あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

文字の大きさ
19 / 70
―― 第一章 ―― 黒薔薇の刻印

【019】次の象徴 ※修道会

「天羽はもうダメね」

 黒いローブを目深にかぶった少女が、嗤う。
 隣には、長身の男が立っていた。その瞳の色は紅色で、まるで紅玉のようである。シルクハットで、胸元にはリボンタイ。彼は腕を組むと、高らかに口にした少女を見た。

「それで? どうするんだい?」
「浄癒の娘――アリアの末裔に代わる象徴を探すまでよ」

 クスクスと笑う少女の声は、実に楽しげだ。
 周囲には、黒い大輪の薔薇が咲き誇っている。これは特殊な薬液につけると色が変化する薔薇だ。たとえば、アリアの末裔に刻まれる黒薔薇の刻印の持ち主の血液だとか。

「イリス。きみは充分象徴たるのではないかい?」
「それでは、いざというとき首をすげ替えて逃げて再興できないでしょう」
「おお、恐や恐や」
「それに私の本質は、人ではないのだもの――次の、百鬼夜行が楽しみね」

 また、くすりくすりと少女は嗤う。
 それに笑い返した青年は、揺った長髪を揺らすと、天を仰いだ。
 この修道会の天井には、夜空が描かれている。
 中世に思い描かれた空、星座が見える夜だ。
 ここは、いつだって、夜だ。人ならざる者が集う場所。

「ほら、信者達が来るよ」
「そうね」

 二人がそんなやりとりをして暫く。緞帳が上がる。そこには、ひしめくように、黒薔薇修道会の信者達がいた。皆、黒い修道服を纏っている。

「どうかどうか、吸血珠をお恵みください」

 今となっては、あやかし対策部隊、軍人達に対抗する術だからというよりも、信者集めの方に、吸血珠は効果を発している。既に浄癒の娘は軍人の手に落ちたが、まだ充分に予備はある。

「一人、一人。それは、与える者を、我々が決めることは出来ないのです。全ては、黒い聖母の思し召し」

 ああ、聖母アリアよ、と、人々が唱和する。
 ローブの中で目を伏せたイリスは、くだらないなと思っていた。
 傍らで腕を組む青年は、何処吹く風でさして興味も無いようだったが、軽薄に笑っている。

「次の舞台は?」

 小声で青年が問う。すると、少女が息を飲むようにして笑った。くっ、と。

「あなたの餌場が妥当でしょう? なにせ、今後は祓魔七環を排除していかなければならないんだもの。囮にもよい。きっと、来るでしょう」

 イリスの声に、神妙な顔で青年は頷いた。

 それから、人々が祈りを捧げる黒い聖母を見る。実際には観音像といえる。違いはといえば、聖母子とも観音とも異なり、子は抱いていない。ただ肌が黒いのではなく、黒い石で削り出されている像だ。目は伏せられている。そして首から、逆十字の意匠のアクセサリーを提げている。これが、聖母アリアを正しく模しているのかを、青年は知らない。

「ああ、飲んでみたいなぁ。極上らしいからね。聖母アリアすらも魅了した、宣教師の血を引く者。僕ら吸血鬼にとっては、アリアの末裔でなく、彼女は正しく宣教師の末裔なのだから」


感想 35

あなたにおすすめの小説

契約彼女は冷徹エリートの甘く過激な恋に溺れたい

白石さよ
恋愛
職場の上司・東条に失恋した奈都は、ヤケになって入ったバーで出会った男性・佑人と一夜を過ごしてしまう。数日後、職場で彼とまさかの再会。なんと佑人は、組織改革のために赴任してきた人事コンサルタントだった! 佑人を避けているのに、なぜか行く先々で彼と遭遇してしまう奈都。ついには彼から、東条を振り向かせるために期間限定で恋人のふりをすることを提案され――その日から、佑人の恋愛指南が始まる。揶揄われているだけと思っていたのに、佑人は意外にも甘く迫ってきて…!? 白石さよの名作『さよならの代わりに』が新たな形で蘇る!

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。