貴重な男の中で一番優しいのは俺らしい

クローバー

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出会いがあったらしい

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「お兄ちゃん、家の場所も覚えてないの?」
「ちちち、違うし、お、覚えてるってばよ」

妹に家の場所を聞いたとき、そんなやり取りがあったが何とか誤魔化し、今は二人で仲良く座って電車に揺られている。

妹はわざわざ俺のために、電車で30分ほど離れた俺のアパートまで来てくれたみたいだ。
…健気で可愛い。

「ありがとな、芽亜。わざわざ距離があるのに来てくれるなんて」
「ぜ、全然平気だよ!その…お兄ちゃんのためだもん!…それに芽亜もお兄ちゃんに会いたかったし」

芽亜はチラチラと俺を見ながら照れていた。
嬉しいことを言ってくれる芽亜の頭を撫でつつ、少し考える。

俺のアパートから妹が数日通うとなると、電車+徒歩で一時間ほど登校に時間がかかってしまうことになる。
それは妹への負担が気になってしまう。

「…やっぱり、俺がしばらく家に住むことにするよ。芽亜の移動大変だし。あ、今日の電車代渡すよ」

そう言って鞄から財布を取りだしからお金を出して芽亜に渡す。
…あれ?こんなにお金入ってたっけ?

「そ、そんな悪いよ、お兄ちゃん。私のことは大丈夫だから。それに、お金はお母さんから貰ってるよ。お兄ちゃんに迷惑かけたくないからお願い、気にしないで!」
「ふふっ、大丈夫だから」

そんな事を言う優しいを撫でて、多少強引に承諾して貰い、お金を受け取って貰う。
母親が帰ってくるまでの間だけ、アパートを留守にするだけだ。
どうってことない。
それにお金はあった方がいいだろう。

「分かったよ、お兄ちゃん。えへへ、ありがと!学校が終わったら連絡してね!必要な荷物まとめるの手伝うから!」
「ははっ!ありがと!また、連絡するね!」

予定を変更して、妹が来るのではなく俺が行くことになった。
狭いアパートで妹と二人というのもありではあったけれど、広い家の方が妹にとってきっといいだろう。

「えへへっ!しばらくお兄ちゃんと一緒かぁ。やったぁ!」

何はともあれ妹が喜んでくれたので良かった。
この妹の為になら何でもやってあげたくなる。
妹がいるってこんなにも幸せな事だったとは知らなかったよ。

前の世界で妹がいたら未来は変わっていたのかなぁと考えていたら、駅に着いたので電車から降りる。

「じゃあね、お兄ちゃん!ここから学校まですぐだから!」
「ちょっと、待って!時間あるから学校まで一緒に行くよ!」

小学校より高校の方が授業開始が遅いので、一人で行こうとする妹について行こうとした。
しかし……。

「ぜ、絶対だめ!今でさえ目立ってたのに、学校まで行ったら大騒ぎになっちゃう!」
「ちょ、どういうこと!?あっ!」

訳の分からないことを言って妹は、急いで去ってしまった。
…き、嫌われて無いよね!?

少し落ち込みながら、アパートの方向へと戻る電車に乗り、高校を目指す。
高校か、どんなところなんだろう?
編入で入る訳だから、前世とは違う所だよなぁ。
俺、編入なんてしたことないし。
疑問は沢山あったが、この世界を楽しむために頑張ろうと思った。

ーー

電車に揺られながら、窓の外を見てボーッとしていると、通勤の時間帯になったのか電車が混んできた。

人が多くなるにつれて少しずつ蒸し暑くなってきた。
なので、Yシャツのボタンを開けて胸元を全開にしてから、袖を捲った。
半袖Yシャツがアパートに無かったので買った方がいいかもしれない。

「えっ?嘘、あの男の人…」
「きゃあ!?…み、見えそう…っ!!」

うん?何やら周りの女性達が急にザワザワしはじめた。
電車に乗ってくる人も「えっ!」とか「きゃあ!」など悲鳴のような声をあげるので驚いた。
…しかも皆、何故か俺を見た瞬間にだ。

(…なんで!?俺、何かした!?ダメな所でもあった!?)

慌てて鞄から手鏡を出してチェックしたが、特に問題は無かった。

「はぅぅっ!」

目が合った女性もいたが、あからさまに手で顔を隠してしまった。

(この周りの反応はなんだ?…あっ、もしかして!ここ女性両だったのか!?

すぐさま辺りを見渡した時、その考えは確信に変わった。
男性が一人もいない。

そして、周りの女性は皆、俺を気にしてチラチラと見ている。
中には怖いくらいにじっと俺を見ている人もいる。
何故か頬が赤いような気はするのは置いておき、さっきは悲鳴みたいな声もした。

どうやら俺は女性専用車両に乗ってしまったようだ。

(うわっ、やらかした。穴があったら入れ…入りたい。)

恥ずかしくて腕を組みながら俯いていると、電車が駅に着いたので急いで降りる。

幸い、行く予定の高校の近くまで電車は来ていたので、スマホで目的地を設定し、徒歩で向かうことにした。



今度から電車に乗るときは気を付けようと反省をしつつ、スマホのナビに従って歩いていく。

(…ん?なんだろ?…視線を感じる。)

スマホをチラチラ確認しながら歩いていると、視線を感じたので辺りを見渡す。
すれ違った人や前から歩いてくる人が俺を凝視している。
……なんで!?俺、何かした?

俺はその視線から逃げるように走った。


一 ふう、疲れた。

しばらく走ったはいいが、困ったことに俺は迷子になっていた。
走りつつ近道を探していたらよく分からない所に来てしまった。

昔から何故か方向音痴で、イオンモールだとどの入り口から入ったのか分からなくなるタイプだった。

(余裕で間に合う予定だったのに、この時間は不味いな。編入初日から遅刻は印象が悪すぎる。いや、昨日休んでるから初日ではないし、もう何か病弱設定とか付いてるかもしれないな。…さて、取り敢えず近道とか考えず大人しくスマホの案内通りにいくか。)

遠回りになってしまったようなので、大人しくナビに従い再び歩きだした。

ーー

少しして、なにやら道沿いの民家から慌ただしい声が聞こえてきた。

「お、お母さん何で起こしてくれなかったのよー!」
「起こしたわよ!でも、後10分とか言って起きなかったのは早香はるかじゃない。」
「そ、そうだけど!あ、もう時間ないからご飯いらないから!いってきます!」
「気をつけて行くのよ!」

そんなやり取りがもろ聞こえて、玄関からママチャリに乗った女の子が飛び出して来た。
丁度、俺の目の前だったので少しびっくりした。

その女の子は小麦色に焼けた肌に黒い髪に少し長いショートカットの可愛い顔立ちをしていた。
寝癖なのかアホ毛がピョコピョコ立っているのが目立った。
ぱっちりとした目やハキハキした感じが、活発そうな印象を受けた。

夏だから半袖Yシャツで、短いスカートから見える足が、スポーツをやっているのか絞まっていてとても目の保養になった。
制服がそっくりだったので、多分同じ高校だろう。
…JKだ!JKだぞぉ!
少し興奮…及び感動した。

その早香と呼ばれていた女の子は、玄関から飛び出した瞬間に俺に気付いたみたいで慌てて止まった。

…ん?どうしたのかな?俺を見たまま、まだ止まっている。

「どうかしましたか?」

俺は怖がられないようににっこりとしながら彼女に聞いた。

彼女は口をパクパクさせながら、何かに気付いたように顔をボンッと赤くしてかなりあたふたしていた。
そして手で顔を隠してしまった。
…どういう反応だ、これは。

何か嫌われたことしたかもしれないと考えつつ、返事がないので話しかける。

「その制服、同じ高校だよね!何年生?」
「…はっ!い、一年です。一年三組、月島つきしま早香はるかです」

彼女は時が動き出したかのように動き出した。
取り敢えず良かった。
それに…

(三組だと!?俺の転入する予定のクラスじゃないか。なんたる好機。もしかしたら、こんな可愛い女の子と友達になれるかもしれない。あげくの果てに恋人にも…。)

そんな邪なことを思いつつ、積極的に話しかけようと思った。
その時だった。

「早香!まだ、行ってなかったの!遅刻するわよ!」

そんな声が聞こえ、玄関から早香さんのお母さんがバンッ!と出てきた。
そして、お母さんも何故か俺を見て固まってしまった。

俺はモジモジして俺をポーッと見つめる早香さんと、さっきの早香さんのように固まってしまった早香母を交互に見た。

…この状況は…なんだろう?
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