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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:128 女神『レティシア』の見せる真実

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「やめてーーーー!!」

 涙をほとばせながら、悲痛な叫び声を上げた少女。

 その瞳に映るのは、辺り一面に燃え盛る炎と惨殺された数多の死体、その中を必死に逃げ惑う人々の姿だ。
 そして、血の混じった砂塵が空を覆い、それを突き破るかような数多の悲鳴がこだまする。

 そんな地獄絵図を次々と作り出していく、邪悪なる者達の下卑た笑み。
 救いなど、どこにも無い景色。

 この国の戦士ロキは、その邪悪な者達から少女を守る為に、ボロボロの姿になりながらも敵に向かい剣を構え、その瞳に光を宿し敵を見据えている。

「ハァッ……ハァッ……お前達の好きにはさせん。必ずこの国を、人々を守り抜く!」
「クククッ……ムダだ。死ね」

 邪悪な者は、振りかざした剣に漆黒のエネルギーを集め巨大な刃と化すと、ニヤリと嗤いながらそれをロキに振り下ろした。

「ぐはぁッ!」

 ロキの体からブシャァァァッ! と血しぶきが舞った時、少女の瞳が染まる。真紅の絶望に。

「いやぁーーーーーー!!!」

 また、ロキを惨殺されたカインは怒りに打ち震え敵を睨みつける。

「ロキ! くっ……許さん!!」

 カインは怒りと共に剣を振り上げたが、その体は一瞬にして敵に後ろからガシッと止められてしまった。

「キ、キサマは……」

 苦しみながら顔をググッと振り返らせたカインに、女は蔑んだ笑みを浮かべてニヤッと嗤う。

「じっとしてなさぁい♪ 私、実力も無いのに戦う男、嫌いなのーー」
「黙れ……皆の命とユグドラシルは俺の命に代えてでも……」
「そーゆーとこよ。もう、死になさい♪ 『プソファー・シンフォニー』!!」

 女がそう告げ死の歌を歌うと、カインの神経はズタズタに引き裂かれた。

「ぐあぁぁぁぁ……!!」

 ドシャっと倒れ絶命したカインをその女は嗤う。
 その瞳に邪悪で妖しい光を宿したまま。

「ウフフフッ♪ 脆いわねぇ。でも、私の歌を聞いて死ねるなんて幸せね。アーッハッハッハッ!」

 その女が嗤う中、別の場所では多くの人が一瞬で醜い化け物に姿を変えられていた。

「うがぁぁぁっ!」「ぐぎぎぎぎっ!」「あががががっ……」

 そう悲鳴を上げた直後、彼らの身体は真ん中からベリッベリッ! と音を立てて引き裂かれ、大量の血が数多の噴水のように吹き上がる。

 それを見て、楽しそうに少し目を丸くしている邪悪な者。

「ウヒヒヒヒッ♪ これは新たな発見だ。次は、もう少し苦しみを続けられるように調整するか」

 邪悪なる者達は殺戮と蹂躙を嬉々として続け、それにより、さらに力無き者達が次々に殺されていく……

 その光景を、ノーティスはただ見つめていた。
 いや、見させられていたといった方が正しい。
 関わる事の出来ない絶望の光景を……

「やめろ……やめろ……やめろーーー!!」



 ノーティスが涙を零しながらそう叫んだ時、世界が瞬く間に白く優しい光に包まれた景色に変わった。

「こ、ここは、一体……」

 突然景色の変わった世界は、まるで神話に出てくる天国の様な場所だった。
 その中をキョロキョロ見渡しながら歩いていくと、ノーティスを呼ぶ女の声が聞こえてくる。

「ノーティス……エデン・ノーティス……」
「誰だ? 俺を呼ぶこの声は」

 ノーティスが不思議な顔をしてそう零すと、少し前方に白く神々しい光を溢れさせている女が現れた。
 白いドレスに美しい長い髪がかかった姿で、どこまでも澄んだ瞳でノーティスを見つめている。

「アナタは……」
「私は女神『レティシア』です。ノーティス、よくぞここまで戦いました」

 そう告げ優しく微笑んだレティシアに、ノーティスは目を大きく開いて詰め寄った。

「女神レティシアだって……じゃあ、俺は死んだのか? それに、さっき見たあの光景は一体何なんだ!」

 ノーティスが憤りをぶつけていくと、レティシアは軽く瞳を伏せ神々しい声で答えていく。

「確かにここは生身の人間には来れない場所……けれど、貴方は死んではいません」
「死んではいない? じゃあここは……」
「ここは、夢の中であり現実と言えば分かるかしら」
「夢の中であり現実? どこかで聞いたような……」

 ノーティスが自分の中の記憶を探っていくと、レティシアはノーティスを少し哀しく見つめた。

「やはり、まだ完全には思い出せないのですね」
「思い出せない?」
「ええ……貴方が完全に光に目覚めれば、ここでの事も、そして本来の使命も全て思い出すでしょう」
「本来の使命?」
「そう。それまでは、ここの事も記憶の底に眠ったままです……」
「そんな……俺は、俺の本来の使命とは何なんだ?!」

 そう言って詰め寄るノーティスに、レティシアは凛とした眼差しを向けた。

「一刻でも早く目覚めるのです。先程の光景を見たでしょう」
「そうだ。あれは一体何なんだ?」
「あれは昔、実際に起こった真実の歴史です」
「なんだって! じゃあまさかあれは……」

 ノーティスの背筋にゾッと冷たいモノが走った。
 
───あの光景はまさか、シドやアネーシャが言ってた事なのか……!

 すると、レティシアはノーティスの心を読んだかのように、哀しく瞳を伏せた。

「ノーティス……貴方が思った通りです」
「そ、そんな……」
「あれは、スマート・ミレニアム建国前の出来事……」

 それを聞き、絶望に身体を震わせ膝をつきそうになったノーティスに、レティシアは再び凛とした眼差しを向けた。

「でも、貴方はここで負けてはいけません。エデン・ノーティス。貴方は光の勇者であり『祓う者』なのですから」
「祓う者……?」
「そうです。ただ、今はもう、これ以上ここにいられる時間はありません。後は貴方の光の目覚めにかかっています」

  レティシアがそう告げた時、ノーティスの意識は現世に戻っていった。
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