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―― 第二章 ―― 紅い血の刻印
【035】狂った予定に嗤う ※修道会
「あら、戻ったのね」
黒いローブ姿のイリスの脇にあった椅子にどかりと座ると、斑目が片足を、もう一方の膝の上に載せた。そしてそばの、儀式用の赤ワインを手に取りコルクを抜くと、ぐいっと傾ける。幸い、黒薔薇修道会の信者は、今はここには誰もいない。
「どうでしたの?」
「うん。意識のない桜子嬢を盾にして、礼人先生……四峰礼人が撃ちたいのに撃てなくて苦しそうな顔をしているのを楽しんで眺めすぎたよ。まさか桜子嬢が僕の暗示空間を壊すとはね。それで計画が狂った」
「なるほど、無様に逃げてきたということね」
「イリス。きみはそういうところだよ。言い方」
「あえて嫌味を投げかけているのだけれどね?」
「あ、はい」
斑目はそう言って笑いながら、ドンとワインを白いクロスの上に置く。中身が少し飛び散り、純白に見えるある者の聖骸布を、赤く濡らした。どうせこんな小道具、いくつでも作れる。
「計画通りだったらどうなっていたの?」
「うん? 礼人先生の前で、彼の花嫁の血を思う存分堪能して、暗示で僕を好きだと言わせて寝取った気分を味わわせ、そのまま奪って此処に連れてきて、新しい暗示をかけて、それで――きみのいう象徴に据えておこうと思っていたよ」
「四峰礼人のほうはどうするつもりだったの? 彼が指をくわえてみていると本気で思っていたのなら愚策ね」
「怒りに我を忘れているような、感情がなにかに傾いている状態というのは暗示をかけやすい。機を見て、あちらにも暗示をかけるつもりだったさ」
「一体どんな?」
「さぁ? 【嫌な思い出】を繰り返し見て抜け出せなくさせて、そのまま衰弱死させるすべだから、何が嫌な思い出かは人による」
「ふぅん。吸血鬼にも色々あるのね。血を飲む以外にも」
「人間より長生きだから、色々と知恵も付くさ」
斑目はイリスとそう語りあいながら、イリスの黒いローブの下に覗く行灯袴を見た。
「僕は餌場からはもう離れるけど、きみはあの女学院にまだ通うのかい?」
「ええ、そうよ、斑目先生。私、面白いものは近くで高みの見物をしているのが好きなの」
イリスが喉で笑った。
ローブから見える口元には、まるで戯れに蜻蛉の翅を切って喜ぶ子どものような笑みが浮かんでいる。
「百鬼夜行までに、矮小な人間の忌々しい力を削いでおかなければね」
「怖いねぇ。僕はこの国で、あやかしと呼ばれる存在が、そんなにいいものだともおもわないけどな」
恐や恐やと斑目が笑う。イリスは肩を竦めるだけで、何も答えなかった。
黒いローブ姿のイリスの脇にあった椅子にどかりと座ると、斑目が片足を、もう一方の膝の上に載せた。そしてそばの、儀式用の赤ワインを手に取りコルクを抜くと、ぐいっと傾ける。幸い、黒薔薇修道会の信者は、今はここには誰もいない。
「どうでしたの?」
「うん。意識のない桜子嬢を盾にして、礼人先生……四峰礼人が撃ちたいのに撃てなくて苦しそうな顔をしているのを楽しんで眺めすぎたよ。まさか桜子嬢が僕の暗示空間を壊すとはね。それで計画が狂った」
「なるほど、無様に逃げてきたということね」
「イリス。きみはそういうところだよ。言い方」
「あえて嫌味を投げかけているのだけれどね?」
「あ、はい」
斑目はそう言って笑いながら、ドンとワインを白いクロスの上に置く。中身が少し飛び散り、純白に見えるある者の聖骸布を、赤く濡らした。どうせこんな小道具、いくつでも作れる。
「計画通りだったらどうなっていたの?」
「うん? 礼人先生の前で、彼の花嫁の血を思う存分堪能して、暗示で僕を好きだと言わせて寝取った気分を味わわせ、そのまま奪って此処に連れてきて、新しい暗示をかけて、それで――きみのいう象徴に据えておこうと思っていたよ」
「四峰礼人のほうはどうするつもりだったの? 彼が指をくわえてみていると本気で思っていたのなら愚策ね」
「怒りに我を忘れているような、感情がなにかに傾いている状態というのは暗示をかけやすい。機を見て、あちらにも暗示をかけるつもりだったさ」
「一体どんな?」
「さぁ? 【嫌な思い出】を繰り返し見て抜け出せなくさせて、そのまま衰弱死させるすべだから、何が嫌な思い出かは人による」
「ふぅん。吸血鬼にも色々あるのね。血を飲む以外にも」
「人間より長生きだから、色々と知恵も付くさ」
斑目はイリスとそう語りあいながら、イリスの黒いローブの下に覗く行灯袴を見た。
「僕は餌場からはもう離れるけど、きみはあの女学院にまだ通うのかい?」
「ええ、そうよ、斑目先生。私、面白いものは近くで高みの見物をしているのが好きなの」
イリスが喉で笑った。
ローブから見える口元には、まるで戯れに蜻蛉の翅を切って喜ぶ子どものような笑みが浮かんでいる。
「百鬼夜行までに、矮小な人間の忌々しい力を削いでおかなければね」
「怖いねぇ。僕はこの国で、あやかしと呼ばれる存在が、そんなにいいものだともおもわないけどな」
恐や恐やと斑目が笑う。イリスは肩を竦めるだけで、何も答えなかった。
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