上 下
187 / 212
第8章 反逆の狼煙

cys:186 怒りの問いかけ

しおりを挟む
「なっ……!」

 あまりの衝撃に、メティアは一瞬固まってしまった。
 この国の勇者であり、今まで自分達と共に誰よりも前線で命を賭けて戦ってきたノーティスから、ハッキリと言われてしまったから。
 これまでの全てを否定するような言葉を。

「ノ、ノーティス……何を言ってるの?!!」

 メティアが震えながら身を乗り出した瞬間、レイが怒りと共にカツンッ! と、ヒールを鳴らし前に出た。
 その美しい瞳に燃え盛る怒りの炎を宿して。

「そうよ、メティアの言う通りだわ! ノーティス、貴方一体何を言ってるのよ!!」
「レイ……」

 哀しそうな光を瞳に宿したノーティスを、レイはキツく睨みつけている。
 ノーティスに記憶が無い時よりも、遥かに強い怒りで。

「貴方、何を言ってるのか分かってるの! 貴方はスマート・ミレニアムの勇者なのよ!!」

 レイの怒声が辺りに響き渡り、ノーティスの心に衝撃波のようにぶつかってくる。
 そんな中、次にズイッと前に出たのはジークだ。
 ジークは目を閉じ片手で軽く頭をクシャッと搔くと、ノーティスをギロッと見据えた。

「ノーティスよ、レイの言う通りだ。お前さん、一体どーしちまったんだい? 慣れねぇ冗談は笑えねぇぞ」
「ジーク、冗談じゃなくて本気さ」

 真摯な眼差しで答えてきたノーティスに向かい、ジークはイラッと顔をしかめた。

「ケッ、だったら尚の事分かんねーな。自分を好いてくれてる女を泣かしたり怒らしたりすんのが、お前さんの流儀だったのかよ」

 皮肉めいた言葉を叩きつけ、苛立ちの混じった顔でニヤリと笑みを浮かべたジーク。
 それを、レイもメティアも見つめている。
 ジークからノーティスを責めると同時に、二人の気持ちを少しでもケアしたい想いが伝わってくるから。

 その想いが二人の心に届いた時、今度はロウが慧眼な瞳に静かな怒りを宿し問いかけてきた。

「ノーティス、キミが本気で言ってるのは分かった」
「ロウ……」
「その上で敢えて問う」

 ロウはそう告げ数旬の間ノーティスを見つめると、そのまま静かに口を開く。

「誰を、倒すつもりだ」

 その時ノーティスは一瞬目をハッと大きく開き、ロウを強く見据えた。

「ロウ、知ってるのか……!」
「質問しているのは私だ。答えろノーティス。誰を、倒す」

 二人の間にズシッと重たく緊張した空気が流れ、それがその場にいる全ての者達にも伝播していく。
 ノーティスが何をどう答えるかによって、この後決して戻る事の出来ない、大きな溝が出来てしまう事を分かっているから。

 その重く張り詰めた空気の中、ロウと全く同じ事を考えノーティスを見つめているのはアンリだ。

───ノーティス、お主遂に気づいたのか……!

 アンリはロウと共に教皇クルフォスが闇の力を持つ事と、彼がそれを使い陰謀を企んでいる事まで見抜いていた。
 そして、それを決して行わせてはいけないと決意も。

 ただ、確証が無いまま動いては、反逆者の烙印を押され処刑されてしまう事は確実。
 また、その事により自分だけでなく、仲間達にも処罰が下る可能性も充分にあり、敢えて言っていなかったのだ。

───じゃがノーティス、そう言うからには掴んだのだな。クルフォスの闇を……!

 だが、ノーティスの答えはそれを遥かに凌駕する物だった。
 拳をギュッと握りしめ、ノーティスは意を決してロウに告げる。

「ロウ、倒すべきは『五大悪魔王』だ……!!」
「なんだと?!」
「ニャニャ?! 五大悪魔王??」

 ロウとアンリはあまりの衝撃に目を大きく目を見開き、ノーティスを訝しむ顔で見据えた。
 また同時に、他の皆もノーティスが今何を言ったのか分からず顔をしかめ見据えている。
 言葉が聞こえなかった訳ではない。
 『五大悪魔王』というのが、一体何の事なのか分からないのだ。

「ノーティス、貴方何を言ってるの?! 五大悪魔王なんて聞いた事無いわ」
「ボクもだよ、ノーティス!」

 レイとメティアが困惑した顔を浮かべる中、ジークは半ば呆れた顔で溜息を零した。

「ったく、何を言い出すかと思えば五大悪魔王だと? お前さん、マジでどーしちまったんだよ。そんなもん、聞いた事ねーわ」

 皮肉めいた顔をして軽く口角を上げ、ヤレヤレのポーズで首をかしげるジーク。

「どーせ、記憶失くしてる間に、そこの嬢ちゃんから変な事吹き込まれたんだろ」
「違うんだジーク」
「いーや、人のいいお前さんの事だ。騙されてんだよ」
「違う、聞いてくれジーク!」
「ケッ、んなもん聞いて……」

 ジークがイラッとした顔で身を乗り出そうとすると、ロウがノーティスを見据えながらジークの前にスッと斜めに片手を出し、ザッと前に出た。

「聞いてやる。五大悪魔王とは何だ。僕もそんな存在は聞いた事が無い」
「ロウ、ありがとう。でも、五大悪魔王は俺達が最も良く知ってる奴らの事だ」
「僕達が? いや、知らないな」
「知っているんだよ、ロウ。この国に住む人間なら誰でも」

 敢えて意味深な言い方をしているノーティス。
 別に勿体ぶってる訳ではない。
 告げたいけど、やはり同時に告げたくないのだ。
 どうなるか分かっているから。

 それにより顔が哀しさに染まってゆくノーティスの顔を、ロウは鋭く見据えたまま答える。

「誰でも? 僕達の事か?」
「いや、違う」
「そうか。だったら……教皇の事か?」

 ロウがその問いかけをした時、アンリは思わず固唾を飲んだ。
 遂にノーティスから告げられると思ったから。
 教皇クルフォスの闇を。

 しかし、ノーティスはその予想を覆す。

「違う」
「何だと?!」
───ニャニャ! 違うのか?! だとしたら……

 ロウもアンリも自分の考えが違っていた事に目を丸く見開いた。
 だが、ノーティスはすぐに続ける。

「もっと上さ」
「上だと? バカな。教皇より上など……もしいるとすれば、それは……まさかっ!」

 ロウは脳裏に閃いた答に目を見開いたまま、一瞬固まってしまった。
 アンリも同じだ。
 まるで、雷に打たれたような衝撃が心に走ったから。

 そして、その顔を見て二人が悟った事を知り、ノーティスは精悍な瞳で見つめたまま片手をバッと横に大きく振った。

「そう。五大悪魔王は……スマート・ミレニアムを造ったと言われてる五人の英雄。いや……その皮を被り歴史を捻じ曲げてきた悪魔。五英傑の事なんだ!!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

落ちこぼれ[☆1]魔法使いは、今日も無意識にチートを使う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,152pt お気に入り:25,352

俺が、恋人だから

BL / 完結 24h.ポイント:1,430pt お気に入り:25

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,831pt お気に入り:901

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,371pt お気に入り:35

幸子ばあさんの異世界ご飯

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:135

【R18】高飛車王女様はガチムチ聖騎士に娶られたい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:804pt お気に入り:252

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:461pt お気に入り:50

尽くすことに疲れた結果

BL / 完結 24h.ポイント:965pt お気に入り:3,013

処理中です...