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第4章 仲間達との絆

cys:65 時を超えて交わる運命

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「うぅぅ……クソがっ!! ……ちくしょぉぉぉぉっ!!!」

 イクタスは再び地面に這いつくばり悔しさに顔を歪めたまま、拳を地面にドガッ! と、思いっきり叩きつけた。

 メティアを戻し損ねたどころか、自分が作り上げてきたパーティーが一瞬で崩壊したからだ。
 自らの愚かさから出たとはいえ、イクタスにとっては最悪の結果に他ならない。
 叩きつけた拳からにじみ出る血の上に、イクタスの零す涙が染みていく。

 メティアは、そんなイクタスを見下ろしていた。
 らしくない冷酷な眼差しで。

「イクタス、ボクはもう行くから……ノーティス達の所へ」
「ま、待てっ、メティア」

 懇願する顔で片手を伸ばすイクタスを、メティアは変わらぬ眼差しで見つめている。

「さよなら……」

 メティアはイクタスにそう告げると、クルッと背を向けた。
 そして、顔を伏せたままスタスタとノーティス達のどこまで行くと、なぜかそのまま通り過ぎていってしまった。

「ちょ、ちょっと……! 待ちなさい」

 レイが焦ってメティアの背中に声をかけると、メティアはピタッと立ち止まったが、こっちに振り返らない。 
 背を向けて、その場に立ち尽くしたままだ。

「……どうしたのかしら」

 レイは心配になり、メティアの背中をそっと見つめている。
 もっと近づこうとしたのだが、メティアから漂ってくる切ない雰囲気が、近寄る事を躊躇ためらわせる。

 そんな中、ノーティスはロウに目配せし、ロウが静かにコクンと頷いたのを受け取ると、レイの肩にポンと片手を乗せた。

「レイ……」
「なに?」
「すまないが、俺に行かせてくれ」

 ノーティスはレイにそう告げると、立ち尽くしているメティアの背に近づき、メティアの頭にそっと片手を乗せた。

「メティア、よく頑張った」

 敢えてメティアの方を見ず、真っすぐ前を向いたままそう告げたノーティス。
 メティアが声を押し殺したまま、涙をボロボロ零しながら泣いているのが分かっていたからだ。

───無理もないよな。どんなにあからさまでも、自分が本当に大好きだった相手に別れを告げるのは、辛いに決ってる。

 ノーティスが思った通り、メティアは辛かった。
 だからこそ、別れ際に敢えて冷酷な眼差しでイクタスを見下ろしたのだ。
 そうでもしないと、イクタスの前で泣いてしまっただろうから。

「うぐっ……ごめんノーティス」

 小さな体を震わし涙をポロポロ零しているメティアに、ノーティスは凛とした瞳で前を向いたまま優しく言葉をかける。

「いいんだメティア。けど、キミに依頼がある」
「うぅっ……依頼?」
「そうだメティア。『特級ヒーラー』としての初依頼だ」

 ノーティスはそこまで言うと、メティアにそっとハンカチを差し出した。

「それは、このハンカチで自分の涙を拭う事だ。今メティアが一番癒さないといけない相手、それはキミ自身なんだから」
「ノーティス……」

 メティアはそのハンカチを受け取ると顔に当て、溢れ出した涙を拭った。
 そしてノーティスの方へ振り向くと、潤ませた瞳で見上げる。

「ノーティスごめんなさい……キミの大切な魔法のハンカチ、またグシャグシャにしちゃったね」

 涙の跡を残したまま涙声で笑顔を見せるメティアに、ノーティスは優しく微笑みを向けた。

「いいんだよメティア。それを俺にくれたのはメティア、キミなんだから」
「えっ、どーゆー事? だってこれはノーティス、キミの……」

 驚いて目を丸くして見上げているメティアに、ノーティスは静かに問いかける。

「メティア。辛い事を思い出させてしまうけど、昔キミのお母さん、フェクターに襲われた事がなかったかい?」
「えっ?! な、なんでそれを! 確かにそうだけど」
「やはりか……」

 ノーティスが確信した顔で軽く頷く中、メティアはノーティスに光の宿った瞳を向けた。

「うん。ボク、その時お母さんを治してくれたヒーラーさんに憧れて、特級ヒーラーになるって決めたんだもん!」

 メティアはそこまで言って、やはり気になった。

「でも、何でノーティスその事知ってるの? この話はまだした事無いのに……」

 するとノーティスは、瞳に涙を浮かべながらメティアを見つめる。
 男が滅多に泣くもんじゃないと思ってるけど、どうしても涙が溢れてきてしまう。

「知ってて当然だよ……メティア、お母さんがフェクターに襲われた日、お母さんに怒られなかったかい? 無色の魔力クリスタルの人間なんかに、優しくしちゃダメだよって」
「……あっ!」

 メティアはその瞬間思い出した。
 昔、雨に濡れてうずくまっている無色の魔力クリスタルの男の子に、自分のハンカチを渡した事を!

「もしかしてノーティス、キミはあの時の……!」
「ああ、そうだよメティア。あの時キミが渡してくれたハンカチ。そしてあの時かけてくれた言葉」

『キミの味方もいるんだって事、覚えておいてほしいから』

 ノーティスとメティアの脳裏に、あの日の憧憬どうけいがありありと甦る。

「あの時キミが俺に教えてくれた人の温かさを、俺は忘れた事はない。ありがとう、メティア」
「ノーティス……こんな事、こんな事って……」

 時を超え繋がった想いと奇跡に震えるメティアを、ノーティスも瞳に涙を湛えながら見つめている。

「あぁ、メティア。キミが今までしてきた事は、何も間違ってなかったんだよ。メティアのお陰で俺は今……ここに立っていられるんだから」
「ノーティス……まったくキミは、どこまでボクを泣かせたら気が済むんだよ♪」
「お互い様だ。俺達はもう……うずくまる事は決して無い!」
「ううっ……ノーティスーーーーーーーーーー!!!」

 メティアはノーティスにギュッと抱きついたまま、その小さな体を震わせ、ノーティスの腕の中で泣きじゃくった。
 心の中から沸き上がってくる、止まらない温かさと共に……

『エデン・ノーティス』と『フロラキス・メティア』
 幼い頃に互いを思いやった2人の数奇な運命は、今、最高の形で交わった。
 瞳から零した涙と、心から溢れ出る互いの愛で。
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