5 / 15
5.いざ、尋常に
しおりを挟む
「いい加減機嫌を直して、ヘルちゃん」
困ったように眉を下げるシェルムトートとは反して、ヘルトルはすっかりその細い眉をつり上げてしまっている。危険地帯だと分かっているためか、不用意に前に進むことはしないものの、明らかに重くなってしまった場の空気に、シェルムトートは肩を落とした。
「君が口づけすることに対しても、できないことに対しても悲嘆しているようだったから、私が無理やりやってしまった方がすんなりいくんじゃないかと思っただけなんだ」
事実、シェルムトートの言っていることは正しかった。あのままではヘルトルは一生かけても扉を開けることができなかっただろうし、そのまま家に戻りでもしたら、情けなさのあまりしばらく引き籠っていたかもしれない。
そのため、この怒りは早く収めるべき、なのだが。
「何故素肌にしたんですか?」
「えっ」
不機嫌さを露わにしたヘルトルからの問いかけに、シェルムトートは間の抜けた声を漏らした。
「手の甲の方は分かります。俺は手袋を身に着けていないので。ですが、足の方は違いますよね?」
そう。ヘルトルは靴だけでなく、靴下もちゃんと身に着けていたのだ。たとえ、足に口づけされなくてはいけない状況に追い込まれたとしても、布一枚によって隔てられているというのは、多大な安心感をもたらしてくれる。
だというのに。
ヘルトルは厳しい視線をシェルムトートに向ける。
この男は、そんなヘルトルの希望をわざわざ取っ払って、事に及んだのだ!
視線を受けたシェルムトートは、普段の胡散臭い笑みはなりを潜め、気まずそうに顔色を青くしている。いつもは余裕綽々としている男が、このように慌てた様子を見せていることは、少しだけヘルトルの溜飲を下げた。
じっ、と無言の圧力でシェルムトートに話を促すと、シェルムトートは額に汗を滲ませながらも、もごもごと頼りない口調で言葉を紡いでいく。
「そ、の……」
「その?」
「…………絵に描かれた王が、靴下を履いていたかいまいち分からなくて」
……何故だろう。待ったわりには、当たり障りのない答えが返ってきたような。
ヘルトルは記憶の中で先程の絵を思い返す。確かに絵には色がなく、王は靴を脱いではいたが、靴下を履いているかどうかは判断がつかなかった。どこまで絵に忠実に従えばいいか分からなかったシェルムトートは、なるべくシチュエーションを近づけたかったことだろう。
ヘルトルはもう一度、シェルムトートを見る。相変わらず、情けない表情はしていたものの、汗は引き、顔はしっかり上がっていた。ヘルトルは直感的に思った。
この男は、嘘をついている。
この期に及んで自身を欺こうとする男に、ヘルトルの胸中にはさらなる苛立ちが募った。しかし、あくまで直感的なものであり、証拠は何一つ存在しないため、詰め寄ることもできない。
同時に、咄嗟にそれらしい理由を作り上げたシェルムトートに、感服したのも事実であった。瞬時に動揺を抑え込むことのできる精神力も見事であり、ヘルトルは表には出さないものの、密かに畏敬の念を抱いていた。
一向に本心を明かさず、涼しい顔をしているシェルムトートに、ヘルトルは嘆息し、ついには意地になるのも馬鹿らしい、と折れた。
「そういうことにしといてあげます」
呆れた、といった様子を隠しもせずにそう言うヘルトルに、シェルムトートは「本当なんだけどな」と苦笑した。
休まずに歩き続けて、少し疲れたな、とヘルトルが感じ始めたとき、シェルムトートが足を止めた。
前に道はなく、代わりに立ち塞がるのは洞窟の土壁だ。行き止まりということは、どこかで道を間違えたのだろう。
不思議なことに、ここまでいくつかの分かれ道があったが、シェルムトートの選ぶ道は先に続くものばかりで、こうした行き止まりに行きつくことはなかった。もしかすると、最初から正しい道を知っていたのではないかと疑っていたが、ただ単に運が良かっただけなのかもしれない。
引き返そうと、身体の向きを変えようとしたヘルトルは「待ってくれ」というシェルムトートの言葉に引き留められた。
「どうしたんですか?」
「少し、気になることがある」
疑問に思うのもつかの間。シェルムトートは右腕を後ろに引くと、――壁に向かって、掌底を放った。
湧き起こる衝撃波を肌で感じながら、ヘルトルは目の前で崩れ落ちた土壁――正確にはその先にある光景を見て、唖然とした。
「隠し通路……」
隣のシェルムトートを横目で窺うと、いたく満足げな顔をしている。
どうやら、不正解の道ではなかったらしい。どのような方法でそれを知ったのかは、謎だが。
それを追求するのは後だ、とヘルトルは通路の先を見据え、腰に下げていた剣を抜いた。
ごくごく小さな音ではあるが、奥からは何かが跳ねるような音が、ひっきりなしに響いている。音は一刻一刻と過ぎる度に、少しずつ大きくなっており、もう少し経てば、音の主が間違いなく二人の前に姿を現すだろう。
そして、ここがダンジョンである以上、その正体はある程度、予測がついた。
曲がり角から飛び出し、真っ直ぐにこちらに向かってくる、ヘルトルの膝よりも背の低い人型の魔族。その肌の色は緑色で、耳は鋭く尖っており、歪んだ表情は見る者をぞっとさせる。
ゴブリンだ。それも、好戦的なのが三体。
上級魔族たちが作り出したダンジョンは、罠だけではなく、こうした低級魔族や魔物が放たれていることが多い。ダンジョンを守るためであったり、攻略しに来る人々を弄ぶためだったりと目的は様々だ。
このような古いダンジョンに一番初めに放たれた低級魔族たちは短ければ十数年、長ければ百年ほどの生命の限界をとっくに迎えている。ということは、今現れた三体は、繁殖によって増えた、ダンジョン育ちの魔族ということになる。
ダンジョン育ちの魔族は、閉ざされた空間で目新しいことがほぼほぼない日々を送るためか、魔界育ちの低級魔族よりも知能が低い。それでいて、生きるために他の低級魔族、もしくは同族を食らわなくてはならないので、凶暴で残忍な性質が強い。
よって、彼らはダンジョンの攻略者を見るやいなや、自分たちの食料にするべく、躊躇いなく襲い掛かってくるのが定石だ。
どのような罠がこの先仕掛けられているのかも分からないので、むやみに駆けていくことはせず、ヘルトルはその場で時が来るのを待った。ゴブリンは岩壁の残骸の向こう側にいる人間を、涎を垂らしながら視界に入れている。足は短いが、速さがあり、長い道をあっという間に駆け抜けてくる様は、なかなかに恐ろしい。ヘルトルは息を呑んで、剣を振るタイミングを図る。
だが、結局最後まで、その剣が血に染まることはなかった。
ボン、と激しい音がしたかと思えば、爆風により三体のゴブリンがまとめて吹き飛び、壁に叩きつけられた。そのまま地面に落下し、それまでの俊敏さが嘘のように、動かなくなる。
ヘルトルは隣にいるシェルムトートに目を向けた。予想通り、右腕を軽く上げ、人差し指を前に突き出した姿が目に入り、ヘルトルは額に手を当てた。
「じゃあ行こうか」
大人しく、剣を鞘にしまい込んだヘルトルの気持ちなど、この男には分からないのだろう。
岩壁の残骸を飛び越え、優雅に先を行くシェルムトートの数歩後ろを、ヘルトルは複雑そうに歩き出した。
奥へ行けば行くほど、その数を増していく低級魔族たちであったが、シェルムトートは意に返さず、作業のように爆散させ続けた。
本日二十体目のゴブリンが吹き飛んだのを確認したヘルトルは、心底分からないといった表情で、
「俺がついてくる必要ありました?」
とシェルムトートに問いかけた。
言外に「もう帰ってもいいか」という意味を含めた言葉に、シェルムトートは鷹揚とした態度で返す。
「例の扉のように、二人じゃなきゃ突破できない謎とかあるだろう。それに……」
「それに?」
シェルムトートは目を細めて、きっぱりと続けた。
「モチベーションが変わる」
ヘルトルは口をへの字に曲げた。そんなヘルトルの様子を見て、僅かに笑んだシェルムトートは「まあ、あまり深く考えずに」と本日二十一体目のゴブリンを片手で掴み、投げ飛ばした。
モチベーション。シェルムトートの文脈から判断すると、「変わる」というのは「上がる」と解釈して良さそうだが、どうもしっくりと来ない。ヘルトルがいることで、何故シェルムトートのモチベーションが上がるというのか。
少し考えたヘルトルは、ハッとした。普段、シェルムトートは、ヘルトルを振り回したり、からかったりすることを楽しんでいるふしがある。これまでのダンジョンの道中を考えると、シェルムトートにとって、いくら悪辣なダンジョンといえど、攻略は赤子の手をひねるがごとく容易なものなのだろう。当然、攻略しても達成感など生まれないに違いない。
つまり、こうしてシェルムトートがヘルトルを連れまわすのは、退屈な旅にひとさじのスパイスを加えるようなもので、ありていに言ってしまえば、ただの退屈しのぎの玩具として扱っているに他ならない。
なんという屈辱。無理やり言質を取られたようなものではあるが、自分はシェルムトートの今後を案じて、真剣に挑戦していたというのに。
ヘルトルの頭からは「例の扉のように、二人じゃなきゃ突破できない謎とかあるだろう」という前半部分は抜け落ちていた。
堪らず、シェルムトートに苦言を呈そうとしたヘルトルであったが、彼の言葉は、突如鳴り響いた轟音と地面の揺れに遮られた。なんだ、と辺りを見渡したヘルトルの耳に、いつもよりも大きな、シェルムトートの声が届く。
「そこから動くな!」
少しの圧が含められたその声には、従わずにはいられない力があった。剣の柄に手を掛けつつも、ヘルトルは今立っている場所から、微動だにしなかった。
するとどうだろう。ヘルトルとシェルムトートの周囲の地面が蠢き、どんどん様相を変えていくではないか。平坦だった地面に高低ができたり、岩壁が地面に飲み込まれたりする光景は、ここから一歩でも動けば自分も巻き込まれてしまうのではないかという危機感を、ヘルトルに抱かせた。
だからヘルトルは、気がつけばシェルムトートの姿が見えなくなっても、変形が収まるまで動くことができなかった。
数分後、ようやく地面の様子が落ち着き、ヘルトルはそっと足を一歩前に進めた。
障害物の一切ない、真っ直ぐ伸びた狭い通路。どうやらこれが、完成形らしい。
大声を出してみるが、自分の声の反響しか返ってこない。壁が厚いのか、遠くに追いやられてしまったのかは分からないが、シェルムトートとはぐれてしまったようだった。
じっとしていてもしょうがない。どうにかしてシェルムトートを見つけるか、ダンジョンを抜ける方法を探さなくては。
幸い、通路にはいくつかの罠が仕掛けられていたり、低級魔族が飛び出してきたり、といったアクシデントがありはしたが、ヘルトルが切り抜けられないほどの代物ではなかった。
とはいえ、全くの無傷とはいかない。ゴブリンやオークといった魔族と、ヘルトルは以前交戦したことがあるが、そのときよりも随分と強靭だった気がする。傷薬を多めに買っておいてよかった、とヘルトルは自身の腕を包帯で巻きながら思う。
そんなこんなでゆっくりではあるが、着実に進んでいたヘルトルであったが、ようやく、細長い通路を抜けることができた。
辿り着いたのは、今まで見てきた中でもひときわ広い空間だった。広いだけでなく、高さもあり、円形の地面を取り囲むように壁から突き出した岩々は、闘技場の観客席を彷彿とさせた。ご丁寧なことに、それぞれ岩に隣接するように、上から下まで多くの穴が開いており、そのどれもが奥深くに続いているようだった。
足を踏み入れた途端、今までよりもずっと視界が明瞭になり、驚いたヘルトルは、周囲を見渡した。
明るさの理由は、すぐに判明した。広間の天井に埋め込まれた鉱石が、自ら光を発し、洞窟内を照らしていたのだ。まるで、夜空の星のようなそれらに、ヘルトルはしばしの間、魅入ってしまう。
しかし、ヘルトルは、すぐに意識を上から下へと引き戻した。
このダンジョンの脈絡のない罠の発動の仕方を考えると、一見綺麗なだけの鉱石にも、何かしら邪悪な意図が秘められているのではないかという考えが頭に過ったのだ。
そして、ありがたくないことに、その考えは正しかった。
鉱石から目を離した瞬間に、微かな物音が聞こえたのが分かったヘルトルは、それが何なのかを確かめる前に、横に大きく飛んだ。
着地しながら元いた場所を見やれば、そこにはヘルトルの身の丈ほどもありそうな、巨剣が突き刺さっていた。
ひやりとしたものを感じるが、恐怖に浸っている場合ではない。ヘルトルは五感を最大限に使い、次にどこから襲い掛かられるかを予測する。
来ると分かっていれば、避けられない道理はない。再び、何かが風を切ってこちらに向かってくる音を聞き取ったヘルトルは、走り出すのと同時に、音が聞こえた方角を確認した。
先程まで自分がいた場所に、何かが刺さる。だが、もうそれをまともに確認している暇はない。足元に転がっていた石を拾い上げ、逡巡する間もなく、何かが射出された方角めがけて、思い切り腕を振りかぶった。
ごん、と鈍い音が響く。それは、石が壁に当たったにしては、重い音だ。一発で上手くいってくれたことに、ヘルトルは安堵する。
これで相手を仕留められたと考えるのは早計だ。背負っていた荷物や重い剣を投げ捨て、脇目も振らず、石を投げた方へと走る。
平坦な地面を一気に駆け抜け、反対側の壁まで辿り着くと、張り出した岩に足を掛けた。そのまま思い切り岩を蹴り上げ、少し高いところにある岩に飛び移る。
それを三回ほど繰り返し、ヘルトルはようやく、目的の場所に到着した。ようやくと言っても、走り出してから、一分も経っていなかったのだが。
「出てきてはいかがです?」
太ももに括り付けていた短剣を引き抜き、岩に隣接している穴の中へと声を掛けた。
貴方の体躯では、狭い場所での近距離戦は不本意でしょう、と告げると、穴の奥から唸り声のような低い声が返ってくる。
「……何故、分かっタ」
「武器が飛んでくるときに、並々ならぬ殺気を感じました。罠によるものでしたら、そんなのおかしいでしょう? それを前提にしてしまえば、一度目に飛んできた巨剣をあんなドンピシャで当ててくる種族――それも魔族なんて限られています」
穴の奥にいる男が、深いため息をついた。
少しの間を置いて、のそのそとヘルトルの二倍もあろう身の丈の男が、穴の中から姿を現す。それを確認すると、へルトルは短剣を元に戻し、岩から岩へと、伝うようにして地面に降りて行った。
それを見た男がふ、と微かな笑みを浮かべ「良かったのカ?」と聞いてくるものだから、ヘルトルは上を見上げ、怪訝そうに首を傾げた。
「なにがですか?」
「お前がさっき言っタのだろう。狭い場所では、俺の方が不利ダと」
ああ、と納得したヘルトルは、気のない様子でそれに答える。
「純粋な勝負だったらそれはそうですけど。もし、アンタが自滅覚悟で狭い穴で暴れ回りでもしたら、洞窟が崩れて俺まで下敷きになっちゃうじゃないですか」
そんなのは御免なので、と床に落ちていた長剣を、ヘルトルは拾い上げた。
至って利己的な回答を返された男は、機嫌を損ねるどころか、むしろ満足そうに二度頷いた。「そういウことにしておイてやる」という言葉を聞いたヘルトルは、思い切り眉を顰める。今ここにいない男の、腹の立つ笑みが頭を過った。
どすん、と大きな音を立てて、男が飛び降りてくる。かなり上から落ちてきたというのに、足を痛めた様子のない彼は、大股で広間の入口の方へ歩いていくと、地面に突き刺さっていた巨剣を引き抜いた。
巨剣を肩に担いだ彼は、ぐるりと振り向いて、ヘルトルを見やる。
「気高き戦士よ。先程は姿ヲ隠し、遠くから一方的に攻撃したことを詫びよウ」
こちらにも事情があるとはいえ、不躾だったと男は頭を下げた。
自分もお返しに投石したのだから一方的ではないのでは、とヘルトルは内心思った。だが、それをそのまま口に出せば、どのような反応が返ってくるか分からない。ヘルトルは「どうも」とだけ返し、後は黙って相手方の口上を聞くことにした。
「我が名はヘーレグリフ。魔導士ドゥーエルの子孫にしテ、このダンジョンの番人ナり」
灰色の髪の間から小さな二本の角が突き出ている魔族の戦士は、威風堂々と名乗りを上げる。
ヘーレグリフは、ぶんぶんと巨剣を振り回すと、その切っ先をヘルトルの方に向けた。ヘルトルは彼のように名乗りはしなかったが、ヘーレグリフがそのことについて言及しないことをいいことに、黙って剣を構えた。
二人の視線が交差する。ヘーレグリフの猫に似た構造の目が、ヘルトルを真っ直ぐに捉えていた。
「――イざ、尋常に勝負!」
開戦の合図だと言わんばかりに、ヘーレグリフが吠えた。
困ったように眉を下げるシェルムトートとは反して、ヘルトルはすっかりその細い眉をつり上げてしまっている。危険地帯だと分かっているためか、不用意に前に進むことはしないものの、明らかに重くなってしまった場の空気に、シェルムトートは肩を落とした。
「君が口づけすることに対しても、できないことに対しても悲嘆しているようだったから、私が無理やりやってしまった方がすんなりいくんじゃないかと思っただけなんだ」
事実、シェルムトートの言っていることは正しかった。あのままではヘルトルは一生かけても扉を開けることができなかっただろうし、そのまま家に戻りでもしたら、情けなさのあまりしばらく引き籠っていたかもしれない。
そのため、この怒りは早く収めるべき、なのだが。
「何故素肌にしたんですか?」
「えっ」
不機嫌さを露わにしたヘルトルからの問いかけに、シェルムトートは間の抜けた声を漏らした。
「手の甲の方は分かります。俺は手袋を身に着けていないので。ですが、足の方は違いますよね?」
そう。ヘルトルは靴だけでなく、靴下もちゃんと身に着けていたのだ。たとえ、足に口づけされなくてはいけない状況に追い込まれたとしても、布一枚によって隔てられているというのは、多大な安心感をもたらしてくれる。
だというのに。
ヘルトルは厳しい視線をシェルムトートに向ける。
この男は、そんなヘルトルの希望をわざわざ取っ払って、事に及んだのだ!
視線を受けたシェルムトートは、普段の胡散臭い笑みはなりを潜め、気まずそうに顔色を青くしている。いつもは余裕綽々としている男が、このように慌てた様子を見せていることは、少しだけヘルトルの溜飲を下げた。
じっ、と無言の圧力でシェルムトートに話を促すと、シェルムトートは額に汗を滲ませながらも、もごもごと頼りない口調で言葉を紡いでいく。
「そ、の……」
「その?」
「…………絵に描かれた王が、靴下を履いていたかいまいち分からなくて」
……何故だろう。待ったわりには、当たり障りのない答えが返ってきたような。
ヘルトルは記憶の中で先程の絵を思い返す。確かに絵には色がなく、王は靴を脱いではいたが、靴下を履いているかどうかは判断がつかなかった。どこまで絵に忠実に従えばいいか分からなかったシェルムトートは、なるべくシチュエーションを近づけたかったことだろう。
ヘルトルはもう一度、シェルムトートを見る。相変わらず、情けない表情はしていたものの、汗は引き、顔はしっかり上がっていた。ヘルトルは直感的に思った。
この男は、嘘をついている。
この期に及んで自身を欺こうとする男に、ヘルトルの胸中にはさらなる苛立ちが募った。しかし、あくまで直感的なものであり、証拠は何一つ存在しないため、詰め寄ることもできない。
同時に、咄嗟にそれらしい理由を作り上げたシェルムトートに、感服したのも事実であった。瞬時に動揺を抑え込むことのできる精神力も見事であり、ヘルトルは表には出さないものの、密かに畏敬の念を抱いていた。
一向に本心を明かさず、涼しい顔をしているシェルムトートに、ヘルトルは嘆息し、ついには意地になるのも馬鹿らしい、と折れた。
「そういうことにしといてあげます」
呆れた、といった様子を隠しもせずにそう言うヘルトルに、シェルムトートは「本当なんだけどな」と苦笑した。
休まずに歩き続けて、少し疲れたな、とヘルトルが感じ始めたとき、シェルムトートが足を止めた。
前に道はなく、代わりに立ち塞がるのは洞窟の土壁だ。行き止まりということは、どこかで道を間違えたのだろう。
不思議なことに、ここまでいくつかの分かれ道があったが、シェルムトートの選ぶ道は先に続くものばかりで、こうした行き止まりに行きつくことはなかった。もしかすると、最初から正しい道を知っていたのではないかと疑っていたが、ただ単に運が良かっただけなのかもしれない。
引き返そうと、身体の向きを変えようとしたヘルトルは「待ってくれ」というシェルムトートの言葉に引き留められた。
「どうしたんですか?」
「少し、気になることがある」
疑問に思うのもつかの間。シェルムトートは右腕を後ろに引くと、――壁に向かって、掌底を放った。
湧き起こる衝撃波を肌で感じながら、ヘルトルは目の前で崩れ落ちた土壁――正確にはその先にある光景を見て、唖然とした。
「隠し通路……」
隣のシェルムトートを横目で窺うと、いたく満足げな顔をしている。
どうやら、不正解の道ではなかったらしい。どのような方法でそれを知ったのかは、謎だが。
それを追求するのは後だ、とヘルトルは通路の先を見据え、腰に下げていた剣を抜いた。
ごくごく小さな音ではあるが、奥からは何かが跳ねるような音が、ひっきりなしに響いている。音は一刻一刻と過ぎる度に、少しずつ大きくなっており、もう少し経てば、音の主が間違いなく二人の前に姿を現すだろう。
そして、ここがダンジョンである以上、その正体はある程度、予測がついた。
曲がり角から飛び出し、真っ直ぐにこちらに向かってくる、ヘルトルの膝よりも背の低い人型の魔族。その肌の色は緑色で、耳は鋭く尖っており、歪んだ表情は見る者をぞっとさせる。
ゴブリンだ。それも、好戦的なのが三体。
上級魔族たちが作り出したダンジョンは、罠だけではなく、こうした低級魔族や魔物が放たれていることが多い。ダンジョンを守るためであったり、攻略しに来る人々を弄ぶためだったりと目的は様々だ。
このような古いダンジョンに一番初めに放たれた低級魔族たちは短ければ十数年、長ければ百年ほどの生命の限界をとっくに迎えている。ということは、今現れた三体は、繁殖によって増えた、ダンジョン育ちの魔族ということになる。
ダンジョン育ちの魔族は、閉ざされた空間で目新しいことがほぼほぼない日々を送るためか、魔界育ちの低級魔族よりも知能が低い。それでいて、生きるために他の低級魔族、もしくは同族を食らわなくてはならないので、凶暴で残忍な性質が強い。
よって、彼らはダンジョンの攻略者を見るやいなや、自分たちの食料にするべく、躊躇いなく襲い掛かってくるのが定石だ。
どのような罠がこの先仕掛けられているのかも分からないので、むやみに駆けていくことはせず、ヘルトルはその場で時が来るのを待った。ゴブリンは岩壁の残骸の向こう側にいる人間を、涎を垂らしながら視界に入れている。足は短いが、速さがあり、長い道をあっという間に駆け抜けてくる様は、なかなかに恐ろしい。ヘルトルは息を呑んで、剣を振るタイミングを図る。
だが、結局最後まで、その剣が血に染まることはなかった。
ボン、と激しい音がしたかと思えば、爆風により三体のゴブリンがまとめて吹き飛び、壁に叩きつけられた。そのまま地面に落下し、それまでの俊敏さが嘘のように、動かなくなる。
ヘルトルは隣にいるシェルムトートに目を向けた。予想通り、右腕を軽く上げ、人差し指を前に突き出した姿が目に入り、ヘルトルは額に手を当てた。
「じゃあ行こうか」
大人しく、剣を鞘にしまい込んだヘルトルの気持ちなど、この男には分からないのだろう。
岩壁の残骸を飛び越え、優雅に先を行くシェルムトートの数歩後ろを、ヘルトルは複雑そうに歩き出した。
奥へ行けば行くほど、その数を増していく低級魔族たちであったが、シェルムトートは意に返さず、作業のように爆散させ続けた。
本日二十体目のゴブリンが吹き飛んだのを確認したヘルトルは、心底分からないといった表情で、
「俺がついてくる必要ありました?」
とシェルムトートに問いかけた。
言外に「もう帰ってもいいか」という意味を含めた言葉に、シェルムトートは鷹揚とした態度で返す。
「例の扉のように、二人じゃなきゃ突破できない謎とかあるだろう。それに……」
「それに?」
シェルムトートは目を細めて、きっぱりと続けた。
「モチベーションが変わる」
ヘルトルは口をへの字に曲げた。そんなヘルトルの様子を見て、僅かに笑んだシェルムトートは「まあ、あまり深く考えずに」と本日二十一体目のゴブリンを片手で掴み、投げ飛ばした。
モチベーション。シェルムトートの文脈から判断すると、「変わる」というのは「上がる」と解釈して良さそうだが、どうもしっくりと来ない。ヘルトルがいることで、何故シェルムトートのモチベーションが上がるというのか。
少し考えたヘルトルは、ハッとした。普段、シェルムトートは、ヘルトルを振り回したり、からかったりすることを楽しんでいるふしがある。これまでのダンジョンの道中を考えると、シェルムトートにとって、いくら悪辣なダンジョンといえど、攻略は赤子の手をひねるがごとく容易なものなのだろう。当然、攻略しても達成感など生まれないに違いない。
つまり、こうしてシェルムトートがヘルトルを連れまわすのは、退屈な旅にひとさじのスパイスを加えるようなもので、ありていに言ってしまえば、ただの退屈しのぎの玩具として扱っているに他ならない。
なんという屈辱。無理やり言質を取られたようなものではあるが、自分はシェルムトートの今後を案じて、真剣に挑戦していたというのに。
ヘルトルの頭からは「例の扉のように、二人じゃなきゃ突破できない謎とかあるだろう」という前半部分は抜け落ちていた。
堪らず、シェルムトートに苦言を呈そうとしたヘルトルであったが、彼の言葉は、突如鳴り響いた轟音と地面の揺れに遮られた。なんだ、と辺りを見渡したヘルトルの耳に、いつもよりも大きな、シェルムトートの声が届く。
「そこから動くな!」
少しの圧が含められたその声には、従わずにはいられない力があった。剣の柄に手を掛けつつも、ヘルトルは今立っている場所から、微動だにしなかった。
するとどうだろう。ヘルトルとシェルムトートの周囲の地面が蠢き、どんどん様相を変えていくではないか。平坦だった地面に高低ができたり、岩壁が地面に飲み込まれたりする光景は、ここから一歩でも動けば自分も巻き込まれてしまうのではないかという危機感を、ヘルトルに抱かせた。
だからヘルトルは、気がつけばシェルムトートの姿が見えなくなっても、変形が収まるまで動くことができなかった。
数分後、ようやく地面の様子が落ち着き、ヘルトルはそっと足を一歩前に進めた。
障害物の一切ない、真っ直ぐ伸びた狭い通路。どうやらこれが、完成形らしい。
大声を出してみるが、自分の声の反響しか返ってこない。壁が厚いのか、遠くに追いやられてしまったのかは分からないが、シェルムトートとはぐれてしまったようだった。
じっとしていてもしょうがない。どうにかしてシェルムトートを見つけるか、ダンジョンを抜ける方法を探さなくては。
幸い、通路にはいくつかの罠が仕掛けられていたり、低級魔族が飛び出してきたり、といったアクシデントがありはしたが、ヘルトルが切り抜けられないほどの代物ではなかった。
とはいえ、全くの無傷とはいかない。ゴブリンやオークといった魔族と、ヘルトルは以前交戦したことがあるが、そのときよりも随分と強靭だった気がする。傷薬を多めに買っておいてよかった、とヘルトルは自身の腕を包帯で巻きながら思う。
そんなこんなでゆっくりではあるが、着実に進んでいたヘルトルであったが、ようやく、細長い通路を抜けることができた。
辿り着いたのは、今まで見てきた中でもひときわ広い空間だった。広いだけでなく、高さもあり、円形の地面を取り囲むように壁から突き出した岩々は、闘技場の観客席を彷彿とさせた。ご丁寧なことに、それぞれ岩に隣接するように、上から下まで多くの穴が開いており、そのどれもが奥深くに続いているようだった。
足を踏み入れた途端、今までよりもずっと視界が明瞭になり、驚いたヘルトルは、周囲を見渡した。
明るさの理由は、すぐに判明した。広間の天井に埋め込まれた鉱石が、自ら光を発し、洞窟内を照らしていたのだ。まるで、夜空の星のようなそれらに、ヘルトルはしばしの間、魅入ってしまう。
しかし、ヘルトルは、すぐに意識を上から下へと引き戻した。
このダンジョンの脈絡のない罠の発動の仕方を考えると、一見綺麗なだけの鉱石にも、何かしら邪悪な意図が秘められているのではないかという考えが頭に過ったのだ。
そして、ありがたくないことに、その考えは正しかった。
鉱石から目を離した瞬間に、微かな物音が聞こえたのが分かったヘルトルは、それが何なのかを確かめる前に、横に大きく飛んだ。
着地しながら元いた場所を見やれば、そこにはヘルトルの身の丈ほどもありそうな、巨剣が突き刺さっていた。
ひやりとしたものを感じるが、恐怖に浸っている場合ではない。ヘルトルは五感を最大限に使い、次にどこから襲い掛かられるかを予測する。
来ると分かっていれば、避けられない道理はない。再び、何かが風を切ってこちらに向かってくる音を聞き取ったヘルトルは、走り出すのと同時に、音が聞こえた方角を確認した。
先程まで自分がいた場所に、何かが刺さる。だが、もうそれをまともに確認している暇はない。足元に転がっていた石を拾い上げ、逡巡する間もなく、何かが射出された方角めがけて、思い切り腕を振りかぶった。
ごん、と鈍い音が響く。それは、石が壁に当たったにしては、重い音だ。一発で上手くいってくれたことに、ヘルトルは安堵する。
これで相手を仕留められたと考えるのは早計だ。背負っていた荷物や重い剣を投げ捨て、脇目も振らず、石を投げた方へと走る。
平坦な地面を一気に駆け抜け、反対側の壁まで辿り着くと、張り出した岩に足を掛けた。そのまま思い切り岩を蹴り上げ、少し高いところにある岩に飛び移る。
それを三回ほど繰り返し、ヘルトルはようやく、目的の場所に到着した。ようやくと言っても、走り出してから、一分も経っていなかったのだが。
「出てきてはいかがです?」
太ももに括り付けていた短剣を引き抜き、岩に隣接している穴の中へと声を掛けた。
貴方の体躯では、狭い場所での近距離戦は不本意でしょう、と告げると、穴の奥から唸り声のような低い声が返ってくる。
「……何故、分かっタ」
「武器が飛んでくるときに、並々ならぬ殺気を感じました。罠によるものでしたら、そんなのおかしいでしょう? それを前提にしてしまえば、一度目に飛んできた巨剣をあんなドンピシャで当ててくる種族――それも魔族なんて限られています」
穴の奥にいる男が、深いため息をついた。
少しの間を置いて、のそのそとヘルトルの二倍もあろう身の丈の男が、穴の中から姿を現す。それを確認すると、へルトルは短剣を元に戻し、岩から岩へと、伝うようにして地面に降りて行った。
それを見た男がふ、と微かな笑みを浮かべ「良かったのカ?」と聞いてくるものだから、ヘルトルは上を見上げ、怪訝そうに首を傾げた。
「なにがですか?」
「お前がさっき言っタのだろう。狭い場所では、俺の方が不利ダと」
ああ、と納得したヘルトルは、気のない様子でそれに答える。
「純粋な勝負だったらそれはそうですけど。もし、アンタが自滅覚悟で狭い穴で暴れ回りでもしたら、洞窟が崩れて俺まで下敷きになっちゃうじゃないですか」
そんなのは御免なので、と床に落ちていた長剣を、ヘルトルは拾い上げた。
至って利己的な回答を返された男は、機嫌を損ねるどころか、むしろ満足そうに二度頷いた。「そういウことにしておイてやる」という言葉を聞いたヘルトルは、思い切り眉を顰める。今ここにいない男の、腹の立つ笑みが頭を過った。
どすん、と大きな音を立てて、男が飛び降りてくる。かなり上から落ちてきたというのに、足を痛めた様子のない彼は、大股で広間の入口の方へ歩いていくと、地面に突き刺さっていた巨剣を引き抜いた。
巨剣を肩に担いだ彼は、ぐるりと振り向いて、ヘルトルを見やる。
「気高き戦士よ。先程は姿ヲ隠し、遠くから一方的に攻撃したことを詫びよウ」
こちらにも事情があるとはいえ、不躾だったと男は頭を下げた。
自分もお返しに投石したのだから一方的ではないのでは、とヘルトルは内心思った。だが、それをそのまま口に出せば、どのような反応が返ってくるか分からない。ヘルトルは「どうも」とだけ返し、後は黙って相手方の口上を聞くことにした。
「我が名はヘーレグリフ。魔導士ドゥーエルの子孫にしテ、このダンジョンの番人ナり」
灰色の髪の間から小さな二本の角が突き出ている魔族の戦士は、威風堂々と名乗りを上げる。
ヘーレグリフは、ぶんぶんと巨剣を振り回すと、その切っ先をヘルトルの方に向けた。ヘルトルは彼のように名乗りはしなかったが、ヘーレグリフがそのことについて言及しないことをいいことに、黙って剣を構えた。
二人の視線が交差する。ヘーレグリフの猫に似た構造の目が、ヘルトルを真っ直ぐに捉えていた。
「――イざ、尋常に勝負!」
開戦の合図だと言わんばかりに、ヘーレグリフが吠えた。
3
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる