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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:136 アルカナートvs闇の力

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 アルカナートは扉を叩き壊すような勢いでバンッ! と開け、教皇の間に乗り込んだ。

 そして艶のある瞳に怒りの炎を宿し、ツカツカと足音を立てて近付いていく。
 まるで、アルカナートが来るのを分かっていたかのように、玉座に悠然と構えている教皇に向かって。

「教皇……いや、来てやったぜ。悪魔に魅入られし男、ヴェルテ・クルフォス!」

 アルカナートは怒りの炎を瞳に宿したまま、クルフォスをキッ! と睨みつけた。
 けれど、クルフォスは動じず玉座からゆっくりと立ち上がり、アルカナートを凛とした瞳で見つめる。
 スマート・ミレニアム最高位のオーラは、伝説の剣聖の前でも揺らぐ事は無い。

「アルカナート。久しいな」
「チッ、懐かしみに来たわけじゃねぇんだよ」
「フッ……そう急くな。あの時以来か」

 不敵に微笑むクルフォスに、鋭い怒りの眼差しをぶつけるアルカナート。

「ああ、そうだな。テメェが……アイツと一緒に悪魔に魂売って以来だ」
「クククッ……何を言うかと思えば、相変わらずだなアルカナート。見た目も中身も全く変わっていない」
「テメェと違って、腐ってねぇだけさ」

 アルカナートかそう吐き捨てると、天幕の後ろから自信に満ちた精悍な声が教皇の間に響いてきた。

「アルカナートよ! 偉大なる教皇様に向かっての暴言の数々。オマエこそ腐っているのではないか」
「テメェは……」

 鋭い眼光を放つアルカナートの前に、天幕の後から漆黒の鎧を纏った男がザッと現れた。
 銀色のミディアムヘアから、切れ長の目でアルカナートを見据えている。

「アルカナート、よくもここに顔を出せたものだな」
「クリザリッド!」
「気安く呼ぶな。剣を置いたお前と違い、俺は今や教皇様の側近であり、あのお方達を守護する地位にいるのだ!」

 そう言って玉座の隣から冷酷な自信に溢れた眼差しで見下ろすクリザリッドを、アルカナートは怒りと哀れみの交叉した瞳で見据える。
 かつて、共に同じパーティで戦っていた時の事を思い浮かべながら……

「なぁクリザリッド、教えてくれ。戦士の誇りを捨ててそこに立つ気分は、どんなもんなんだ?」
「……お前には分からんさ」
「フンッ、まっ、分かりたくもねぇけどな」

 そう告げ、怒りと哀しみの眼差しでクリザリッドを見据えたアルカナートは、ズイッと一歩近付いた。
 その心に不退転の決意を宿して。

「クリザリッド、案内してもらうぜ。クルフォスと共に、奴らの下へな」
「そうか……よもやとは思ったが、教皇様の仰った通り本当に全て気付いたか」
「ああ、証拠を掴むまでに大分時間かかっちまったけどな」
「クククッ……」
「何がおかしい」

 訝しむ顔を浮かべたアルカナートに、クリザリッドは邪悪な笑みを向けた。
 そして、クリザリッドの全身から強大なオーラが立ち昇ってゆく。

「アルカナートよ。いくらお前が真実に気付こうとも、全ては無駄な事」
「なんだと」
「簡単な話だ。お前はここで死ぬのだからな!」
「フンッ、やってみやがれ……!」

 アルカナートはクリザリッドをキッと睨むと、腰を軽く捻り抜刀術の構えを取ったまま、額の魔力クリスタルに力を込める。

「銀河の星々と共に、輝きやがれ。俺のクリスタルよ!」

 白輝の輝きを一気に溢れさせ全身に纏ったアルカナートと、それを見てニヤッと笑うクリザリッド。

「その光、変わらぬ強さだが私に勝てると思っているのか?」
「フンッ、当たり前だろ」

 アルカナートが言った通り、その輝きはクルフォスの巨大なオーラを凌いでいた。
 さすがは伝説の剣聖。
 しかし、クルフォスは余裕の笑みを浮かべたままだ。

「さすがは最強の勇者アルカナート。その輝きは衰えるどころか、以前よりも増している。だが……」

 クリザリッドは、額の漆黒の闇のクリスタルから闇の輝きを溢れさせていく。

「ダークマターの闇と共に、漆黒に煌めくがいい。我がクリスタルよ!」

 その漆黒の輝きを全身に纏ったクリザリッドを、睨みつけるアルカナート。
 
「チッ……クルフォスと同じく、やはり完全に堕ちていやがったか」
「堕ちる? クククッ……何の事だアルカナート。これこそが私の力であり正義だ」
「ふざけるなよ、クリザリッド! テメェのその闇の力、俺が薙ぎ払ってやる!」

 苛立ちながら剣を構えたアルカナートに向かい、クリザリッドはニヤリと笑みを浮かべた。

「俺は、偉大なるあのお方達と教皇様の守護神『メタニア・クリザリッド』そして剣聖アルカナート、貴様をこの場でほふる者だ!」

 クリザリッドはそう告げると剣を振りかざし、勢いよくアルカナートに飛び掛かった。

「ハッ!」

 ガキインッ!

「チィッ!」

 アルカナートがそれを剣で受けると、クリザリッドは後ろにスッと飛び余裕の笑みを浮かべたまま告げる。

「クククッ、アルカナートよ、お前は決して俺には勝てん」

 クリザリッドはそう言い放ち、漆黒のオーラを纏わせた剣をかまえると、そこに銀色の闘気を入り混じらせた。

「なっ! あれは!」

 目を大きく見開いたアルカナートに、クリザリッドはニヤリと嗤い技を放つ。

「喰らうがいい『神狼翔牙!!』」
「バ、バカなこれは! くっ……白輝の刃よ、脅威を薙ぎ払え!『アクティ・フォース』!!」

 ドォォォォォン!

 アルカナートはクリザリッドの技を何とか相殺したが、粉塵が消えてゆく中、驚きに目を大きく見開いたままだ。
 この技はかつてアルカナートが戦い、その中で互いを認め合ったサガという男の技だったからだ。

「クリザリッド……なぜキサマがサガの技を使える!」
「クククッ……簡単な事だ。俺が殺したからよ。お前が奴と激闘と繰り広げ、あの場から去った後にな」
「なんだと! キサマやはり……」
「まあそう怒るなアルカナート。奴の力は俺の特殊吸収スキル『ザカル』で俺のモノになり、こうして生きてるんだからな」

 クリザリッドはそう言って、ニヤリと黒い笑みを浮かべた。
 己の罪を悔いるどころか、それを誇らしげにしているような顔だ。
 そして、アルカナートを心から激怒させるような事を、楽しそうに言ってくる。

「しかしアルカナート、見物だったぞ。サガの息子のアルベルト・シドが、お前の愛弟子エデン・ノーティスと戦ったのは」
「……!」
「そして、本来一番の友になるハズのシドをその手で斬り、ヤツが悲しみに涙を流す姿はな……ハーッハッハッハッハッ!!」
「テメェ……どこまで腐ってやがる!」

 クリザリッドの高笑いがこだまする中、アルカナートは怒りに全身を震わせギリッと睨みつけた。

 痛い程分かったからだ。
 戦いの中で剣を交えながら魂で語り合い、友と認めた男を斬らなければならなかったノーティスの気持が。
 また、シドもノーティスと気持ちは同じだった事も……!

───ノーティス、シド。テメェらの無念は、俺が晴らしてやる。

 アルカナートが決意する中、クリザリッドは高笑いを止め、その瞳に憎しみを宿した。

「フンッ、ほざけアルカナート。俺は昔からオマエが嫌いだった。何をしても俺より常に上をいき、そして……」

 クリザリッドの瞳に宿った憎しみの炎が燃え盛る。
 その理由を瞬時に悟ったアルカナートは、哀しくクリザリッドを見つめた。

「……ナターシャの事か。クリザリッド、あの事はいつかお前に……」
「黙れ! この人殺しが!!」

 クリザリッドは横薙ぎの剣から衝撃波を放ち、アルカナートにその憎しみごと叩きつけた。
 その瞳は憎しみに加え、悲しみと狂気に彩られている。
 
「今も昔もアルカナート、お前さえ……お前さえいなければよかったんだ!」
「クリザリッド……」

 アルカナートは剣の柄をギュッと握りしめ、必殺剣の姿勢を取って見据えた。
 闇に堕ちた友を救う為。
 そして……

───サガ……お前の誇りは俺が守り抜く!
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