あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第二章 ―― 紅い血の刻印

【031】祓魔七環の家柄

 和服に着替えて待っていると、礼人が帰ってきた。
 出迎えに出た桜子は、その隣にいる舞子を見て、目を瞠る。

「舞子さん」
「こんばんは、桜子さん」

 礼人と舞子を交互に見る。遅くなったのは二人で出かけてきたからなのだろうかと一瞬考えたが、礼人は今日は職員会議だと朝話していた。礼人は嘘をつかない。だからそんな風に考えた自分を恥じた。礼人を信じきれないのは己の弱さだ。

「桜子さん、六角も今日は一緒に食事をすることになったから、先に食堂へ行こう。指示は式神で出しておいたから、準備は整っているはずだよ」

 そういえば礼人は式神を操り、他の場の者と連絡を取れるのだったと思い出す。だが家の人々とまで連絡を取れることに、桜子は少し驚いた。桜子から見ると、邸宅の皆はある意味、“普通”の人間に見えていたからである。

 歩き出した絢人が、少しして振りかえった。

「行こう」

 立ち止まっていた桜子は、我に返って慌てて追いつく。
 礼人を挟んで逆の隣を舞子が歩く。

「桜子さん、六角舞子嬢はね、以前話した祓魔七環の一つ、六角家の人間なんだ。軍属ではないけれど、必要があれば協力してもらっている」

 それを聞いて、桜子は驚いた。いつも凜としている舞子は、今日に限ってはにこやかで、桜子と目が合うと、唇の両端を持ち上げた。

「そういうことですの。礼人様とは長い付き合いだけれど、それ以上でも以下でもないわ」
「そう、ですか」
「ええ、そう。けれど礼人様が、まさか黒椿女学院の高嶺の花の桜子さんを射止めるだなんて、世も末ね。もし礼人様になにかされたら、相談してくださっていいわ? 六角家を通して抗議します」
「え、あ、た、高嶺の花は舞子さんです。私は違いますし、そ、その……礼人様はなにも酷いことをなさったりしません」
「惚気?」
「っ、違います!」

 桜子が赤面しそうになると、中間をゆったりと歩く礼人が咳払いをした。

「六角、俺の評判を下げないように。桜子さん。桜子さんは惚気てかまわないんだよ」

 淡々とした声だったが、さらに桜子は真っ赤になってしまった。

 こうして食堂に到着すると、本当に三人分が用意されていた。
 着席した三人のもとに、給仕の者が飲み物と料理を運んでくる。本日は、最近巷で流行っているのだという肉じゃがだった。

「美味しいわね、私の家はお刺身ばかりだから」

 はぁっと息を吐いた舞子は、いつもは大人びているのに、今日は年相応に見える。

「桜子さんは、暮らしはどう? 四峰邸なら不便はないとは思うけれど」
「はい、よくして頂いてます」

 舞子は普段は寡黙だが、今日は話しやすい。流れる艶やかな黒髪が本当に綺麗だ。

「桜子さんのお話をたくさん聞かせて。ずっともっと親しくなりたいと思っていたの」
「嬉しいです。その……舞子さんのお話も聞かせて下さい」

 二人のやりとりを、辛口の日本酒を舐めながら礼人は聞いている。
 桜子と舞子の前にはリンゴジュースがある。

「私? そうね、六角家は舞に力が宿ると言われるから、小さい頃からひらりひらりよ。あとは呪符かしら」
「そうなんですか」
「その装束が、もう重くって」

 唇を尖らせた舞子が可愛く見えて、桜子は柔らかく笑った。

 こうして歓談しながら食事をし、そのあと舞子は、迎えに来た六角家の馬車で帰っていった。見送りに立った桜子が馬車が小さくなっていく姿を見ていると、そっと礼人が桜子の手を握る。

「桜子さん。なにか、だからその……ええと」
「礼人様?」
「六角と俺の仲を誤解したの?」
「え、え?」
「もしそうなら、誤解させた方が悪いと俺は思うけど、もっと俺を信じてほしいよ」
「礼人様はなにも悪くなんてありません。私、私……」
「誤解はしたんだ?」
「……はい」

 素直に桜子が頷くと、礼人がギュッと手を握った。

「僕には桜子さんだけだよ」

 その言葉に、ぽぉっと桜子の頬が熱くなる。体がふわふわする心地だ。

「そろそろ中へ入ろうか。随分と寒くなったから、風邪を引いてもかなわないしね」
「はい」

 こうして二人は、手を繋いで邸宅の中へと戻った。
 星が瞬く夜だった。


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