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―― 第一章 ―― 黒薔薇の刻印
【010】黒薔薇修道会 ※礼人
──あやかしが世界を統べるべき。
そう唱える暴徒集団がいる。それが、黒薔薇修道会である。あやかし討伐に礼人達が使っている異能。それを敵集団は人間に向けて使う。
その敵勢力が、倒しても倒しても、瞬時に怪我が治るようになった。首を落とすか、心臓を一突きしなければ治ってしまう。
黒薔薇修道会は、黒い聖母とその子供たちを祀るという異教で、黒い聖母像として崇められているのは、聖母アリア。別名・吸血鬼アリアだ。
吸血鬼は吸血行為で血族を増やすが、人と子もなせる。戦国の世、アリアと宣教師だった男の間には、この国で女児が生まれ、脇腹に黒い薔薇の痣があったとされる。吸血鬼と宣教師の間の子供の血には、アリアと同じように特定条件下を除いた場合での不死の力が宿っていた。その血を抜いて病人や怪我人に与えると、アリアほどではないがまるで不死のごとき回復能力を見せたらしい。以後黒薔薇の痣──刻印を持つアリアの末裔は、皆特殊な血を持っているのだという。だが伝承は曖昧で、帝国陸軍のあやかし対策部隊に残る古からの書簡にも詳しいことは記されていない。
ただこの伝承が事実なら、黒薔薇修道会が吸血珠と呼んでいる球体は、どこかにいるアリアの末裔の血を凝固させたか混ぜ込んで成形したものの可能性が高い。そしてこれがある限り、敵集団を倒すのが難航するので、アリアの末裔を捕らえて監視下に置く必要がある。
それはもう皆がよくわかっているのだが──……
「結局今回もアリアの末裔の捜査に目立った進展は見られなかったな」
一条大佐の重々しい声を、礼人は静かに聞いていた。
このようして会議は終了した。テーブルを片付けはじめた夜市を礼人が手伝っていると、ガシっと五桐少佐に肩に手を回された。にやっと笑っている五桐少佐からは煙草の香りがする。
「で? 礼人。嫁さんはどんな子なんだよ? ん?」
「孝一郎さん、祝言で会わせるって言ってますよね?」
礼人が目を据わらせる。
「へいへい。じゃあ今日は遅くなるって連絡しとけ」
「今日はいないんですが、またどうして?」
「飲みにいこう」
「嫌です」
きっぱりと礼人は断った。酒は嫌いではないが、五桐少佐は宵越しの金を持たないタイプなので、朝まで飲みに行くことになってしまう。明日酔いどれで仕事をしたいとは思わない。二日酔いは嫌いだ。
「わかったよ。じゃ、こうしよう。クリームソーダを飲みにいこう」
「クリームソーダ?」
「娘が飲みたいっていうんだ。女学院の娘さん達に人気らしい。うちの娘が近所のお姉さんに聞いたんだとさ」
ため息をついている孝一郎を見て、酒ではなく本題はこっちだろうなと礼人は判断した。下見に行きたいが、一人では行きにくいのだろう。それにこの情報が事実なら、今度桜子を誘ってみるのもいい。彼女もまた、女学生だ。年相応の楽しみがあってもいいだろう。
「なるほど、それなら行ってもいいですね。夜市も行こう」
夜市も恋をしているのだし、という言葉は、礼人は飲み込んだ。
片眉を挙げてから、腕を組んだ夜市が、静かに頷く。親友の片想いは、見ていて楽しいと思うわけではないが、応援したくなると、礼人は漠然と思った。基本、放っておいているが。
こうしてクリームソーダを味わうべく、男三人は街に繰り出したのである。
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