朝が来るまでキスをして。

月湖

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95 喜べない side hikaru

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泊まって行くと言っていた彼が、やっぱり気が変わって帰ってしまったのかと沈み込みそうになった時に見つけたメモ。


俺は、それを大事に手帳のポケットにしまった。

ファイルに入れようかとも思ったけれど、手帳ならどこ行くにも持ってくしいつでも取り出して見れるからとこっちにした。


我ながら乙女な事をしていると思う。

こんな、他の人からしたら優しくもなんともない走り書きを捨てられないとか。

中学生か!とつっこみたくなる程だ。



そう思いながらも、メモが折れてないか慎重に確かめながら手帳を閉じた。

そして鈍く痛む腰を庇いながら、昨夜彼に脱がされたまま床に散らばってる自分の服を拾う。



長くて怖い夜だった。

何故あんな事が出来たんだろう。

何故出来ると思ったんだろう。

冷静さを完全に失っていた自分に身震いする。

もう少しで彼を失うところだった。

そう思えば今若干ある身体の痛みなどは、彼が俺を許してくれた証のように感じて愛しいくらいだ。



服を洗濯機に入れ、そのままバスルームに入る。

シャワーをするためと、中にあるだろう彼の欲を掻き出す為だ。

彼が俺のカラダに欲情してくれた証。

本当はそのまま中に留めておきたいとも思うけれど、それは叶わない事。

出してしまわないと後で散々な目に合うのは既に経験した。



「・・っ」



少しだけソープをつけた指を、昨夜彼を受け入れたところに潜り込ませる。

もう何度したか分からない行為。

だけど、今日はいつもと違っていた。



「・・え・・・?」



いつもなら。指で道をつければすぐに触れてくるドロリとしたものが感じられない。


うそ・・・。

なんで?


今朝はイレギュラーな事ばかりだ。

それも、俺が嬉しい方の。

Tシャツやメモまでは素直に嬉しかった。

でも、カラダの奥までは・・・。

最初の時の、俺を恥ずかしがらせる為にした時以来、彼が俺のカラダの後始末をしたことは無い。

考えてもその理由になりそうなことは何もなくて・・・逆に不安になってくる。


彼を怒らせた昨日。

明けて朝になってから見つけた幾つかの嬉しい事。

これは、どういう意味なの・・・。

嬉しがらせて、あとでまた突き落とされるのか。

こんな事初めてで、素直に喜べない。

・・・早く、会いに行かなくちゃ。


訊いても『ただの気まぐれ』、彼はきっとそんな風に言うだろうけど、想像じゃなくてあの人の声で聞きたい。

気まぐれなら気まぐれでいいから。


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