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―― 第三章 ―― 祝言と聖夜
【037】祝言前夜
天羽家の父兄は拘束中であり、姉は別途聴取を受けている。ただ、姉は時に言動が支離滅裂になるそうで、見張りの者に送らせて天羽家に帰しておくことも多い。
そんな状況であるから、結納などの正式な儀式は色々と困難がつきまとう。
そこで、それらはせずに、祝言だけを行ってしまおうということで話がまとまった。まとめたのは、家族代わりとして見合いの席に出た一条大佐と、礼人の実の伯母である鞠子だ。女学院にも不穏な事態が多いため、卒業までは待てないというのが二人の判断で、それでも礼人が桜子の意向を尊重したから、今年度までは通うことに決まっている。
あの後、『斑目という教諭はいなかった』と誰もが証言した。どうやら周到に、最初から生徒や教職員全員に暗示をかけていたようで、事情を知る舞子を除けば、他にはそれこそ桜子や、礼人といった軍関係者しか知らない。
「軽薄そうに見えて、かなりの実力があったと見るべきだね」
ぽつりと、礼人はそう零した。
「え?」
顔を上げた桜子が振りかえる。桜子は、目の前に飾られている白無垢を見ていた。本当にこの品を己が着るのか。まだ実感がわかない。彼女の隣に礼人が立つ。
「なんでもないです」
「そうですか」
「いよいよ祝言も明日ですね」
「……はい」
桜子は頬を染めた。だいぶ感情が豊かになった。
現在は四峰家の中においては、和風建築の別宅にいる。四代前の本宅だ。結婚式は自宅でやるのだが、代々行われてきたのが、この家で、今二人はそこにいる。古き良き祝言とする予定であり、別段教会などにいく予定はない。ただ財閥の関連で、祝言の数日後には、帝國椿ホテルの大広間で、あやかし以外の仕事や家でつきあいのある関係の者を招いた披露宴を予定している。
「急がせてしまってごめんね」
「い、いえ。あの……嬉しいです、きちんと家族になれるんだと感じて」
「俺も、そうかもしれない。うん、そうだね。同じ気持ちみたいだ」
そう言うと、そっと礼人が桜子の肩に触れた。前はいちいち配慮して手を止めていた礼人は、好きなようにしていいと桜子に言われてから、やはり手つきは優しいけれど、時々こうして桜子に触れるようになった。その感触が、桜子は嬉しい。
「料理は岡崎と、岡崎が信頼している弟子達が手伝いに来てくれると言うから安心だね。あとは――そう、お祖父様が帰ってくる」
「どんな方ですか?」
「それは直接会って判断してもらえると嬉しいな」
悪戯っぽい目をして礼人が言う。きっと端から見たら無表情なのだろうが、桜子にはよく分かった。二度桜子は頷く。
こうして二人は、祝言の日に備えた。
そんな状況であるから、結納などの正式な儀式は色々と困難がつきまとう。
そこで、それらはせずに、祝言だけを行ってしまおうということで話がまとまった。まとめたのは、家族代わりとして見合いの席に出た一条大佐と、礼人の実の伯母である鞠子だ。女学院にも不穏な事態が多いため、卒業までは待てないというのが二人の判断で、それでも礼人が桜子の意向を尊重したから、今年度までは通うことに決まっている。
あの後、『斑目という教諭はいなかった』と誰もが証言した。どうやら周到に、最初から生徒や教職員全員に暗示をかけていたようで、事情を知る舞子を除けば、他にはそれこそ桜子や、礼人といった軍関係者しか知らない。
「軽薄そうに見えて、かなりの実力があったと見るべきだね」
ぽつりと、礼人はそう零した。
「え?」
顔を上げた桜子が振りかえる。桜子は、目の前に飾られている白無垢を見ていた。本当にこの品を己が着るのか。まだ実感がわかない。彼女の隣に礼人が立つ。
「なんでもないです」
「そうですか」
「いよいよ祝言も明日ですね」
「……はい」
桜子は頬を染めた。だいぶ感情が豊かになった。
現在は四峰家の中においては、和風建築の別宅にいる。四代前の本宅だ。結婚式は自宅でやるのだが、代々行われてきたのが、この家で、今二人はそこにいる。古き良き祝言とする予定であり、別段教会などにいく予定はない。ただ財閥の関連で、祝言の数日後には、帝國椿ホテルの大広間で、あやかし以外の仕事や家でつきあいのある関係の者を招いた披露宴を予定している。
「急がせてしまってごめんね」
「い、いえ。あの……嬉しいです、きちんと家族になれるんだと感じて」
「俺も、そうかもしれない。うん、そうだね。同じ気持ちみたいだ」
そう言うと、そっと礼人が桜子の肩に触れた。前はいちいち配慮して手を止めていた礼人は、好きなようにしていいと桜子に言われてから、やはり手つきは優しいけれど、時々こうして桜子に触れるようになった。その感触が、桜子は嬉しい。
「料理は岡崎と、岡崎が信頼している弟子達が手伝いに来てくれると言うから安心だね。あとは――そう、お祖父様が帰ってくる」
「どんな方ですか?」
「それは直接会って判断してもらえると嬉しいな」
悪戯っぽい目をして礼人が言う。きっと端から見たら無表情なのだろうが、桜子にはよく分かった。二度桜子は頷く。
こうして二人は、祝言の日に備えた。
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