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4.どうにもならない光 ※微
しおりを挟む窓の外の光は線になって流れてゆく。
おかげで星は見えないけど。
神様が作ったどうしようもできない星じゃなくて、どうにかできそうなこの光が、
夏澄は好きだった。
と、逃避してみても目の前の現実は逃げてはくれない。タクシーの後部座席。隣に座る、蓮介。
時折小さな呻き声をあげて、苦しそうに美しい顔を歪めながら、夏澄が見ているのとは反対の窓に寄りかかって眠っていた。
酔っ払い野郎が。
夏澄は横目でちらりと確認すると、また窓の外に視線を移した。
「すいません、やっぱり◯◯ホテルにお願いします」
「あ、はい。わかりました」
車がゆっくり方向を変える。
遠藤とのキスを見せつけた夏澄の目の前で蓮介は胃袋の中身をすべて吐き、倒れた。
その存在に気づいてなかった遠藤も振り返り、慌てたように蓮介に駆け寄って、甘い空気は弾けた泡のようにひとつも無くなった。
ただの酔っ払いに成り果てたトップモデル。
店の人も集まり、水を飲ませ、背中をさすり、皆蓮介を介抱した。
呼ばれたタクシーに何人かがかりでなんとかその大きな身体を乗せたが、誰も蓮介がどこに住んでるのか分からなかった。こんな時に限ってマネージャーも電話に出なかった。
お偉いさんに肩を叩かれる。
「ね、カスミちゃん、頼むよ」
そこにさっきまで脚をさすっていたセクハラジジイの目はなくて。あるのは偉い人が面倒事を下の者になすりつけるときの、目。
結局、自分はなんの力もない使い勝手のいい人間に過ぎないとこういう時に痛感する。
「...わかりました」
蓮介の体を奥に押し込んで、隣に乗り込む。
発車した車をニコニコ顔で見送られた。
告げることが出来る行き先はひとつしかなくて。自宅の住所を言った。
だけど結局はどうしたって自分の家に人間を入れることに抵抗があって、土壇場で行き先を変えたのだ。
普段の夏澄なら、男と近場の安いラブホテルにでもしけこんで、一夜を明かすところだった。それを週刊誌に撮られたりネットに載せられたりしたとしても話題になるならそれでよかったし、そのことで今の夏澄のイメージを著しく欠くことはないだろう。むしろ、ファンの中にはイメージにぴったりだと喜ぶ人もいるかもしれない。
だけど、隣の男は違う。
獅子堂蓮介にとってそれは傷になるだろう。男との熱愛報道。売り出し中の商品としての傷、本人の傷。状況から鑑みて事務所はそれを局の責任にしてくるだろうし、あのお偉いさんはきっと、カスミに責任を負わせるだろう。デカい事務所の圧力できっと、カスミは消される。今までの積み重ねなんて、全部、無かったことにされる。
芸能界なんて、そんなもんだ。
面倒くせぇ。
夏澄は隣の足を力一杯踏んづけてやるが、潰れている男の反応は薄い。
よって、行き先として選んだのは芸能人もよく使う高級ホテルだった。セキュリティもしっかりしてるし、そこに蓮介だけを押し込めて帰れば、一件落着だ。
遠藤に連絡して部屋をひとつ押さえてもらう。テレビ局もよく使うホテルのため、遠藤の力で簡単に部屋を確保できた。
車は地下駐車場に入っていく。著名人用の裏ルートだ。
念のため夏澄は持っていたキャップを目深に被り、蓮介の胸ポケットに入っていたサングラスを蓮介自身にもかけた。
「お待ちしておりました蒼井様」
ホテルスタッフに迎えられる。
「すいません、急な予約で」
「いえ、ご利用ありがとうございます」
「ちょっと連れが酔っ払っちゃってて、部屋まで運ぶの手伝っていただけますか?」
「もちろんです」
2人がかりでデカい男を運ぶ。
163センチの夏澄の身体にのる体重はあまりにも重く、
あとで殴る殴る殴る殴る殴る...
夏澄は心の中で呪いのように唱えながら抱えて歩いた。
スタッフにニコリと笑ってお礼を言い、ルームキーを受け取り、部屋に入る。
急ごしらえで用意した部屋とは思えないほど、広い部屋だった。
さすが遠藤ちゃん。
キングサイズのベッドに蓮介の身体を放り投げ、息を吐いた。
冷蔵庫を開け、冷えたペットボトルを取り出す。喉に流し込めば、食道を通る冷たい液体が心地よかった。
「...みず」
意識ここにあらずでベッドの上からねだってくる男に近づき、ベッドに片膝を乗り上げる。
半開きの口にペットボトルの口を押し付け、流し込んでみたが、その水のほとんどは厚い唇を伝って枕に沁みた。
「エッチいねえ」
液体の流れを見て、夏澄はにやりとつぶやいてみる。
「んん...」
うなり、再び眉をひそめる蓮介。
蓮介の胸ポケットを探り見つけた箱からタバコ一本とジッポライターを拝借した。
これぐらいもらったっていいだろう。むしろお釣りが来るぐらいだ。
夏澄は酔っ払いに背を向けて、ベッドサイドに腰をかける。
ジッポを鳴らして火をつける。
甘く苦い煙を吸い込み、ゆっくりと高い天井に吐き出す。
紫煙はのぼり、やがて溶けゆく。
行き場のない怒りに似たこの気持ちを、塗りつぶしてはくれない。
キャップを脱ぎ捨て、長い髪をかきあげた。
もう一度、苦味を吸って、吐く。
タバコを咥えて燻らせたまま、夏澄は再びベッドに乗り上げた。
蓮介のジャケットを脱がせ、床に放る。
白いシャツのボタンを上から外していく。
その手つきに惑わせるような雰囲気は一欠片もなくて。ただの作業にすぎなかった。
胸板がのぞくまでボタンを開くと、熱を持たないその手つきのまま蓮介のジーンズのジッパーを下ろす。
下着の上から、蓮介の自身を擦る。
僅かに呻き声は聞こえるが、酔っ払いの意識はもうどこかに飛んだっきり、戻ってくるそぶりはない。
「酔っ払いだし、こんな刺激じゃ足りないか」
下着からモノを取り出して、直に擦ってやる。敏感な頭を優しく擦り、根元を上下する。
「平常時でデカ過ぎません?」
誰にも届かない疑問をおどけた調子で投げ続ける夏澄。
やわらかくふにゃふにゃだったそれが徐々に芯を持ち、首をもたげてくる。
「酒飲んでもちゃんと勃つのね。えらいえらい。元気元気」
くくくと笑ってやる。
裏側を擦り続けると、先走りが先端からこぽこぽと溢れ、夏澄の細く白い指を濡らし始めた。赤く露出した頭、血管の浮き出て、膨張したモノをいい子いい子とあやすように可愛がってやった。
心には余裕がある夏澄だが、身体の奥が疼いてしまうのを感じる。
このデカくて太いので突かれたら気持ちいんだろうなあー
だけど、何の見返りもなくタダで抱かれるほど自分は落ちぶれていないのだと、笑ってタバコを吸い込む。
無駄な欲を誤魔化すように、手の動きを速め、目の前の男を頂に導いてやるのだ。
「あっ...ううっ...」
「酔っ払いでもちゃんと気持ちいいんですね」
意識はないなりに、薄っすらと目を開け始めた蓮介の両の目を自身の手で覆って隠す。
「目を開くのは明日の朝のお楽しみってことで」
ふふふ。笑いが堪えきれない。
「ああっ...!!!」
一際大きな呻き声を出して、白濁を放出した蓮介は、そのまま本当に意識を手放した。
寝息が聞こえる。
夏澄は右手で、咥えていたタバコをつかみ、ベッドサイドの灰皿にその燃える光を潰した。そのまま、右手だけで自分のサルエルパンツを下着ごと下ろし、床に放る。空気の触れた尻に、左手の汚れを塗りつけた。
そしてそのまま、蓮介の隣に横たわる。
ピッタリと隙間なくくっついて。
夏澄の顔から笑みが消えることはなかった。
部屋の明かりを消す。
暗闇の中。
くくく。
サンダルウッドの香りがした。
酔っ払いの熱が鬱陶しかった。
それでも、久しぶりに、朝が来るのが楽しみだった。
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