが悔しそうにそう告げ、騎士達に守られているバルガスの方をチラッと見た時、残りはロバートの隣で泣いてるメイの涙がノーティスに教えてくれた。
誰がどういう経緯でフェクターを発生させたのかを。
「なるほどな……フェクターはこの子の父親か。大方、あそこで騎士達に守られてる男が、この子の父親に何かをしたんだろ」
「なっ?! なぜそれを?」
「フッ、やはりか。ああいうヤツの顔は、今まで嫌という程見てきたからな」
昔を思い出して一瞬瞳を閉じたノーティスは、涙を流すメイの前に行くとスッと跪き優しい眼差しを向けた。
メイにこれ以上涙を流させない為に。
「俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミの名前は?」
「メイ……」
「そうかメイ。もう大丈夫だから」
「うぅっ……ノーティス、お父さんを殺さないで。お願い……」
綺麗な瞳から涙をボロボロ流し訴えてくるメイ。
ノーティスはそのメイの気持ちを真綿で包むように、澄んだ優しい瞳を向けまま微笑む。
「殺さないよ」
「……本当に?」
「あぁ、約束だ。メイ、キミのお父さんを、必ず元の元気な姿でメイに返すよ」
ノーティスはメイにそう告げるとスッと立ち上がり、フェクターに澄みきった瞳で向かい合った。
昔、自分に人の温かさを教えてくれた少女を守る為に、初めてフェクターと対峙した時の事を脳裏に巡らせて。
「フェクター……」
「グルルルルッ……!」
フェクターは生暖かい吐息を吐いて睨みつけてくるが、ノーティスは臆する事無く告げる。
あの時のように、敵ではなく、まるで友に語りかけるように。
「……キミを必ず元の姿に戻し、メイの下へ返す!」
フェクターから逃げ惑う人々の悲鳴がこだまする中、大きな怒声が響き渡った。
その声を上げたのは邪悪な騎士のバラガス。
ロバートら衛生兵が命をかけて戦う中、逃げ惑う人々を掻き分け一目散に避難したのだ。
そして今、他の騎士達に守られている。
そんなバルガスを、恨めしそうにギリッと睨むロバート。
───くそっ! フェクターに変えた張本人のクセに、何なんだよ、あの野郎は!
ロバートが憤る中、バラガスは周りの騎士達に向かい尚も喚き立てている。
自分がメイの父親をフェクターにした事など、微塵も悪いと思っていない。
バラガスの心にあるのは、己の保身だけだ。
「お前ら俺を必ず守れよ! 俺様は貴族なんだ! お前ら庶民共とは命の重さが違うんだからな!!」
お飾りで騎士をしているバルガスにとって、これは紛れもない本心。
貴族の息子として生まれたバルガスは普段戦いとは無縁の場所で優雅に暮らしているが、社会勉強の一環という名目で騎士の格好をしてるだけだから。
簡単に言えば、ただの箔付けでありカッコつけ。
なので、鎧をちょっと汚されただけでメイにあれだけ激昂したのだ。
もちろん皆それを分かっているし、他の騎士達だって本当はバルガスの事なんて守りたくない。
むしろ、こんな奴ブン殴りたいと思っている。
───なんでこんなヤツが俺等の上なんだ! 実力も無いのに、貴族ってだけで威張りくさってるヤツが……!
その場の全ての人間達がそう思い憤っていると、メイが涙を流しながらロバートに訴えるような瞳を向けてきた。
綺麗な瞳から大粒の涙が溢れ出て止まらない。
「ねぇ、おじちゃん! お父さん、なんであんな風になっちゃったの?!」
「メイ、それは……」
「お父さんを返して! 返してよ! うっ……うぅっ……わーん!」
泣きじゃくるメイを前に、ロバートは悔しさで目をギュッと閉じた。
「俺だって、キミのお父さんを返してやりてぇ。けど……」
ロバートはその後の言葉をグッと飲み込んだ。
メイに言いたくなかったから。
父親の事は、もう助けられないという事を……!
なぜなら、目の前のフェクターは剣も弓も通さない最強レベル。
魔法だって、自分達のじゃ効きやしない。
だから魔力クリスタルを破壊して救うどころか、討伐出来るかすら分からないのだ。
───メイ、すまねぇ……!
それを直感的に悟ったメイは、ロバートに涙を溢しながら訴える。
自分の大好きな父親がモンスターになってしまったのが、悲しくてしかたないのだ。
「お父さんが……お父さんが何をしたの?! お父さんは、私を庇って守ろうとしただけだよ! なのになんで?!」
その涙の訴えに感極まったロバートはザッとしゃがみ込み、メイの小さな体をギュッと抱きしめた。
「メイ……キミのお父さんは何も悪くねぇ! 悪くねぇんだ……!」
「じゃあ、どうして! うぅっ……やだよぅ……」
メイの涙で胸を濡らすロバートは、心の中で毒づく。
このどうしようもない理不尽さを呪いながら。
───ちくしょう……! なんで世の中はこんなにクソなんだ。なんであの優しい父親がフェクターになって、あのクソヤローが貴族ってだけで守られてんだよ! けど、一番許せねぇのは……
ロバートはそこまで毒づくと、今度は自らを呪う。
───そう……この俺の弱さだ。俺はなんでこんな無力なんだ。泣いてるメイを抱きしめる事しか出来ねぇなんて……! 俺がメイにしてあげられるのは、せめて……
己の力の無さをを呪ったロバートは、メイを抱きしめていた手をスッと離した。
そして、数瞬顔をうつむけてから意を決して立ち上がるとバッと顔を上げ、衛生兵の隊長として皆に大きな声で号令をかける。
「お前ら! 全力でいくぞ!!」
「隊長?!」
顔をハッと振り向けてきた部下達に、ロバートは全てを負う覚悟を持って告げる。
「……分かってる。お前らもきっと同じ気持ちだろう。けどな、俺達はこの街を守らなきゃいけない」
ロバートは皆にそこまで告げると、手から血が滲み出るほどグググッと拳を握った。
無論、心はすでに血の涙を流している。
「だから……せめて、せめてメイの父親が苦しまないように、全力で一秒でも早く倒すんだ!」
「隊長……」
「いくぞ!!」
「オォォォォッ!!」
ロバートが部下達とフェクターに向かい突撃していった時、メイはロバート達の背中にに向かって泣き叫んだ。
「やめてー!お父さんを殺さないでーー!!」
その叫びがロバート達の心をグサっと貫き、皆、胸が張り裂けそうな思いに駆られながら思う。
この子の苦しみに比べたら、今から自分がフェクターにどんな攻撃を喰らおうとその比ではないと。
───メイ、ごめん、本当にごめんな……俺の事を恨んでくれて構わねぇから……!
ロバートも部下達も、己の非力さからくる怒りと悔しさを噛み締めながら、咆哮を上げてフェクターに突撃していく。
「ウオォォォォッ!!」
が、その時ロバート達とフェクターとの間に上空から、ズドンッ!! と、いう轟音と共に男が斬撃を放ちながら舞い降り、その衝撃で辺りに砂塵が吹き上がった!
「な、なんだ一体?!」
ロバートが驚きに目を大きく開きながら砂塵の向こうに目を凝らしていると、晴れていく砂塵の中から見えてきた。
金色の刺繍を施された白のロングジャケットを身に纏った、精悍な美青年の姿が。
「ア、アンタは一体……?」
「砂埃を立ててしまってすまない。俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミは?」
「け、剣士見習ぃ?!」
ロバートは思わず声を上げた。
ノーティスが叩き斬り、大きく裂けた大地を見ながら。
「俺はここの衛生兵の隊長ロバートってもんだけど、お前さんが見習いなんて嘘だろ?! こんな斬撃、冒険者だって出来やしねぇ」
「う~ん、けどまだ一応見習いなんだ。けどロバート、それよりもこの状況は……」
ノーティスは辺りをチラッと見渡した。
すると、その瞳に映った。
倒れてる衛生兵達や傷付いた人々と、破壊された建物の間でグルルルルッ! と、湿った吐息を吐きながら真紅の瞳で自分を見下ろす巨大なフェクターの姿が。
それを見てノーティスは哀しく顔をしかめ、ロバートの方を向いた。
「ロバート、なぜフェクターが発生した?」
「それはあのヤローが……」
ロバートが悔しそうにそう告げ、騎士達に守られているバルガスの方をチラッと見た時、残りはロバートの隣で泣いてるメイの涙がノーティスに教えてくれた。
誰がどういう経緯でフェクターを発生させたのかを。
「なるほどな……フェクターはこの子の父親か。大方、あそこで騎士達に守られてる男が、この子の父親に何かをしたんだろ」
「なっ?! なぜそれを?」
「フッ、やはりか。ああいうヤツの顔は、今まで嫌という程見てきたからな」
昔を思い出して一瞬瞳を閉じたノーティスは、涙を流すメイの前に行くとスッと跪き優しい眼差しを向けた。
メイにこれ以上涙を流させない為に。
「俺はエデン・ノーティス。剣士見習いだ。キミの名前は?」
「メイ……」
「そうかメイ。もう大丈夫だから」
「うぅっ……ノーティス、お父さんを殺さないで。お願い……」
綺麗な瞳から涙をボロボロ流し訴えてくるメイ。
ノーティスはそのメイの気持ちを真綿で包むように、澄んだ優しい瞳を向けまま微笑む。
「殺さないよ」
「……本当に?」
「あぁ、約束だ。メイ、キミのお父さんを、必ず元の元気な姿でメイに返すよ」
ノーティスはメイにそう告げるとスッと立ち上がり、フェクターに澄みきった瞳で向かい合った。
昔、自分に人の温かさを教えてくれた少女を守る為に、初めてフェクターと対峙した時の事を脳裏に巡らせて。
「フェクター……」
「グルルルルッ……!」
フェクターは生暖かい吐息を吐いて睨みつけてくるが、ノーティスは臆する事無く告げる。
あの時のように、敵ではなく、まるで友に語りかけるように。
「……キミを必ず元の姿に戻し、メイの下へ返す!」
応援ありがとうございます!
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