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第6章 魔力クリスタルの深淵
cys:137 サガと枯れる桜
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「アルカナートよ、冥土の土産に教えてやる。シドの父親……アルベルト・サガの最後をな!」
アルカナートはクリザリッドと対峙したまま思い出していた。
かつて全力で戦い、アルカナートにとって忘れられない共になったサガの事を……
遡る事10数年前……
「シド、着いたわよ」
「シドよ、これが『サクラ』だ」
両親に連れて来られ目の前に広がる満開のサクラを見た時、幼き日のシドはそのあまりの美しさに息を飲んだ。
「凄い……凄く綺麗な花だね! 父さん、母さん!」
「フフフッ、そうね。シド」
優しく微笑むシドの母の隣で、サガは桜を見上げたまま誇らしくシドに告げる。
「シドよ、この花は我らトゥーラ・レヴォルトの心の花だ」
「心の花……!」
シドはサクラの木を見上げながら、思わずそう声を漏らした。
あまりのその美しさに。
そんなシドを、サガは温かい目で見つめた。
「そうだ。このサクラは遥か昔からある、まるでこの世界の物とは思えぬ花。我らはこの花と共に歴史を作ってきた」
「そうね。だけど……」
「だけど?」
突然表情が曇った母に、シドは不安そうな顔を向けた。
するとサガが、辛辣な面持ちで桜を見つめたまま答える。
「ああ。この花は、最早ここにしかない。100年前、5人の悪魔が魔力クリスタルを作った時から……」
「えっ、どういう事? それに5人の悪魔って……」
「シドよ、全てはあの悲劇から始まったのだ。ヤツらはあのユグドラシルを奪い、そして、クリスタルタワーから放たれる新エネルギーによって……」
サガがそこまで言いかけた時、母親が突然叫んだ。
「アナタっ!」
その声に反応した2人が振り返ると、彼女は青ざめた顔で震えながら指を指していた。
その指先の向こうにいる、敵国スマート・ミレニアム軍を。
大軍ではなく十数名程の調査隊の様ではあったが、皆からは高そうな戦闘力が伺える。
正直、この人数はかなりヤバい状態だ。
「お父さん!」
「シド、慌てなくていい」
そして、サガ達を見つけたスマート・ミレニアム軍の兵士経ちは、サガ達の額にクリスタルが埋め込まれていない事を確認するやいなや、その部隊のリーダーであるドロスにそっと告げる。
「ドロス様、奴らはまさか……」
「ああ、間違いない」
ドロスはそう答えると、濃い紫色の魔装束を纏ったままサガ達に近寄りギロッと睨みつけた。
その瞳は卑屈さと蔑みに満ちている。
「貴様ら……額に魔力クリスタルが無いという事は、トゥーラ・レヴォルトの者だな……!」
ドロスからそう問われたサガは、妻とシドを自分の背の後ろに隠し、ドロス率いるスマート・ミレニアム軍に堂々と向き合った。
別にここにいて、何の文句も言われる筋合いはないからだ。
「そうだが、何か問題でもあるのか」
サガはそう告げたが、ドロスは怪訝で冷酷な眼差しを向けてきた。
「当然だろう。ここは、我らスマート・ミレニアムの領地とさせてもらったのだからな。それに、もうすぐ新しいクリスタルタワーも完成するのだ」
「ふざけるな。それはオマエ達の勝手な理屈だろう。ここは元々、我らトゥーラ・レヴォルトの領地。何より、クリスタルタワーなどこれ以上建てさせん! サクラの花を枯れさせる、新エネルギーを放つ魔塔などな!」
怒るサガに、ドロスは呆れた顔をした。
「ハハハハハッ! 何を言い出すかと思えば、この花が枯れるだと? それがどーした?」
「なんだと?!」
サガは怒りで相手を睨んだが、ドロスは動じる事無く悠々と話を続ける。
むしろ侮蔑を宿した瞳で、シドの父親を見下したまま。
「いいか、このクリスタルタワーは、偉大なる神聖樹ユグドラシルから放たれる聖なる魔力を新エネルギーとして変換利用出来る、素晴らしい塔なのだ。それを、たかが花ごときで文句を言うとは……ハハッ」
ドロスのこれは、侮蔑も入っているが本心だ。
元来花や自然等にはチリほども興味がなく、またドロスは相手が被害を被ろうと、気にも止めない男だからだ。
そんなドロスに向かい、サガは怒鳴りつける。
「キサマ、何を言う! 我々の心の花を、たかが花だと?! 何よりその新エネルギーで、一体どれほどの生態系が被害を被っていると思ってる! そもそもユグドラシルは……」
サガがそこまで言った時ドロスは言葉を遮り、フゥッとダルそうに溜め息を吐いた。
「やはり、魔力クリスタルの救いを拒む、悪魔の手先である蛮族には分からんか」
「分かる訳ないだろう。お前達こそ分からないのか? 魔力クリスタルは救いなどでは、決してない」
「ほざけ、この蛮族めが……!」
ドロスは苛立ちと共にそう零すと、サガに剣をシュッと向けた。
「悪魔軍を率いて我らに仇なす敵国トゥーラ・レヴォルトの民よ。我らの崇高な想いが理解出来ぬなら散るがいい! その花のように!」
ドロスがそう言い放つと、スマート・ミレニアムの軍勢は一斉に戦闘態勢に入り、額の魔力クリスタルを煌めかせていった。
その煌めきがサガ達を照らす。
まるで、その光で犯罪者を照らすかのように……
無論その輝きはノーティス達とは全くレベルは違うが、正規軍である以上B+ランク以上。
皆、戦闘力の高い猛者達には違いない。
「くっ……!」
サガはそんな彼らに向かい合ったまま、妻とシドに告げる。
こうなった以上、最早戦いは避けられないからだ。
「お前達、奴らは俺がここで食い止める。だからお前達は、早く逃げるんだ!」
「嫌だよ父さん! 僕も戦う!」
「そうよ! アナタ一人を残してなんていけない!」
必死な顔をして訴えてくる二人だが、サガは背を向けたまま一喝する。
「ダメだっ!」
そしてスッと顔を振り返らせ、二人に優しい眼差しを向けた。
「大丈夫だ。必ずお前達の元に帰るから」
そしてサガは再びスマート・ミレニアム軍に向き合い、妻とシドに背中ごしに告げた。
「さあ行け!」
サガの妻はその背中をジッと見つけた後に頷くと、シドをサッと抱き抱え凛とした眼差しで見つめた。
「アナタ、どうかご武運を……さあ、行くわよシド!」
「いやだ……父さーーん!」
サガに向かい悲壮な顔で片手を伸ばすシドの手を引き、母親はそこから走り去った。
しかし、スマート・ミレニアム軍は2人を見逃す気は無かった。
「追え! 例え女子供とて、我らスマート・ミレニアム軍に刃向かう者は逃がさん!」
ドロスはそう叫ぶと部下達に背を向けたまま、バッと片手を前に出し命じる。
「あの賊を倒し、女と子供も捕らえろ!」
「……!」
部下達は気が進まなかった。
例え敵でも今逃げた2人は非戦闘員。
そこまでする必要があるとは思えなかったからだ。
だがドロスはそんな部下達をギロッと睨む。
「何をしてる! 早く行け! ヤツを倒しあの女子供も始末するのだ!」
軍において上官の命令は絶対だ。
なので、部下達は心を押し殺し答える。
「はっ! ドロス様」
「ドロス様の仰せのままに!」
そして、ドロスの部下達は勇ましく声を上げるとサガをギロッと睨み、剣を大きく振りかぶり襲いかかった。
アルカナートはクリザリッドと対峙したまま思い出していた。
かつて全力で戦い、アルカナートにとって忘れられない共になったサガの事を……
遡る事10数年前……
「シド、着いたわよ」
「シドよ、これが『サクラ』だ」
両親に連れて来られ目の前に広がる満開のサクラを見た時、幼き日のシドはそのあまりの美しさに息を飲んだ。
「凄い……凄く綺麗な花だね! 父さん、母さん!」
「フフフッ、そうね。シド」
優しく微笑むシドの母の隣で、サガは桜を見上げたまま誇らしくシドに告げる。
「シドよ、この花は我らトゥーラ・レヴォルトの心の花だ」
「心の花……!」
シドはサクラの木を見上げながら、思わずそう声を漏らした。
あまりのその美しさに。
そんなシドを、サガは温かい目で見つめた。
「そうだ。このサクラは遥か昔からある、まるでこの世界の物とは思えぬ花。我らはこの花と共に歴史を作ってきた」
「そうね。だけど……」
「だけど?」
突然表情が曇った母に、シドは不安そうな顔を向けた。
するとサガが、辛辣な面持ちで桜を見つめたまま答える。
「ああ。この花は、最早ここにしかない。100年前、5人の悪魔が魔力クリスタルを作った時から……」
「えっ、どういう事? それに5人の悪魔って……」
「シドよ、全てはあの悲劇から始まったのだ。ヤツらはあのユグドラシルを奪い、そして、クリスタルタワーから放たれる新エネルギーによって……」
サガがそこまで言いかけた時、母親が突然叫んだ。
「アナタっ!」
その声に反応した2人が振り返ると、彼女は青ざめた顔で震えながら指を指していた。
その指先の向こうにいる、敵国スマート・ミレニアム軍を。
大軍ではなく十数名程の調査隊の様ではあったが、皆からは高そうな戦闘力が伺える。
正直、この人数はかなりヤバい状態だ。
「お父さん!」
「シド、慌てなくていい」
そして、サガ達を見つけたスマート・ミレニアム軍の兵士経ちは、サガ達の額にクリスタルが埋め込まれていない事を確認するやいなや、その部隊のリーダーであるドロスにそっと告げる。
「ドロス様、奴らはまさか……」
「ああ、間違いない」
ドロスはそう答えると、濃い紫色の魔装束を纏ったままサガ達に近寄りギロッと睨みつけた。
その瞳は卑屈さと蔑みに満ちている。
「貴様ら……額に魔力クリスタルが無いという事は、トゥーラ・レヴォルトの者だな……!」
ドロスからそう問われたサガは、妻とシドを自分の背の後ろに隠し、ドロス率いるスマート・ミレニアム軍に堂々と向き合った。
別にここにいて、何の文句も言われる筋合いはないからだ。
「そうだが、何か問題でもあるのか」
サガはそう告げたが、ドロスは怪訝で冷酷な眼差しを向けてきた。
「当然だろう。ここは、我らスマート・ミレニアムの領地とさせてもらったのだからな。それに、もうすぐ新しいクリスタルタワーも完成するのだ」
「ふざけるな。それはオマエ達の勝手な理屈だろう。ここは元々、我らトゥーラ・レヴォルトの領地。何より、クリスタルタワーなどこれ以上建てさせん! サクラの花を枯れさせる、新エネルギーを放つ魔塔などな!」
怒るサガに、ドロスは呆れた顔をした。
「ハハハハハッ! 何を言い出すかと思えば、この花が枯れるだと? それがどーした?」
「なんだと?!」
サガは怒りで相手を睨んだが、ドロスは動じる事無く悠々と話を続ける。
むしろ侮蔑を宿した瞳で、シドの父親を見下したまま。
「いいか、このクリスタルタワーは、偉大なる神聖樹ユグドラシルから放たれる聖なる魔力を新エネルギーとして変換利用出来る、素晴らしい塔なのだ。それを、たかが花ごときで文句を言うとは……ハハッ」
ドロスのこれは、侮蔑も入っているが本心だ。
元来花や自然等にはチリほども興味がなく、またドロスは相手が被害を被ろうと、気にも止めない男だからだ。
そんなドロスに向かい、サガは怒鳴りつける。
「キサマ、何を言う! 我々の心の花を、たかが花だと?! 何よりその新エネルギーで、一体どれほどの生態系が被害を被っていると思ってる! そもそもユグドラシルは……」
サガがそこまで言った時ドロスは言葉を遮り、フゥッとダルそうに溜め息を吐いた。
「やはり、魔力クリスタルの救いを拒む、悪魔の手先である蛮族には分からんか」
「分かる訳ないだろう。お前達こそ分からないのか? 魔力クリスタルは救いなどでは、決してない」
「ほざけ、この蛮族めが……!」
ドロスは苛立ちと共にそう零すと、サガに剣をシュッと向けた。
「悪魔軍を率いて我らに仇なす敵国トゥーラ・レヴォルトの民よ。我らの崇高な想いが理解出来ぬなら散るがいい! その花のように!」
ドロスがそう言い放つと、スマート・ミレニアムの軍勢は一斉に戦闘態勢に入り、額の魔力クリスタルを煌めかせていった。
その煌めきがサガ達を照らす。
まるで、その光で犯罪者を照らすかのように……
無論その輝きはノーティス達とは全くレベルは違うが、正規軍である以上B+ランク以上。
皆、戦闘力の高い猛者達には違いない。
「くっ……!」
サガはそんな彼らに向かい合ったまま、妻とシドに告げる。
こうなった以上、最早戦いは避けられないからだ。
「お前達、奴らは俺がここで食い止める。だからお前達は、早く逃げるんだ!」
「嫌だよ父さん! 僕も戦う!」
「そうよ! アナタ一人を残してなんていけない!」
必死な顔をして訴えてくる二人だが、サガは背を向けたまま一喝する。
「ダメだっ!」
そしてスッと顔を振り返らせ、二人に優しい眼差しを向けた。
「大丈夫だ。必ずお前達の元に帰るから」
そしてサガは再びスマート・ミレニアム軍に向き合い、妻とシドに背中ごしに告げた。
「さあ行け!」
サガの妻はその背中をジッと見つけた後に頷くと、シドをサッと抱き抱え凛とした眼差しで見つめた。
「アナタ、どうかご武運を……さあ、行くわよシド!」
「いやだ……父さーーん!」
サガに向かい悲壮な顔で片手を伸ばすシドの手を引き、母親はそこから走り去った。
しかし、スマート・ミレニアム軍は2人を見逃す気は無かった。
「追え! 例え女子供とて、我らスマート・ミレニアム軍に刃向かう者は逃がさん!」
ドロスはそう叫ぶと部下達に背を向けたまま、バッと片手を前に出し命じる。
「あの賊を倒し、女と子供も捕らえろ!」
「……!」
部下達は気が進まなかった。
例え敵でも今逃げた2人は非戦闘員。
そこまでする必要があるとは思えなかったからだ。
だがドロスはそんな部下達をギロッと睨む。
「何をしてる! 早く行け! ヤツを倒しあの女子供も始末するのだ!」
軍において上官の命令は絶対だ。
なので、部下達は心を押し殺し答える。
「はっ! ドロス様」
「ドロス様の仰せのままに!」
そして、ドロスの部下達は勇ましく声を上げるとサガをギロッと睨み、剣を大きく振りかぶり襲いかかった。
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