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―― 第二章 ―― 紅い血の刻印
【022】おまじないの紙 ※彼女
秋の放課後。
既に下校時間は過ぎているのだが、そこには少女が残っていた。
彼女の座る机には、半紙がある。墨の良い香りがする。
彼女は丁寧に、半紙に六芒星を描いた。
そして筆を置くと、一息つく。こめかみから汗が零れているのは、緊張からか。外気は次第に寒くなりつつあるが、高揚感で体は熱い。先に、このあと行う作業より先に、彼女は硯と筆を片付けた。そして父の書斎からこっそり持ってきた銀のペーパーナイフを手に取る。それを握った時、初めて彼女は身震いをした。けれど、けれどだ。どうしても願い事を叶えたい。あとは、自分の血を、六芒星の中央に垂らすだけ。それを図書室にある中で、自分が一番好きな本に挟んでおくだけ。名前を書いたり願いを書いたりはしない。だから誰かにこの『おまじない』が露見しても、身元は特定されない。
彼女には願いがあった。
――斑目先生が好き。
斑目恭也は、この黒椿女学院で国語を担当する教諭だ。独逸人と日本人のハーフで、教職に就く前は片側の親の母国独逸に洋行していたのだという。柔らかな物腰で、いつも微笑を湛えている。彫りの深い顔立ちで、その目の色はわずかに青い。髪は暗い金と茶の間の色。背は高いがどこか中性的にも見える雰囲気で、子どもらしく形の良い瞳を細めて笑う姿が、彼女は好きだった。
――斑目先生と逢瀬がしたい。
――斑目先生と接吻してみたい。
――手を繋ぐだけでも構わない。
――二人きりで、そばにいたい。
彼女はそう考えながら、切れ味の良いペーパーナイフで、己の右手の表面を傷つけた。そしてぽたりと、血を六芒星の中央に落とす。それから慌てて血をハンケチで拭き、鞄にしまってから紙を折りたたむ。折り方には決まりはないらしい。
それを持って立ち上がり、彼女は足早に図書室へと向かう。そんな彼女を見ている者は誰もいない。次第に遠ざかっていった彼女の背は、教室からも見えなくなった。ただ足音だけが、響いて消えた。
既に下校時間は過ぎているのだが、そこには少女が残っていた。
彼女の座る机には、半紙がある。墨の良い香りがする。
彼女は丁寧に、半紙に六芒星を描いた。
そして筆を置くと、一息つく。こめかみから汗が零れているのは、緊張からか。外気は次第に寒くなりつつあるが、高揚感で体は熱い。先に、このあと行う作業より先に、彼女は硯と筆を片付けた。そして父の書斎からこっそり持ってきた銀のペーパーナイフを手に取る。それを握った時、初めて彼女は身震いをした。けれど、けれどだ。どうしても願い事を叶えたい。あとは、自分の血を、六芒星の中央に垂らすだけ。それを図書室にある中で、自分が一番好きな本に挟んでおくだけ。名前を書いたり願いを書いたりはしない。だから誰かにこの『おまじない』が露見しても、身元は特定されない。
彼女には願いがあった。
――斑目先生が好き。
斑目恭也は、この黒椿女学院で国語を担当する教諭だ。独逸人と日本人のハーフで、教職に就く前は片側の親の母国独逸に洋行していたのだという。柔らかな物腰で、いつも微笑を湛えている。彫りの深い顔立ちで、その目の色はわずかに青い。髪は暗い金と茶の間の色。背は高いがどこか中性的にも見える雰囲気で、子どもらしく形の良い瞳を細めて笑う姿が、彼女は好きだった。
――斑目先生と逢瀬がしたい。
――斑目先生と接吻してみたい。
――手を繋ぐだけでも構わない。
――二人きりで、そばにいたい。
彼女はそう考えながら、切れ味の良いペーパーナイフで、己の右手の表面を傷つけた。そしてぽたりと、血を六芒星の中央に落とす。それから慌てて血をハンケチで拭き、鞄にしまってから紙を折りたたむ。折り方には決まりはないらしい。
それを持って立ち上がり、彼女は足早に図書室へと向かう。そんな彼女を見ている者は誰もいない。次第に遠ざかっていった彼女の背は、教室からも見えなくなった。ただ足音だけが、響いて消えた。
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