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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:127 ロウの采配

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「だったらこの戦は引き分けだ」
「なんですって?! アナタは何者なの」
「これは申し遅れてすまない。僕はスマート・ミレニアムの王宮魔道軍師、アルカディア・ロウだ」
「私はトゥーラ・レヴォルトの勇者、メデュム・アネーシャ」

 アネーシャがロウに名乗ると、ロウはアネーシャを静かに見つめた。
 そして、敬意を込めた眼差しを向けて話を始める。

「アネーシャ。キミの戦いぶりは素晴らしかった。敵ながら見事だと思う」
「フンッ……」
「けど、あそこでノーティスが突然原因不明の頭痛に襲われていなければ、キミが負けていたハズだ」
「……! でも、立っているのは私よ!」

 悔しそうにギリッと睨んできたアネーシャを、ロウは諭すような顔で見つめる。

「チェスにしても剣技にしても、勝負の相手が勝負内容以外の事で倒れたら、その勝負は無効だ。違うかな?」
「うっ……」
「よって、勇者同士の一騎打ちは無効。片や、他の部分では僕らの勝利だ」

 ロウがそう告げた時、ちょうどアンリが現れた。

「ニャハハッ♪ こっちはほぼ終わったぞーーーい♪」
「アンリ、ご苦労だったな」
「ロウ、お前さんのお陰ニャ♪」

 アンリがそう言って笑うと、ロウはアネーシャにスッと視線を戻す。

「アネーシャ。と、いう訳でこの戦は僕らの勝ちだ。けど、キミの奮闘に免じて引き分けにして、これ以上は戦わず見逃してあげてもいい。さぁどうする?」

 形勢を一気に逆転されたアネーシャは、しばらく悔しい顔でロウを睨んでいたが、スッと表情を落ち着かせロウに問う。

「じゃあ今からアナタ達を蹴散らして、ノーティスを殺すと言ったら?」

 するとロウだけでなく、レイやジーク、メティアも再び魔力クリスタルを輝かせ、力強い笑みをアネーシャに向けた。

「賢明なキミが、その判断をするとは思えないが」
「フフッ♪ 結果は占わなくても分かるわよね」
「やりてぇなら、やってやるぜぃ」
「ボクもノーティスを全力で守るよ」

 アネーシャはそんな皆を凛とした瞳でジッと見つめると、フッとため息をついた。
 そして、クルッと背を向けマントをバサッと靡(なび)かせると、右手を大きく天に掲げ号令を出す。

「この戦は引き分けだ! 全軍撤退っ!」

 その号令に互いの残った兵士達から、ワァーーーッ! という歓声が上がる中、アネーシャはスッと顔を振り返らせた。

「アナタ達、勘違いしないでね。アナタ達が束になっても私には勝てないから」
「んだとぉ!」
「言ってくれるじゃない……!」

 興奮したジークとレイを、ロウはサッと手で制した。
 ロウには分かっていたからだ。
 今のセリフが誇張や過信ではなく、本当である事が。

 もちろん、全員本気で戦えば勝てるかもしれないが、皆大きなダメージを負うのは必至。
 ロウはそれを一瞬で見抜いたからこそ、戦いを回避させたのだ。

「ならば、なぜ呑んだ……」
「決まってるでしょ♪ そんな状態の彼を倒しても、私の気持ちは晴れないからよ」

 アネーシャのその言葉を聞いたロウは、驚きと敬意に目を丸くした。
 そしてフッと感嘆のため息を零すと、アネーシャを凛とした瞳で見つめる。

「なるほどな……皆に伝えておくよ。トゥーラ・レヴォルトの勇者メデュム・アネーシャは、自軍と戦士の誇りを守ったと」
「……!」

 アネーシャは決して頷きはしなかったが、その瞳にロウへの敬意を宿し見つめる。
 ロウが自分の心を汲んでくれた事を感じたからだ。 
 そして、気を失っているノーティスの事をチラッと見ると、スッと戦場から去っていった。

 そこに、儚げなオーラだけを残したまま……
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