あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第一章 ―― 黒薔薇の刻印

【009】礼人の仕事 ※礼人

 その日朝食の席で、礼人は桜子に尋ねた。

「今日と明日は、泊まってくるんだよね?」
「……はい」

 礼人は目を眇める。一緒に暮らし始めてからはまだ数度だが桜子は、実家の天羽家に帰る前、暗い眼差しをする。無意識なのかは分からないが。何がそんなに嫌なのか。たしかに姉は少し個性的だった。それとも天羽家の儀式とやらに関わることなのか。

「行きたくないなら、無理に帰らなくてもいいと思うけど?」
「いえ、会いたいものもおりますので」
「ふぅん。家族?」

 違うという答えを礼人は予測しながら問いかけた。

「……猫を飼っていて」
「猫が好きなの? この家でも飼う?」
「猫は好きですが、あの仔は特別なんです」
「そう」

 猫ならばなんでもいいわけではないのだろう。頷いた礼人は、その後仕事へ行くために馬車に乗った。

 その中で、郵便物を開封していくと、祖父から手紙がきていた。今は帝都ではなく横濱にいるらしい。もとは軍では元帥、爵位も祖父のものだったが、あっさり譲った相手の父が先に逝ってしまった。今は家業の財閥関連は全て祖父が、形だけの爵位継承と、軍に属して戦いや対策は礼人が担当している。礼人の母は、礼人が幼少時に亡くなった。

「お祖父様は、祝言には帰る、かぁ」

 手紙をしまった礼人は、その後馬車から降り、守衛の陸曹に会釈をしてから、今日はまっすぐに会議室へと向かった。本日はあやかし対策部隊特務斑の会議だ。実質あやかし対策部隊の首脳部である。まだ開始三十分前の会議室には誰もいない。

 特務班には、祓魔七環からは、一条と四峰の他には、二葉と五桐が軍属なので参加している。三吉と六角には軍属の者はいない。ただ全ての家が軍の協力者で、招集があれば討伐に出る。環央家は少し特殊で、代々武器生みの神子を輩出するため、あやかし討伐に武器はなくてはならず、守護対象の家とも言える。

 十分ほどが経過し、会議まであと二十分となったところで、夜市泰地よるいちたいち大尉が入ってきた。黒い髪に切れ長の目をしていて、非常に真面目。階級も年齢も礼人と同じで、大学と士官学校も一緒だった。夜市家も天羽家同様あやかし関連家だ。夜市は礼人の親友である。

 夜市が少し遅れたのは、今日の会議の資料の用意があったかららしい。手際よく各自の席の前に並べていく。そこへ十五分前になって、五桐孝一郎こういちろう少佐が入ってきた。無精ひげが生えている。

 そして十分前に総指揮官でもある一条幹生みきお大佐と副官の二葉宏介ひろすけ中佐が入ってきた。

 それから一同が席につく。
 本日の議題は、紅葉に混じって咲き狂う桜について。これが百鬼夜行の兆候かの検討である。百鬼夜行は予兆として、異常な自然現象が事前に発生することが多い。

 百鬼夜行とは、あやかしの力が強まる夜のことだ。あやかしは我を忘れ、凶悪化して襲ってくる。数日からニ週間程度続くのだが、その期間は肺を侵すあやかしの瘴気も強くなる。特に、鬼の瘴気だ。たとえば、礼人の父の肺を患わせたのは、幽香鬼ゆうこうきである。幽香鬼は、あやかしを操る力も持つ。扇動され、いつも以上に我を忘れるあやかしも、過去には多々いたとされる。

「これだけでは、断定はできないな。夜市大尉、引き続き監視の指示を出すように。頼んだぞ」

 一条大佐がそうまとめた。夜市も頷いている。

「続いて、次の議題だ。吸血珠きゅうけつじゅについて」

 夜市が先程配布していた資料に一条大佐が視線をおろす。礼人も資料を見た。


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