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第8章 反逆の狼煙

cys:176 戦う理由

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「くっ……!」

 襲い掛かるロウのコズミック・メテオアローを、アネーシャは上空にバッと飛んで躱した。
 躱された光の矢は広間の床にドォォォォンッ!! とぶつかり爆音と爆風を上げる。
 メティアが張っている結界のお陰で建物自体に被害は無いが、凄まじい衝撃波が辺りを駆け巡った。
 それにより皆片腕を横にして顔を覆う。
 
 だがそんな中、アネーシャは元来の跳躍力に加え、その爆風に乗りより高く跳ね上がった。

「まずは貴方から叩く! 覚悟っ!」

 大きく剣を振り上げてロウに斬りかかるアネーシャ。
 しかし、ハッと気付き横を向くと、自分に向かい氷の魔力を滾らせているレイの姿が。

「させる訳ないでしょ! 『フリージング・スピアー』!!」

 レイの放った円錐形の巨大なスピアのような氷が、轟音を立ててズバッ! と、勢いよく襲い掛かる。

 だがアネーシャは、その氷の先端部分に剣を縦にしてガッ! と合わせた。
 それにより、レイのフリージング・スピアーが真ん中からバリバリバリッ! と音を立てて裂け、アネーシャの両隣にズドンッ! と音を立てて落ちた。

 それを見て目を丸くするレイ。

「嘘でしょ?! 先端部分に合せて裂くなんて! それに、あのやり方はまるで……!」

 他の皆も思った。
 まるでノーティスのようだと。

 以前、連れ戻しに向かった時、ノーティスは記憶が無い状態ではあったが、同じようにレイの技を叩き伏せたから。
 特に技を放ったレイはそれが脳裏に蘇り、一瞬動きを止めてしまった。

 その隙を見逃さず、着地したと同時に床を思いっきり蹴り上げ剣を斜めに構え、レイに飛び掛かるアネーシャ。

「今度は貴方の体を真っ二つにしてあげる! 喰らいなさい!」
「うっ……! しまった」

 一瞬の隙を突かれたレイにアネーシャの刃が襲い掛かり、レイの視界がアネーシャの殺意に満ちた姿に満たされた。
 思わず目をギュッと瞑るレイ。

 だがその直後、ガキィィィィンッ!! という金属音がレイの鼓膜を貫いた。

「えっ?」

 レイがハッと目を開けると、レイの視界を覆ったのはアネーシャの姿ではなく、オリハルコンの鎧を纏ったジークの逞しい背中だった。

「ジーク!」
「ぼさっとすんなよ、お姫様」

 ジークはそう言ってニヤッと笑みを浮かべたが、アネーシャの強烈な打ち込みを、戦斧ハルバードで力一杯受け止めている。
 アネーシャの力に腕をブルブル震わせ、歯を食いしばりながら。

───ケッ、なんてぇ力だよ。

 そんなジークをアネーシャはクールな瞳で見据えたまま、余裕の笑みを浮かべた。

「あら貴方、ガサツなのにやっぱり優しいのね」
「ハンッ……優しさなんてガラじゃねぇ。俺は、とはちげぇからよ」

 ジークの言うアイツとは、もちろんノーティスの事だ。
 それを分かっているアネーシャは、スッと表情を据えた。
 脳裏にノーティスとの穏やかで楽しかった日々の光景が蘇ったから。

「そうね……」

 アネーシャはそう零すとギリィィィィンッ! と剣を弾かせ後ろに飛び退いた。
 そんなアネーシャに向かい、ジークは両手でジャキッとハルバードを構えニヤッを笑う。

「けどよ、俺の大切な姫さんを守る事だけは負けちゃいねぇ。例え、お前さんがどんなに強くてもな」

 それを聞いたレイが両手で口を押さえ瞳を潤ませると、アネーシャはイラっと顔をしかめた。
 嫉妬だ。
 とはいっても、元来アネーシャはそういうタイプではない。
 人の幸せは素直に嬉しく思う人間だ。
 けれど、ここに来るまでにアネーシャはあまりにも幸せを奪われ過ぎていた。

───シド……ライト……ノーティス。私も本当は……

 剣を持つ手にググッと力を込めたアネーシャは、剣を片手で横にビュッと振り抜いた。
 ジーク達に向かい、ブワッとした風が当たる。

「うおっ……!」

 ジークが軽く声を上げた瞬間、アネーシャは剣を両手で前にサッと構え桜色の闘気をより強く立ち昇らせた。
 それを見たジークも、両手でハルバードをジャキッと構え紅いオーラを滾らせてゆく。
 そして、互いのそれが頂点に達した時、アネーシャもジークもそれぞれの武器を大きく振りかぶった。

「終わりにするわ。喰らいなさい! 『桜神滅鬼』!!」
「そうはさせるかよっ! 俺の姫には傷を付けさせねぇ! 『クリーシス・アックス』!!」

 アネーシャが振り下ろしたから剣から放たれた桜色の激しい闘気が床をズザザザッ!! と進み、それをジークのクリーシス・アックスの巨大なエネルギーが迎え撃つ。

「ハァァァァァッ!!」
「うらぁぁぁぁっ!!」

 ドガアンッ!! とぶつかり合うと中間で激しく燻り、互いの放っている技の光が顔を照らす。
 その状態で互いに力を振り絞りながら、技を通して相手を見据え合うアネーシャとジーク。

「やるじゃない……ジーク。お姫様への想いってヤツかしら」
「……へっ、そういうお前さんこそ中々じゃねぇか。こんなのは……アイツと戦った時以来だぜ!」

 ジークがそう零すと、アネーシャは少し意外そうな顔を浮かべた。

「あの人と……ノーティスと戦った事があるの?」
「まっ……むかーーーしな」

 ジークの脳裏に、ノーティスと初めて出会った時の事が浮かぶ。
 全力のノーティスと戦う為、ルミを攫ったあの日の事が。

「けどアイツはもう、そんな事も覚えちゃいないか。記憶がねぇんじゃな……」
「ジーク……」

 アネーシャが全力で技を放ちながらも、一瞬哀しそうな顔を浮かべた。
 ジークの切なさが伝わってきたからだ。
 それがアネーシャの元々の優しい心に突き刺さる。

 そんな中、ジークは一瞬ニヤッと笑った。

「ケッ、皮肉なもんだな」
「えっ、なにが?」
「今になって、いや、アイツが記憶失くしまってからあの時の答えがハッキリ分かるんてよ」
「答え……?」

 その言葉に軽く目を細めるアネーシャと、嬉しそうに口角を軽く上げたジーク。
 流れてくるエネルギー波が、互いの体を掠めてゆく。

「初めてアイツと戦った時言われたのさ……何の為に戦ってるのかってな」
「何のために……」
「あぁ……俺はよ、それまでひたすら強くなるのが目的だったけど……アイツにそう言われてから、それを考えて戦ってきたのさ」

 ジークはそこまで言うと、一瞬目を閉じた。

「フンッ……けど、アイツの戦いを見てる内に変わってきてよ。今では思うぜ。国の為にはもちろんだが、俺個人で戦う理由は……俺の腕が届く範囲の大切な人を守る為だってな」

 その話を黙って聞いているアネーシャに、ジークは尋ねる。
 まるで、あの日のノーティスのように。

「アネーシャ……お前さんは何の為に戦ってるんだい……アイツの為か?」

 そう問われたアネーシャは凛とした瞳でジークを見据えた。

「……ジーク、貴方達には決して分からないわ」
「フンッ、そうかい……」
「でも、でも本当は……!」

 アネーシャの凛とした瞳が揺らめく。
 切なき怒りと哀しみによって。

「アァァァァァッ!! 私は負けない! 例え貴方達がどんな想いを抱えていても!!」
「うぐっ……!」

 ジークのクリーシス・アックスがアネーシャの咆哮と共に押し返されてゆく。
 二つの合わさったエネルギーが、ジークのすぐ側まで迫って来た。

「こ、こいつはやべぇな……ちっくしょう」
 
 だがその瞬間、ドガアッ!! という音共に、アネーシャの桜神滅鬼が押し返されていく。

「なんで?! まさか……!」

 そう思った時、アネーシャの瞳に映った。
 レイがジークの側で力を振り絞り、両腕を大きく前に向け技を放っている姿が。
 放っているのはレイの必殺技である、ディケオ・フレアニクスだ。
 
「おっ、おいレイ」
「なによジーク、邪魔するなとでも言いたい訳?」

 レイは綺麗なウエーブがかかった長い髪を横にたなびかせ、ジークに美しい横顔を向けたまま答えた。
 その顔には、決して退かないという意思が宿っているのが分かる。

「悪いけど、私借りを作ったままなのって嫌なの。プライドが許さないわ」
「けど、今はよ……」
「……黙りなさい。姫を置いてやられるなんて……許さないから」

 クールにそう告げると、レイはそのまま少し顔を火照らせて呟くように告げる。

「……貴方しかいないんだから」
「あっ? なんだって? 声が小さくてきこえねーーよ」
「う、うるさいわねっ! なんでもないわよっ! 集中して! ……とにかく、死ぬのは許さないから」

 ジークはそんなレイの横顔をチラッと見ると再び前を向き、ありったけの力を込めた。
 レイの気持が染みるように伝わって伝わってきたから。

「しゃぁぁぁっ! 負けてたまっか!!」
「……まったく単純ね。でも、貴方らしくていいわ。いくわよ!」
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