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第8章 反逆の狼煙

cys:177 シャイニング・スピリッツ

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「くっ……! このままじゃ無理ね」

 アネーシャは苦しそうに眉間にしわを寄せギリッと歯を食いしばると、サッと身を横に転がした。
 その瞬間アネーシャの横を、レイとジークの技とそれに押し返された桜神滅鬼がズザァァァッ!! と、横切り結界にドガァァァンっ!! と爆音を立ててぶつかった。

 それにより、メティアの作った結界がビリビリっ! と激しく揺れ、巻き起こった爆風がアネーシャの背中を襲う。

「ああぁっ!」
 
 悲鳴を上げて吹き飛んだアネーシャが剣を床に刺し、顔を苦しみにしかめながら起き上がろうとした時、アンリがアネーシャの頭上に紫色に光る魔法陣を創り出した。

「あれは……!」

 それをハッとした顔で見上げたアネーシャはゾクッとした。
 頭上で神秘的な色を放ちながらゆっくりと回転する魔法陣に、見覚えがあったからだ。
 それは、かつてノーティスと初めて対峙する事になったあの戦場で、アネーシャの率いる兵士達を圧し潰した禍々しい力を持つ技。

「くっ……!」

 アネーシャが声を漏らした時、アネーシャの下からも同じ魔法陣が現れた。

───間違いない。この技は……!

 思わず剣を横に向け防御の体勢を取ったアネーシャに、アンリの声が降り注ぐ。
 全身から、王宮魔導士としての絶大なオーラを立ち昇らせる姿と共に。

「アネーシャよ、これで大人しくしてもらおうかの。いくニャ! 『ハロー・デスグラビティ』!!」

 アンリが魔導の杖を振り下ろした瞬間、アネーシャの体に凄まじい重力がのしかかる。
 もし闘気を滾らせていなければ、一気に床に伏せていてもおかしくない。
 まるで、突然超高重量の物を乗せられたようだ。

「ぐっ……! こ、これは……」

 あまりの衝撃に膝をつきそうになるアネーシャだが、それを見ているアンリの方が驚いていた。
 アンリが今放っている技は生け捕る為に手加減しているとはいえ、50倍の重力だからだ。
 普通であれば立っているどころか、床から起き上がる事すら出来ない。

「ニャ、ニャンという奴じゃ! 仕方ない、もっと出力を上げるしか……」

 アンリがそう思いを巡らせた時、アネーシャは苦しみに顔をしかめ身体をブルブル震わせながらも、何とか片手を天に掲げた。

「せ、精霊と……いにしえの神々よ……私に宿り、その力を……示せ!」
「いかんっ! しまったニャ!」

 そう叫び出力を上げようとしたが、もう遅かった。

 アネーシャがその詠唱を終えるやいなや、銀色の闘気と桜色の闘気が絡み合うように立ち昇り、アネーシャの瞳が片方が紅く、もう片方が蒼く染まっていく。

 また、それと同時に古代文字で書かれた呪符が身体の周りに回転しながら浮き出てきた時、アネーシャの全身から途轍もない『白桜《はくおう》』のオーラがバァァァァァッ!! と立ち昇った。

「ぬぬぬっ、150倍ニャ!」

 けれど、その状態のアネーシャにはもう効かない。
 何事も無いかのように剣に闘気を込めると、頭上の魔法陣に向かい超神速の剣をザザザッ!! と放ち魔法陣をバシュン! と斬り刻んだ。
 それと同時に床の魔法陣も消え、額からツーっと冷や汗を流すアンリ。

「ニャンと……ここまでとはの」

 無論、そう思ったのはアンリだけではない。
 他の皆も同じだ。
 額から、ツーっと冷や汗を流し見つめている。
 全身から凄まじい闘気を滾らすアネーシャの姿を。

「チッ、マジでなんて奴だよ。見た事ねぇぜ、あんな闘気はよ」
「そうね。それに、ただ凄いだけじゃなくて、何か異質な力を感じるわ。何なのよアレは……!」
「あぁ。なぜ彼女からそれを感じるのか分からないが、あれは……『シャイニング・スピリット』!」

 ロウがそう断言した時、ジークとレイは驚愕に目を見開いた。

「シャ、シャイニング・スピリットだぁ?!」
「ロウ、ちょっと待って。それってもしかしてあの……!」
「ああ。そうだレイ」

 ロウは静かに頷くと、メティアの方にサッと流し目を向けた。

「間違いないよな、メティア」
「うん……前に見た時まさかとは思ったけど、アレは……古代の戦神が持ってた力だよ……!!」

 メティアが震えながらそう答えると、レイが大きく目を見開き身を乗り出した。

「ちょっと待ってメティア。その力って……」
「うん……あの力は、かつて五英傑が戦った、最強の悪魔アーロスの魔力に近い力!」
「ウソっ! なんであの女がそんな力を持ってんのよ」
「分からない……でも、間違いないよ。あの力は」
「そんな……」

 あまりの事に青ざめさせたレイ。
 無理もない。
 今、自分達が対峙している相手は、悪魔に近い相手なのだから……!

「チッ、やけに強ぇはずだぜ。そんな力を隠してたなんてよ」

 ジークは苛立ち混じりの戦慄に顔をしかめると、ロウの方へ苦しそうな眼差しを向けた。

「どーするよロウ。正直、部が悪ぃぜ」
「フム……そうだな」

 ロウは、慧眼な瞳を軽く伏せ顎に片手を添えて思いを巡らすと、呟くように答える。

「……アレしかあるまい」

 その時、ロウの瞳が淡く揺らめいた。
 悲壮な決意と共に。
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