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第8章 反逆の狼煙
cys:182 忍び寄る記憶
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「ねぇ、アネーシャ姉ちゃんはシド兄ちゃんと結婚するの?」
「えっ、ライト。な、なに言ってるのよ」
とある日の夕暮れの帰り道、三人手を繋ぎ連れ添って歩いてる中、アネーシャは夕日とは別の色に顔を染めた。
ライトから突然言われた事が、いつもアネーシャが願ってる事だったから。
そんな中マーヤが、アネーシャを挟んだ側から注意する顔をライトに向けた。
「ライト、そーゆーのいきなりきいたら、アネーシャお姉ちゃんだってビックリしちゃうでしょ」
「だ、だってさぁ……」
不満そうに口ごもるライト。
その顔に哀しみも混じっているのを見てピンときたマーヤは、ちょっと意地悪そうに笑みを浮かべた。
「あーーーライト、しっとしてるんでしょ。シドお兄ちゃんに」
「な、なんだよマーヤ!」
顔を真っ赤に火照らせ、マーヤに向かい口を尖らせたライト。
図星だったから。
マーヤと同様、アネーシャに孤児として引き取られてから今まで過ごす中で、ライトはアネーシャに淡い恋心を抱くようになっていた。
特に少年期というのもあり、それを見抜かれた事は凄く恥ずかしくてたまらない。
「う~~~」
恥ずかしそうに唸るライト。
アネーシャは、そんなライトを見下ろし微笑むと、スッとその場にしゃがみ優し眼差しで見つめた。
「ライト、私は確かにシドが好きよ。私の大切な人。でも、ライトの事も大好きだし、ずっと大切にしていくわ」
光で揺らめくアネーシャの瞳に見つめられたライトは、恥ずかしそうにプイっと横を向いた。
大好きなアネーシャから見つめられるのが、耐えられなくて。
「べ、別にそんなん分かってらっ!」
「フフッ、よかったわ。ありがとうライト」
アネーシャはそう言って微笑むと、マーヤの方へ振り向いた。
髪をフワッと揺らせながら。
「もちろんマーヤの事もそうよ」
「うんっ♪ わたしもアネーシャ大好きだよ」
「ありがとうマーヤ」
そう告げたアネーシャは、二人をギュッと抱きしめて瞳を閉じた。
今の話で、二人の事がより愛おしくなったから。
「ライト、マーヤ。貴方達の事を愛してる。ずっと一緒だからね」
その姿を優しく切ない夕日が照らす。
まるで、ずっとそこに留めておきたいかのように。
◆◆◆
それからまたしばらくの時が過ぎ、アネーシャは心穏やかな時を過ごしていた。
今日は、穏やかな陽光が射す街の中を、一人で買い物に出ている。
待ち行く人達の表情も穏やかだ。
そんな中を歩きながら静かに思う。
───最近、やっと静かに過ごせるようになったわ。
一瞬頭によぎったその想いに、瞬間的に違和感を感じたアネーシャ。
───あれっ? なんで私そんな事を。ずっと穏やかで幸せなハズなのに……
その想いを反芻していると、突然頭がズキンっと傷み、アネーシャは思わず片手で押さえ顔をしかめた。
そして、それと同時にアネーシャの脳裏に走る。
見知らぬ映像が。
『喰らいなさい! 『フリージング・スピアー』!!』
『唸れ! 『ギガント・アックス』!!』
『アネーシャ、お主は戦いなんぞよりアンリシスターズに入らぬか?』
───なんなのこれ?!
アネーシャはこれが何なのか分からない。
ただ、同時に襲われる。
思い出したくないけど、思い出さないといけないという矛盾した想いに。
「うっ……ううっ……!」
片手で額を押さえたまま苦しさと共に声を漏らしドシャッ! と、片膝をつくと、その姿を見たシドが血相を変えて駆け寄ってきた。
「どうしたアネーシャ!」
そしてサッとしゃがみ、心配な表情をいっぱいに浮かべた顔でアネーシャを覗き込んだ。
ただ、それと同時にアネーシャは頭の痛みと映像が消えたので、シドの方をスッと見上げた。
「シド……」
「大丈夫か?!」
「う、うん。なんか急に……」
知らない映像が見えたと言いかけたアネーシャだが、そこで言葉を止め咄嗟に変えた。
シドに余計な心配はかけたくなかったから。
「立ち眩みしちゃって。貧血かも」
「そっか……きっと、いつも頑張りすぎてるからだよ」
「ううん、そんな事無いわ。シドの方がよっぽど頑張ってるハズだし」
「いや、キミは自分の事だけじゃなく、ライトやマーヤの面倒もみてるし……そうだっ」
シドはパッと思いつき立ち上がると、嬉しそうな顔でアネーシャにサッと片手を差し伸べた。
背中から射し込む光が、後光のように煌めく。
「アネーシャ、この週末は俺が二人の面倒みるよ」
「えっ?」
不思議そうな顔をしてシドの手を取り立ち上がったアネーシャに、シドはニコッと微笑んだ。
「今日と明日は俺がライトとマーヤの面倒みるから、キミはゆっくり休んでくれ」
「そんな……大丈夫よシド。気持ちは嬉しいけど、貴方も忙しいでしょ」
すまなそうに軽く瞳を伏せたアネーシャ。
シドが宮廷音楽家として認められてから、日々より懸命に頑張っているのを知ってるから。
けれど、シドはそんな苦労はおくびにも出さない。
「平気だよ。キミを助けずにピアノなんて弾けないさ」
「シド……! ありがとう。でも、あの二人元気だし大変よ」
「う~~ん、あっ、じゃあキースにも手伝ってもらうさ」
「ええっ? 悪いわよ」
思わず目を丸くしたアネーシャに、シドはニコッと笑みを浮かべると、大丈夫だと言い切り手を上げて馬車を止めた。
そして、アネーシャにお金を渡す。
「はい、まずはこれで家まで帰ってくれ」
「いいわよシド、こんなの」
「いいから。本当は俺が送っていきたいけど、今からキースに話しに行くから」
「だけど……」
すまなそうに零すアネーシャに、シドは愛の溢れる立ち姿でアネーシャの手をギュッと握った。
「無事に帰ってゆっくりしてくれ。キミの事が大切なんだ」
シド手かから強さと優しさ、何より、アネーシャを大切に思う気持ちが溢れる程伝わってくる。
「……分かった。ありがとう、シド」
「こちらこそだよ、アネーシャ」
シドはそう言って馬車の進む方とは反対に歩き出すと、クルッと振り向きアネーシャに笑顔で手を振った。
それを受け、アネーシャは軽く顔を火照らせながら片手を軽く振った。
シドとは違い派手な手振りではないが、少し恥ずかしがりやな所のあるアネーシャにとってはこれが精一杯だったから。
けど、当然だが気持ちは凄く嬉しくて、胸がトクンと波打っている。
───ありがとうシド。貴方がいてくれて、本当に嬉しい。愛してるわ。
アネーシャはシドの背中を見つめながら心にその気持ちを染みわたらせると、馬車にスッと乗り込み家に向かった。
大切なライトとマーヤの待つ家に。
その帰路の中で、さっきの映像の件が一瞬頭をよぎったが、アネーシャは瞳を閉じて軽く頭を振った。
さっき、思い出したくなかったと、思った事を振り払うかのように。
───いいの、アレが何だったかなんて。私はシドとみんなと一緒にいれて幸せなんだから。
この上なく幸せなハズなのに、言いようのない不安が襲ってくる。
アネーシャは、それを敢えて気のせいだと思い込んでいたが、アネーシャの幸せは馬車の進む音と共に悲しみを迎えようとしていた……
「えっ、ライト。な、なに言ってるのよ」
とある日の夕暮れの帰り道、三人手を繋ぎ連れ添って歩いてる中、アネーシャは夕日とは別の色に顔を染めた。
ライトから突然言われた事が、いつもアネーシャが願ってる事だったから。
そんな中マーヤが、アネーシャを挟んだ側から注意する顔をライトに向けた。
「ライト、そーゆーのいきなりきいたら、アネーシャお姉ちゃんだってビックリしちゃうでしょ」
「だ、だってさぁ……」
不満そうに口ごもるライト。
その顔に哀しみも混じっているのを見てピンときたマーヤは、ちょっと意地悪そうに笑みを浮かべた。
「あーーーライト、しっとしてるんでしょ。シドお兄ちゃんに」
「な、なんだよマーヤ!」
顔を真っ赤に火照らせ、マーヤに向かい口を尖らせたライト。
図星だったから。
マーヤと同様、アネーシャに孤児として引き取られてから今まで過ごす中で、ライトはアネーシャに淡い恋心を抱くようになっていた。
特に少年期というのもあり、それを見抜かれた事は凄く恥ずかしくてたまらない。
「う~~~」
恥ずかしそうに唸るライト。
アネーシャは、そんなライトを見下ろし微笑むと、スッとその場にしゃがみ優し眼差しで見つめた。
「ライト、私は確かにシドが好きよ。私の大切な人。でも、ライトの事も大好きだし、ずっと大切にしていくわ」
光で揺らめくアネーシャの瞳に見つめられたライトは、恥ずかしそうにプイっと横を向いた。
大好きなアネーシャから見つめられるのが、耐えられなくて。
「べ、別にそんなん分かってらっ!」
「フフッ、よかったわ。ありがとうライト」
アネーシャはそう言って微笑むと、マーヤの方へ振り向いた。
髪をフワッと揺らせながら。
「もちろんマーヤの事もそうよ」
「うんっ♪ わたしもアネーシャ大好きだよ」
「ありがとうマーヤ」
そう告げたアネーシャは、二人をギュッと抱きしめて瞳を閉じた。
今の話で、二人の事がより愛おしくなったから。
「ライト、マーヤ。貴方達の事を愛してる。ずっと一緒だからね」
その姿を優しく切ない夕日が照らす。
まるで、ずっとそこに留めておきたいかのように。
◆◆◆
それからまたしばらくの時が過ぎ、アネーシャは心穏やかな時を過ごしていた。
今日は、穏やかな陽光が射す街の中を、一人で買い物に出ている。
待ち行く人達の表情も穏やかだ。
そんな中を歩きながら静かに思う。
───最近、やっと静かに過ごせるようになったわ。
一瞬頭によぎったその想いに、瞬間的に違和感を感じたアネーシャ。
───あれっ? なんで私そんな事を。ずっと穏やかで幸せなハズなのに……
その想いを反芻していると、突然頭がズキンっと傷み、アネーシャは思わず片手で押さえ顔をしかめた。
そして、それと同時にアネーシャの脳裏に走る。
見知らぬ映像が。
『喰らいなさい! 『フリージング・スピアー』!!』
『唸れ! 『ギガント・アックス』!!』
『アネーシャ、お主は戦いなんぞよりアンリシスターズに入らぬか?』
───なんなのこれ?!
アネーシャはこれが何なのか分からない。
ただ、同時に襲われる。
思い出したくないけど、思い出さないといけないという矛盾した想いに。
「うっ……ううっ……!」
片手で額を押さえたまま苦しさと共に声を漏らしドシャッ! と、片膝をつくと、その姿を見たシドが血相を変えて駆け寄ってきた。
「どうしたアネーシャ!」
そしてサッとしゃがみ、心配な表情をいっぱいに浮かべた顔でアネーシャを覗き込んだ。
ただ、それと同時にアネーシャは頭の痛みと映像が消えたので、シドの方をスッと見上げた。
「シド……」
「大丈夫か?!」
「う、うん。なんか急に……」
知らない映像が見えたと言いかけたアネーシャだが、そこで言葉を止め咄嗟に変えた。
シドに余計な心配はかけたくなかったから。
「立ち眩みしちゃって。貧血かも」
「そっか……きっと、いつも頑張りすぎてるからだよ」
「ううん、そんな事無いわ。シドの方がよっぽど頑張ってるハズだし」
「いや、キミは自分の事だけじゃなく、ライトやマーヤの面倒もみてるし……そうだっ」
シドはパッと思いつき立ち上がると、嬉しそうな顔でアネーシャにサッと片手を差し伸べた。
背中から射し込む光が、後光のように煌めく。
「アネーシャ、この週末は俺が二人の面倒みるよ」
「えっ?」
不思議そうな顔をしてシドの手を取り立ち上がったアネーシャに、シドはニコッと微笑んだ。
「今日と明日は俺がライトとマーヤの面倒みるから、キミはゆっくり休んでくれ」
「そんな……大丈夫よシド。気持ちは嬉しいけど、貴方も忙しいでしょ」
すまなそうに軽く瞳を伏せたアネーシャ。
シドが宮廷音楽家として認められてから、日々より懸命に頑張っているのを知ってるから。
けれど、シドはそんな苦労はおくびにも出さない。
「平気だよ。キミを助けずにピアノなんて弾けないさ」
「シド……! ありがとう。でも、あの二人元気だし大変よ」
「う~~ん、あっ、じゃあキースにも手伝ってもらうさ」
「ええっ? 悪いわよ」
思わず目を丸くしたアネーシャに、シドはニコッと笑みを浮かべると、大丈夫だと言い切り手を上げて馬車を止めた。
そして、アネーシャにお金を渡す。
「はい、まずはこれで家まで帰ってくれ」
「いいわよシド、こんなの」
「いいから。本当は俺が送っていきたいけど、今からキースに話しに行くから」
「だけど……」
すまなそうに零すアネーシャに、シドは愛の溢れる立ち姿でアネーシャの手をギュッと握った。
「無事に帰ってゆっくりしてくれ。キミの事が大切なんだ」
シド手かから強さと優しさ、何より、アネーシャを大切に思う気持ちが溢れる程伝わってくる。
「……分かった。ありがとう、シド」
「こちらこそだよ、アネーシャ」
シドはそう言って馬車の進む方とは反対に歩き出すと、クルッと振り向きアネーシャに笑顔で手を振った。
それを受け、アネーシャは軽く顔を火照らせながら片手を軽く振った。
シドとは違い派手な手振りではないが、少し恥ずかしがりやな所のあるアネーシャにとってはこれが精一杯だったから。
けど、当然だが気持ちは凄く嬉しくて、胸がトクンと波打っている。
───ありがとうシド。貴方がいてくれて、本当に嬉しい。愛してるわ。
アネーシャはシドの背中を見つめながら心にその気持ちを染みわたらせると、馬車にスッと乗り込み家に向かった。
大切なライトとマーヤの待つ家に。
その帰路の中で、さっきの映像の件が一瞬頭をよぎったが、アネーシャは瞳を閉じて軽く頭を振った。
さっき、思い出したくなかったと、思った事を振り払うかのように。
───いいの、アレが何だったかなんて。私はシドとみんなと一緒にいれて幸せなんだから。
この上なく幸せなハズなのに、言いようのない不安が襲ってくる。
アネーシャは、それを敢えて気のせいだと思い込んでいたが、アネーシャの幸せは馬車の進む音と共に悲しみを迎えようとしていた……
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