料理人の幼馴染の身体はいつも熱いのに、ハンバーグは冷たいままだ。

永井歌多

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1.連絡なんかしてくんな

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 『今家?』
 スマホの画面が光ったのは23時を回る頃だった。
 たった二文字の言葉。なんの感情も入っていないであろうたった二文字の言葉によってどれだけの感情が溢れ出るか、心が掻き乱されるか、あいつは知らない。
 毎週金曜日。会うのはもう決まっていることなのに、大学生の虎之助が金曜のこの時間に家にいるのは決まっていることなのに、毎週律儀に確認のメッセージを送ってくる。
 メッセージが届くたびにそれが決定事項ではないと言われてる気がして、虎之助はこの連絡が嫌いだった。
 『うん。』
 たった二文字の言葉。ここにどれだけの想いが込められているか、あいつは知らない。
 観ていた映画はクライマックスで、だけど、もうどうでもよかった。他のすべてがどうでもよくなって一心に待つ。飼い主の帰りを待ち焦がれる犬のように。
 立ち上がって冷蔵庫を開く。冷気が頬にあたって少しだけ火照りが治まった気がした。そこにあるのはラップのかけられた1人前のハンバーグ。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
 部屋をなんとなくぐるりと確認して、テレビを消した。静寂が訪れる。
 「呑んでたのかよ?」
 ドアを開ければ少しばかり頬を赤くしたトオルがいた。188センチの身長。いつ見上げてもデカい。短く整えられた黒髪が、トオルの律儀な性格を表していた。
 「まぁな」
 そう言いながら靴を脱いで部屋に上がってくる。
 「あ、お邪魔します」
 挨拶は決して忘れない。礼儀がいいというだけではない。一定の距離を置くためのセリフ。
 「誰と呑んでたの?」
 「お前は知らない子」
 「男?」
 「ちがう」
 「っん…」
 玄関を一歩入ったところでまだ鞄も持った状態のトオルが唇をあわせてくる。トオルはいつも会話を面倒くさがった。
 虎之助の腰を引き寄せ、熱を持ち始める唇を割って、トオルの舌が入ってこようとする。それを虎之助は拒んだ。溺れる寸前で必死に藻掻いて踏みとどまる。
 「っ…まてって!」
 「なんだよ」
 トオルは少し眉間に皺を寄せて不機嫌になる。
 「腹、減ってない…?」
 「減ってない」
 「んっ…ちょ…」
 もう止める術はなかった。あとはもう、お互いに求めあって、獣のように熱に溺れるだけ。
 キスもそこそこにトオルは服を脱がせはじめる。いつもそう。最短距離で行為を始め、最速で終わらせる。そこには会話も、想いも、なにひとつとしてない。あるのは欲求だけ。
 それなのに、いつもたった一言だけ、服を脱がせる前に一度だけ手を止めて虎之助に聞く。
 「抱いてもい?」
 律儀に毎度。これは決定事項ではない。毎回の同意のもとで成り立つひどく危ういものだと印象づけるかのように。トオルは聞く。
 「うん」
 虎之助は答える。虎之助が発するのを許させるたったひとつの言葉。
 無造作に伸ばした金色の前髪が、伏せた顔にかかる。

 あとに残るのはむなしい快楽だけ。
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