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第一話 王女殿下
しおりを挟む「あら、貴女。 私の言う事が聞けないの?」
「もっ、申し訳ありませんっ!王女殿下っ!!!」
(((また始まった。)))
もう見なれたその光景に廊下を歩く使用人は皆、目を合わせぬように、決して、巻きこまれぬようにと、気配を消して歩く。
バーチェス・ディリヴァ。
彼女はこのバーチェス王国の第一王女殿下で、我儘で傲慢、そして何より美しいものが大好きで、扱いの難しいお姫様だと有名だった。
それでも彼女は、その圧倒的な美と猫かぶりで国王から愛されており、誰も彼女を止められるものはいなかった。
◇ ◇ ◇
「王女殿下。お目覚めですか?」
目を覚ましてすぐそう私に声をかけてくれたのは、専属侍女であるセリィだった。
「ここは?」
何だか頭がクラクラして気持ちが悪い。
私は何とか自身の体を起こすと辺りを見渡した。パッと見ただけでも豪華な、何だか目がチカチカする部屋だった。
「王女殿下の寝室でございます」
「王女、でんか??」
何よそれ、そう思うのと同時に、何故そう思うのかと、まるで私の中に“二人”いるみたいに意見が別れた。
「どうかされましたか?」
そう言ってセリィは心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「気分が悪いわ、·····え?」
いえ、大丈夫です。 そう言おうとした私は何故か別のことを言っていた。
何だか自分が自分では無いみたいだ。
「では、今日はこちらで朝食をお召し上がりますか?」
「ええ、そうするわ」
「かしこまりました」
なんだかよく分からないけれど、気分が悪いのは本当の事なので、朝食が届く迄の間横になって置くことにした。
(だるい·····)
ふかふかの触り心地の良いベットに身を預ければ、元より体調の悪かった私は、何かに誘われるかのように意識を手放した。
◇ ◇ ◇
「う·····ううっ·····」
体が重い。何かに乗っかられてるみたいに、体中に圧がかかっていて、動けないし、目も開けられない。
私はどうにか状況を変えようと、必死に抵抗する。その時、暗闇の中から、誰かの声が聞こえた。
───さんっ! ·····リアさんっ!!
·····だれ? 誰が私を呼んでいるの?
───マリアさんっっ !!前っ!!危ないっ!!
前? 前ってなに? 私の前に何かあるの??
何やら焦った様子の声に耳を澄ます。この声は·····この人は·····誰だったかしら·····。
「マリアさんっ!! また勝手に抜けてきたんですか?」
「だって、あのブスが·····」
「マリアさんっ!!」
「うっ·····、悪かったわよ·····でも·····」
「でもじゃありませんっ!!」
「だってー·····ゴニョゴニョ」
この記憶は? なに? 私は何かを忘れているの?
マリアと言う名前で呼ばれている私。そして、私に向かって叱りつけている男の人。私はこの人を知っている。
マリア、マリアと、呼ばれていた名前を頭の中で繰り返す。もう少しで、何か思い出せそうなのに、中々思い出せない。うーーん。
「マリア」
試しに一言、呟いてみる。
「私は、マリア·····?」
そして、その一言で、段々と頭の中の霧が晴れていく気がした。
「私は マリア·····天上院 真里亜」
そう呟いた瞬間、私は全てを思い出した。
いつの間にか私の体は軽くなっていて、それでいて目を開けることも出来た。そこに広がるのは、白。ただ、真っ白な空間だった·····。
◇ ◇ ◇
気がつけば太陽は真上まで登っていて、すっかり昼食の時間になっていた。私は急いで起き上がると、ベルを鳴らしてセリィを呼んだ。
「おはよう、セリィ」
私は不自然に見えないようにニコッと微笑んだ。
「? おはようございます、王女殿下」
そんな私の様子にセリィは不思議そうに首を傾げるも、直ぐに昼食の準備をして参ります、と部屋から出ていった。
セリィが出ていった扉を見つめ、私は鏡の前に立った。
「私·····わたし、は·····」
タラタラと冷や汗が流れる。
「そんな、嘘でしょ·····私、死んだの? なんで? ていうか、王女殿下って、私の事よね?」
私は夢の中での事を全て覚えていた。
前世とも呼ばれる私自身の事を。
私が異世界に生まれ変わったという事を。
それともう一つ。
「何で!こんなにブサイクになってるのよーー!!」
のよー!のよー!のよー!と、王女殿下の悲痛な叫び声が王宮内にこだました。
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