11 / 70
―― 第一章 ―― 黒薔薇の刻印
【011】痩せ細った愛猫の温もり
午前四時になった。父はもう就寝している。最後まで残った兄が、現在注射針と拘束具を外して、桜子の腕に包帯を巻いている。この研究室のような部屋へとまっすぐ連れてこられたからかもしれないが、まだ愛猫のカイを見ていない。
「お兄様……」
「なんだ?」
「カイの世話はしてくださいましたか……?」
それを聞くと、思い出したという顔をしたあと、兄が笑った。
「そうだった。水も餌もない部屋に閉じ込めておいた。生きているか見てきてやろう」
「なっ……」
兄が部屋を出ていく。追いかけようと立ち上がった桜子は、そのままふらついて正面に転んだ。下にした左手の包帯が緩む。そこへ兄が戻ってきた。そして倒れている桜子の顔の正面に、ボロボロの猫を投げつけた。
「なんてことを……」
「なぁに、お前の血を一滴のませればすぐに回復する」
「あ……」
「さて僕は寝る。血を与えたら、その後はきちんと身なりを整え包帯が見えないようにして出ていけ。化物」
退屈そうにそう告げて、兄がその部屋をあとにした。猫に手を伸ばすと、指先に鼻を押し当ててくる。桜子は思わず涙ぐんだ。
それから緩んでいた左手の包帯を外し、その下のガーゼを取って、まだ止まっていなかった血を指に取る。それから無理やり猫の口を開けて、血を塗りつけた。そして祈るような気持ちで見守っていると、猫の瞳に光が戻り毛並みはつややかになった。
「……」
週に一度は、血を与えなければ、兄に殺されてしまう。だめ、そもそも一週間に渡って辛い思いをさせるなんて耐えられない。守りたい、連れて行こう。そもそも置いていったのが間違いだったのだ。
その後着替えて髪をリボンと簪でとめ、桜子は大きな鞄に猫を入れた。鳴かないでと祈る。カイは大人しくしていた。四峰家から迎えに来た馬車に乗り込む。耳鳴りと目眩がしたが、猫のことが一番に気になっていた。鞄ごしに温もりが伝わってくる。
朝というには日が高くなった頃、桜子は四峰邸に帰宅し玄関から中に入った。すると礼人が出迎え、驚愕した顔をしてから、すぐに険しい眼差しに変わった。そして何か言いかけたのだが、一拍早く、桜子が大きな鞄を開けながら必死な様子で声を出した。
「お願いです、カイを、この仔を飼わせてください」
それを聞くと険しい表情のままで、礼人が頷く。床には、鞄から飛びだした猫がいる。
「それは構わないけど、すぐに医者を」
それを聞いて桜子は焦った。父と兄の所業は、世に出たら捕まるのではないかと思う。酷いことをするとはいえ、家族だ。
「やめて」
「何故?」
「大丈夫です」
「また、『大丈夫』か。一体どこが?」
目を眇めた礼人が、冷ややかな声を放つ。それを見て取ったのとほぼ同時に、強い貧血に襲われて、桜子は意識を手放した。
「お兄様……」
「なんだ?」
「カイの世話はしてくださいましたか……?」
それを聞くと、思い出したという顔をしたあと、兄が笑った。
「そうだった。水も餌もない部屋に閉じ込めておいた。生きているか見てきてやろう」
「なっ……」
兄が部屋を出ていく。追いかけようと立ち上がった桜子は、そのままふらついて正面に転んだ。下にした左手の包帯が緩む。そこへ兄が戻ってきた。そして倒れている桜子の顔の正面に、ボロボロの猫を投げつけた。
「なんてことを……」
「なぁに、お前の血を一滴のませればすぐに回復する」
「あ……」
「さて僕は寝る。血を与えたら、その後はきちんと身なりを整え包帯が見えないようにして出ていけ。化物」
退屈そうにそう告げて、兄がその部屋をあとにした。猫に手を伸ばすと、指先に鼻を押し当ててくる。桜子は思わず涙ぐんだ。
それから緩んでいた左手の包帯を外し、その下のガーゼを取って、まだ止まっていなかった血を指に取る。それから無理やり猫の口を開けて、血を塗りつけた。そして祈るような気持ちで見守っていると、猫の瞳に光が戻り毛並みはつややかになった。
「……」
週に一度は、血を与えなければ、兄に殺されてしまう。だめ、そもそも一週間に渡って辛い思いをさせるなんて耐えられない。守りたい、連れて行こう。そもそも置いていったのが間違いだったのだ。
その後着替えて髪をリボンと簪でとめ、桜子は大きな鞄に猫を入れた。鳴かないでと祈る。カイは大人しくしていた。四峰家から迎えに来た馬車に乗り込む。耳鳴りと目眩がしたが、猫のことが一番に気になっていた。鞄ごしに温もりが伝わってくる。
朝というには日が高くなった頃、桜子は四峰邸に帰宅し玄関から中に入った。すると礼人が出迎え、驚愕した顔をしてから、すぐに険しい眼差しに変わった。そして何か言いかけたのだが、一拍早く、桜子が大きな鞄を開けながら必死な様子で声を出した。
「お願いです、カイを、この仔を飼わせてください」
それを聞くと険しい表情のままで、礼人が頷く。床には、鞄から飛びだした猫がいる。
「それは構わないけど、すぐに医者を」
それを聞いて桜子は焦った。父と兄の所業は、世に出たら捕まるのではないかと思う。酷いことをするとはいえ、家族だ。
「やめて」
「何故?」
「大丈夫です」
「また、『大丈夫』か。一体どこが?」
目を眇めた礼人が、冷ややかな声を放つ。それを見て取ったのとほぼ同時に、強い貧血に襲われて、桜子は意識を手放した。
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」
まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。
そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。
「…おかえり」
ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。
近い。甘い。それでも――
「ちゃんと付き合ってから」
彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。
嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。
だから一歩手前で、いつも笑って止まる。
最初から好きなくせに、言えない彼女と。
気づいているのに、待っている俺の話。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――