あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第三章 ―― 祝言と聖夜

【045】初雪と欲しいもの

 夜会の翌朝。
 遅くに帰宅した桜子は、少し日が高くなってから目を覚ました。
 慌てて身支度を調える。和装はやはり安心する。
 臙脂えんじ色の和装に帯を締めてから階下へ向かうと、応接間にある暖炉に火が入っていると聞いた。そこに礼人がいると、執事の遠藤が言う。真っ直ぐにそちらへ向かって扉を開けると、バチバチと炭がぜる音がした。

「おはようございます、桜子さん」
「おはようございます」
「これ」

 長椅子に座っていた礼人が、テーブルの上の大きな箱を視線で示す。

「朝ご飯にしていいのかは分からないけどね」
「?」

 礼人が箱を開けると、そこには綺麗にデコレーションされたクリームケーキが入っていた。苺が飾られている。

「あ! ケーキ」
「一緒にケーキを食べたいって言ってたから。プレゼントはそれがいいって」
「はい!」

 覚えていてくれた。それが嬉しくなって、桜子は満面の笑みを浮かべた。すると礼人は少し照れくさそうな顔をしてから、懐から包装された小箱を取りだし、桜子に差し出す。

「これは俺があげたかったからあげる贈り物です」
「まぁ……二つも」
「実質一つみたいなものだけれどね。良かったら開けて」
「はい!」

 素直に桜子があけると、中には翡翠の綺麗な簪が入っていた。
 ただし細工は、西洋風だ。

「わぁ……綺麗……」
「和洋折衷が流行しているんだって、本当かは知らないけれどね。ただ桜子さんには似合うと思います」
「ありがとうございます」
「貸して」

 その場で、礼人が桜子の髪に簪を挿した。
 二人がそんなやりとりをする前で、詩乃や小春を始めとした女中達がケーキを切り分けた。
 その後運ばれてきたフォークを、二人は手に取る。

「いただきます。ありがとうございます、礼人様」
「うん、いただきます」

 こうして口に含んだ生クリームは蕩けそうで、桜子は頬を持ち上げる。
 すると礼人が問う。

「ご希望に添えましたか?」
「はい。十分すぎるほど嬉しくて、今日の思い出は宝物です。あ、あの、礼人様」
「ん?」
「礼人様はなにが欲しかったんですか? 私、何も用意していなくて……」

 桜子の声に、礼人はフォークをくわえて、一拍おいてから、それを口から離して顔を背けた。

「俺は一年中休暇が欲しいと思ってるよ」
「礼人様……それは私にはどうにもなりません」

 礼人の声にくすりと桜子が笑う。すると桜子へと向き直った礼人が、優しい目をした。

「俺はもう、プレゼントを貰ってるよ」
「え?」
「きみの願いを叶えられたなら、それが最高のプレゼントだからね。俺はそれが欲しかった」

 微笑した礼人を見て、桜子は真っ赤になった。最近、礼人の隣にいると、頬が朱くなってばかりだし、胸がトクンと疼いてばかりだ。

 窓の外には、綿雪が降っている。今日は一段と寒い。
 けれど、桜子の心は温かかった。


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