あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第三章 ―― 祝言と聖夜

【043】ドレスを仕立てる

 青木屋夫妻がいくつもの品を持って四峰伯爵邸を訪れたのは、その二日後だった。
 洋装、ドレスやイヤリング、ネックレスや鞄、繊細な袖の長い手袋や洗練された靴、上着からなにから、一式が、部屋に並べられていく。一人がけの椅子が二脚。そこに礼人と桜子が、斜めに向かい合って座る前で、広げた品々を、奥方が説明し、主人は同伴した店の者に指示を出していた。

「すごいですね……ここがお店みたい」
「そうだね。ただ俺は、時間があるなら、自分で買いに行く方が好きだけど」
「私も……実際に礼人様の隣で見る方が好きです」
「同じ気持ちです」

 二人が視線を交わして、どちらともなく柔らかな表情をする。
 青木屋夫妻はそれを優しい目で見ている。

「ドレスはどのような色がご希望ですか?」
「わ、私……ドレスを着たことがなくて……」
「それはそれは、初めて仕立てさせて頂くが誉れ。より気合を入れなくっちゃ、ねぇ?」

 女将さんがご主人に声をかけると、満面の笑みで頷いていた。

「礼人様――旦那様は、奥様のドレスの色にご希望は?」
「そうだね。桜子さんは、優しい色も落ち着いた色も似合うと思うよ」
「赤系統・青系統・緑系統などだといかがですか?」
「桜子さんが着るのだから、彼女の好みを優先して下さい」
「それもそうでございますね。ふふ。桜子奥様は、何色がお好きですか?」
「え、あ……あの……わ、私……」

 桜子は悩んだ。それからちらりと礼人を見て、礼人の目の色を目に留める。

「……緑が好きです」
「若々しくて素敵でございますね。緑ならば、華やかにも落ち着いたものにも合いますが、桜子様の細身のしなやかな体型ですと、少し大人びていてもよいかもしれませんね。礼人様と釣り合いが取れそうです」
「それは俺が老けてるって意味ですか?」
「いえいえ、桜子様がまだお若いと申しているのですよ」

 くすくすと笑う青木屋のご婦人に、礼人も本気で気を害した様子はない。
 その後その日は、皆で衣装を選んだ。

「それではこれで仕立てさせて頂きますね」

 そう述べて、青木屋の人々は帰っていった。ほっと一息ついた桜子の前に、詩乃が紅茶のカップを置く。先にカップを置かれた礼人は、手を伸ばしている。二人でほぼ同時にカップを持つと、一口飲み込み桜子は息を吐いた。

「私があのように高価な品を揃えて頂くのは、分不相応ではないでしょうか……」
「華族だからある程度、家格を誇示する必要がある」
「……」
「と、俺は思っているわけではないよ。着たくなければ、無理に着る必要は無いと思っています。ただ」
「ただ?」
「俺が見たかったんです。桜子さんがドレスを着た姿を」
「っ」
「前夜はイブというんだって。イブの夜会みたいなものは、そもそも俺は好きじゃないんだよね。けど、桜子さんが一緒なら、行ってもいいかと思って。社交界デビューになるというのも本当だけど」
「……礼人様」
「だから、価格だけが問題で、着ることが嫌じゃないのなら、俺のために身につけて」

 礼人が淡々とそう言った。本当にそう思っているという顔で、自然な口調だ。桜子は、自分だけがその言葉に照れてしまっている気がしながら、ゆっくりと紅茶を飲み込んだ。
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