龍は刹那と永久を抱く

こうはらみしろ

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家へと向かう足取りは速い。
リューイはただ黙々と歩いていた。

母の墓は山奥にある。
だから日が傾きはじめた今、急がなくてはこのまま森で野宿となってしまう。

それは避けたかった。
この森は人の手が入っていないから、夜になると凶暴な獣がでるのだ。

リューイは焦りさらに足を速める。
しかしその瞬間、それは起こった。

「っ……わぁぁぁああああっ!!」

焦りのせいで道から足を踏み外し、リューイは断崖絶壁のなかへと落ちていく。
落ちるときの浮遊感に本能的に目を閉じるが、リューイは確信していた。

自分は死なないだろう、と──

落ちたあと、確信は現実になった。
かすり傷はあるものの、その体は落ちる前とほとんど変わらない。

「っ、いったぁー……なんなんだよ、もう。足踏み外すなんて最悪」

そうため息をつきながら、自らが落ちた崖を見あげた。

岩肌にはところどころから木が生えていて、刺さりでもしたらひとたまりもない。
そして高さも尋常ではなかった。

「あ~ぁ、あんなたっかいところから落ちてきたんだ……俺じゃなきゃ即死だな」

なぜリューイは、あんな断崖絶壁から落ちたのに無事なのか。
それには理由があった。

「この崖の状況だと全体的に木が庇ったか。風も感じたな…‥傷口も水がきれいにしてる、か。自然に守られるのも大変だな」

リューイが助かったのは、自然に守られていたからだった。
しかし自然に守られて助かったにもかかわらず、リューイはうつむいて肩を落としている。

「いっそ、死ねればいいのに……」

それは寂しさや悲しさ、落胆や絶望…それらの複雑な感情がにじんだ声だった。

「こんな力なんていらないっ! 自分でなにかできるわけでもないし、気味悪がられて……嫌われるだけじゃないかっ!!」

今までいろいろなことがあったのだろう。
そのいろいろなことを、我慢してきたのだ。

いっそ、死ねればいいと思うくらいに――

今、それが溢れだしていた。

しかし、リューイは前を向いた。
自らの頬を両手で叩いて気合いを入れる。

「っ、弱音を吐くのはここまでだ! こんなんじゃ、死んだ母さんが心配する……笑顔、えがおっ!」

そう言うと元気を取りもどしたのか、リューイは状況を把握するようにキョロキョロとまわりを見わたす。

「あー……日が暮れてきたし、どうしようι」

リューイは暗くなってきたまわりに焦り、道か夜を凌げる場所を探しはじめた。

すると──

「あっ! あんなところに……神、殿? ちょっと行ってみるか」

ホッと息をつきながら近づくと、その神殿はとても古いものだというのがわかった。
神殿には人の気配はもちろんなく、壁にはヒビが入っていたり崩れているところもあったりとボロボロで、いたるところに蔦が絡まっている。

リューイはそんな見た目に臆することなく、見つけた壁の割れ目から中へと入りこんだ。

「よっ、と……なんだ、もう使われてないのか。それにしてもすごいなぁ、草とか生え放題──って、人?!」

神殿の中に入り、あたりを見わたしていたリューイの目に人らしきものが映りこんだ。
恐る恐る近づくと、それはたしかに人であることがわかった。

その体は壁に貼りつけられており、長いときが経っているのか腕や足に蔦が絡みついている。

「な、に……? なに、これ…‥壁に、死体? でも……そのわりには、きれい──」 
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